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40.許可

「フィリナ! 起きろフィリナ!」


 目を開ける。

 一瞬、ルティアさんが起こしてくれたのかと思ったけれど、目の前にいるのは、口元を布で覆ったキコアだった。


 周囲を見回す。騎士たちも口元を布で覆っている。

 野盗たちはみんな地面に転がっている。

 動かない者、ケガをしている者、ラエリンに殴られている者……。


「戦いは終わったの? そうだ、ルティアさんと御令嬢は?」


 馬車の扉が開け放たれていて、中では呆然としている御令嬢の姿が見て取れた。

 ばあやは外に出ているけれど顔色が悪い。

 それでも無事みたいでよかった。

 私は、あの催眠ガスの煙幕で眠ってしまったんだな。


「使用人の姿でナックルを手にしていたことから、敵は本物の御令嬢だと見抜けなかったようです」


「え……ええ。そのようですね」


 ウィナミルさんがばあやに話しかけている。

 どうやら森の中の弓兵はやっつけられたようだ。


「ねぇキコア。ルティアさんは?」


「……さらわれた」


「え?」


「ルティアはさらわれたんだ」


 そんな。急いで馬車に駆け寄って中を見る。

いない。御令嬢が申し訳なさそうに私を見るだけだ。

 もう一度、周囲を確認する。やっぱりいない。


「キコア、私はどれくらい眠っていたの?」


「ほんの少しだ。アイツら、眠っているルティアを御令嬢と間違えたんだろうな。ルティアを奪うと、すぐに逃げて行きやがった」


 あのとき。馬車が煙幕に包まれると、私は助けに向かって気絶してしまった。

 キコアによれば、煙幕の中から、口元を布で覆った野盗がルティアさんを担ぎあげながら出てきて、森の中に隠していた馬車に乗り込み、すぐにこの場から逃げて行ったという。

 ほかの野盗も馬車に飛び乗って姿を消した。

 この場で倒れている野盗はケガをして置いてかれた者だけだ。


 煙が晴れると、御令嬢とばあやさんが倒れていたという。

 ほんの一瞬の出来事で騎士たちは対応できなかった。

 ウィナミルさんが森の中の敵を倒し、戻ってきたのは、そのあとのこと。

 御令嬢の無事を確認して、今に至るという。


 私はキコアに聞いた。


「敵の馬車はどっちに行ったの?」


「向こうだ」


 指のさす先は、伯爵領の方向だ。進行方向の逆方向だ。


「ウィナミルさん。コイツらいくら殴っても、なにも吐きません」


「そうだろうな。この者たちは本職なんだろう。依頼主の名は墓まで持っていくだろうな」


 私はラエリンとウィナミルさんの会話に割って入った。


「敵の馬車を追いかけましょう。ルティアさんを助けに」


「子爵様の街に急ぐぞ。敵がニセモノを掴まされたことに気付けば、再びやって来るかもしれない。すでに信号弾でラケロパたちを呼び戻している。準備を整えろ。早くっ!」


「ウィナミルさん。ルティアさんは?」


「倒した野盗の全員は連れていけん。一人は尋問にかけるため、縛って荷馬車に乗せろ。あとはこの場で殺せ。貴族を襲ったのだ。どうせ尋問のあとは死刑だ」


「ウィナミルさんっ!」


 背を向け、魔剛馬に向かうウィナミルさんは立ち止まり、振り向かなかった。


「聞こえただろうフィリナ。このまま街へ急ぐ。準備をしろ」


「そんな。ルティアさんは。妹さんはどうなるんですか」


 ルティアさんは御令嬢と間違われてさらわれてしまった。

 助けに行かないといけないんだ。


「これ以上、この場に留まるのは危険だ。我らの任務は子爵令嬢エリザベス様の護送。御令嬢がご無事だったのだ。変更なく任務を全うする」


「そんなっ。私だけでも助けに行かせてください。私の足なら敵の馬車にだって」


「ダメだ。オマエは大事な戦力だ。勝手なマネは許さん」


「じゃあ、この場で解雇して下さい。報奨金はいりません。ルティアさんを助けに」


「いつ解雇するのも雇い主である私の勝手だ。今は解雇させん。絶対にだ」


 そしてウィナミルさんは黙ってしまった。


「助けるって言ったって……アイツらの馬車の魔剛馬、でかかったぞ。こっちの魔剛馬で追いかけても」


 ラエリンが何か言っている。


「私からもお願いしますわ」


 御令嬢が馬車から降りてきた。


「ウィナミル様。何人かでもルティアさんの助けに向かわせて下さいまし」


「いけません。人数を割いては護衛任務に支障をきたします」


「これは命令ですわ」


「私はオスニエル子爵様の命で動いています。あなたの言葉は受け入れられません」


「そんな……」


 御令嬢は黙った。悔しそうに唇を噛みしめている。

 私はウィナミルさんの正面にまわった。


「お願いします。今からでも間にあう。もし敵の馬車が転倒していたら追いつける。ルティアさんが目を覚まして、馬車から逃げ出してこちらに逃げているかもしれない。野盗に追いかけられているかもしれない。迎えに行かないと」


「ダメだ」


 御令嬢もこちらにやってきた。


「私のせいで一人の女の子がさらわれたのです。もう私は、目の前で友人が消えてしまうことは耐えられない。どうか、冒険者だけでも救出に」


「あなたが気に病むことはない」


 キコアもこちらにやってきた。


「ルティアの兄ちゃん。これは、その日暮らしの冒険者の命よりも大事な、カネの元だ。これをやるからフィリナに休憩をやってくれ!」


 キコアは懐から3つの魔石を差し出した。

 オークを退治したときに手に入れた、どうしても欲しがっていた魔石だった。

 ウィナミルさんはそれを無視し、魔剛馬へ歩き出してしまった。

 なにか、ないのか、説得材料。……そうだ。


「あのっ。私ってGランクなんですっ!」


 ウィナミルさんは止まらず、魔剛馬に跨った。


「Gランクは冒険者の初心者です。子爵様の街では兵士にはなれません。なぜなら兵士は冒険者でいうならCランクくらい強いからです。」


 そんなことはないぞという兵士の声が、背後から聞こえてくる。

 私は続ける。


「騎士なんてBランク並の強さです。これは街の冒険者ギルドでは最高ランクです。騎士はそのくらい強いんですよね」


 初耳だぞという騎士の声が背後から聞こえる。

 ウィナミルさん。さっきから動きが止まっている。


「ここには強い人たちがたくさんいます。冒険者の初心者が職場放棄したくらいで、任務に支障はありません」


 ウィナミルさんは黙っている。


「そうですね。たかだか冒険者。しかもGランクとあれば、居てもいなくてもお嬢様の護衛に支障はないかと」


 ばあやさんだった。


「ウィナミル殿。いいではありませんか。こちらとしては冒険者の同行など、当初は聞いておりませんでした。そもそも何人いたのかも覚えておりません。私も歳でしょうか。ええ、たかだかGランク。記憶にもございません」


「そ、そうですわ」


 御令嬢だ。


「冒険者が必要でしたら」


 懐から冒険者証を取り出した。


「ここにも冒険者はいますわ。ランクはなんとFですわ。私も護衛に参加します。これで冒険者は少なくはなりません!」


「勝手にしろ!」


 ウィナミルさんの許可が出た。

 これでルティアさんを助けに行ける!



☆☆☆



「キコア、あとは任せたよ」


「おう。ちゃんと連れ戻して来いよな」


「フィリナさん。お願いしますわ。どうかルティアさんを」


「うん。行ってきます!」


 エオラプトル×俊敏性強化(小)! 

 馬車が去っていったのは伯爵領の方向だ。

 来た道を全速力で引きかえす。追いかける。

 一回の持続時間は1分。


 ダメだ。全然馬車なんて見えてこない。

 1分経過。恐竜と魔法の力を連続使用。

 それでも馬車は捕えられない。


 ……もう10回も連続使用しているのに、追いつけない。

 そもそも私の速さでは全速力の馬にも及ばない。ましてや魔剛馬になんて。


 もし私が馬を操れたのなら。

 これは私の経験不足だ。勉強不足だ。

 ルティアさんとの旅の途中、いくらでも馬術を習う機会はあったのに。


 私はキコアの忠告も聞かずに煙幕に突っ込んだ。そして眠ってしまった。

 キコアや騎士は口元を布で覆っていた。

 それにひきかえ私は。これは不注意だ。

 私が眠っていなければルティアさんがさらわれることを阻止できていたはずなんだ。


 野盗との戦いでは躊躇してしまった。

 剣で容赦なく斬り伏せていれば、それだけ何人もの野盗を倒せて、誘拐を防げたはずなんだ。


 全部私のせいだ。

 強い魔法を使えたって、Gランクなんだ。

 ファイヤーゴブリンとの戦い。

 ルティアさんは私が諦めたとき、助けに来てくれた。

 今度は私が助けたい。


 魔法。神様がくれた特技。大切な人を救うため、力を貸して……


 ……そうだ。ファイヤーゴブリンとの戦いで、私は残りの魔力の全てを使って、ブルカノドン×火炎の魔法を放ったんだ。

 残りの魔力を全部、俊敏性強化(小)にあてがえば。


「今日、魔法を使った回数は……」


 野盗との戦いで4回使った。走り出してから10回目だ。それぞれの消費魔力は2。

 残り72。

 一度に魔力を20使えば、10倍の速さで走ることができれる!


「うわぁぁ! 力を貸して恐竜! 上手くいけ魔法!」


 エオラプトル×俊敏性強化(小)、消費魔力10倍!

 そう念じて踏み込んだ第一歩。足下の地面が爆発した。

 よろける。足がいつも以上にまわりはじめたからだ。

それでも身体は軽い。バランスを取って走り始める。周囲の景色が流れていく。


「これなら!」


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