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4.ステータスオープン!

 私が生まれ変わると、フィリナちゃんという女の子だった。リオハ村の村長の孫娘で、次期村長として村人から信頼されていた人の娘だ。

 兄弟姉妹はおらず、母親は数年前に亡くなっている。この度、父親も亡くなった。

 すると次期村長はフィリナちゃん、つまり私になるのだろうか。

 そんな単純な話ではない。フィリナちゃんには伯父がいるのだ。

 

 10年以上前、伯父は次期村長という身分でありながら村を捨てた。冒険者になると言って、子爵様という偉い人が治める街へ行ってしまったのだという。

 辺鄙な村よりも街へ出て冒険者として活躍し、贅沢な暮しを手に入れたかったのだろうとオバサンは教えてくれた。


 けれど伯父は数年前に帰って来たのだ。なんでも冒険者の仕事も簡単ではない。

 10年も仕事をしても贅沢できるほどの階級には届かず、自身に伸び代がないことを痛感し、村に戻って来たそうだ。


 伯父は村長業を引き継ぐつもりでいた。けれど時既に遅かった

 成長した弟であるフィリナちゃんの父親が年老いた村長の代理として活躍していたのだ。

 弟は村人に慕われ、結婚して娘ができていて、ほとんどの村人が次期村長として弟を推していたのだ。


 帰って来た伯父にとっては面白くない。この数年間、伯父は弟の陰で生活を送っていた。何人かの村人は帰って来た伯父に嫌味くらい言ったのだと思う。


 さらにこのほど事件が起きた。

 南西にある隣村の近くでは果物が自生している。リオハ村も、村で採れた作物と交換する形で、隣村から果物をわけてもらっていた。

その日、伯父は作物を持って隣村へ果物をもらいに行ったのだ。


 そこで伯父は隣村の近くで複数のゴブリンを目撃する。

ゴブリン。この世界の魔物。だけど、さほど怖い魔物ではないという。

 しかし群れを引き連れて隣村を襲いでもしたら困る。

 収穫期にもなれば隣村の作物はもちろん、周辺に自生している多くの果樹も実りを迎える。ゴブリンの群れに作物や果実を横取りされるのは、リオハ村としても困るのだ。


 そこで伯父は村長に相談した。村長はフィリナちゃんの父親と複数の村人をゴブリン退治に行かせたのだ。フィリナちゃんも付いていった。

 けれど伯父は付いていかなかった。どうも弟と同行する村人たちと仲が良くなかったらしい。

 そもそも伯父にはゴブリン退治を買って出るような友人がいないというのも事実だそうだ。だから村長と伯父は弟たちに任せたという。


 こうしてフィリナちゃんたちは隣村へゴブリン退治に向かった。

 しかしいつまで経っても帰って来ない。隣村でもてなしを受けているにしても遅すぎる。


 村の人が迎えに行ってみれば、そこにいたのはゴブリンではなく、見たことのない魔物。ファイヤーゴブリン。

 この世界には魔物がいる。村人にとって魔物は遭遇してしかるべきもの。

 けれども全身が燃えさかる魔物なんて見たことも聞いたこともない。

 一目で敵わない魔物だと悟ったという。


「隣村にはゴブリンなんていなかった。最初からファイヤーゴブリンがいたのさ。出くわしたら殺されちまう。アンタの伯父はそれを分かっていた。弟と仲間たちが邪魔だった。ファイヤーゴブリンを使ってアンタのお父さんを殺したんだ」


 オバサンは涙目で怒っていた。オバサンの言うことが本当だとしたら、伯父は自分の弟と村人、さらに姪までも罠に嵌めたことになるのだ。

 村長であるお祖父さんは「そんなことはない」と言いきって、村のみんなを黙らせたそうだ。


村長は伯父のことを信じている。

村人は伯父のことを疑っている。

そして伯父は、罠に嵌めた件を否定しているという。


 面倒なことになった。元いた世界では子供の頃に両親を亡くし、叔父に引き取られた私は、血のつながらない伯母と従妹に煙たがられていた。

 職場では正社員の女性に邪険にされた。

 別の世界で生まれ変わってみれば、両親は亡くなっていて伯父とは複雑な関係だ。


「神様はどうしてこんな境遇の子供に私を生まれ変わらせたんだろう」


 伯父といえば早朝に家に帰って来たのだ。

 なんでも真夜中にファイヤーゴブリンが村に侵入してきたら大変だからと、徹夜で村の外を見張っていたらしい。

 村にはやぐらがある。村で一番の高い建物に上り、村の外を警戒していたという。

 いま伯父はファイヤーゴブリンの犠牲となった人たちの墓穴を掘っている。


「あの人の目、化け物を見るような目をしていたな」


 伯父が夜の番から帰って来たとき、焼死体から復活を遂げたフィリナちゃんを見た伯父は、まさにそんな目をしていた。当然だ。ポーションでは人は生き返らないのだから。

 伯父にとって弟家族が死んだ場合、次期村長の座は自分の物となる。

けれど弟の娘が生きていた。娘は10歳。幼いものの、伯父を慕う村人は少ない。多くの村人は伯父を村長には推さないだろう。

 次期村長は別の誰か。候補の中には少なからず姪であるフィリナちゃんも入っていると思う。

 伯父にとってはフィリナちゃんもライバルなのだ。

 ちなみに伯父は仮眠を取ると言って、私とは一言も話さずに自室へと引きこもった。

 お祖父さんいわく、これは普段の態度だという。伯父は姪と話さない仲なのだ。


「どうして、こんな第二の人生を……」


 伯父は極悪人。これらの情報はオバサンから得たものだ。多分オバサンは伯父のことが嫌いなのだろうけれど、嘘は言っていないと思う。

 隣村にはゴブリンがいる。しかし本当はファイヤーゴブリンだった。

 伯父が正直者だとすれば、隣村の周囲にいたのはゴブリンだったのだけれど、フィリナちゃんたちが隣村に赴いたとき偶然にもファイヤーゴブリンと遭遇したことになる。


「伯父さんが極悪人だったら、私はどうなるんだろう」


 このあと殺される? 村を追い出される? 追いだされたら、どうやって生きれば良い?

 伯父もまだ若そうだ。30歳手前に見える。

 もし伯父が次期村長になったとすれば結婚だってするだろう。

 そうしたとき親のいない姪をどう見るか。お祖父さんだって老いている。いつ死んでもおかしくないと思う。この村には病院は無いんだ。


「最悪の場合、追いだされるだろうな」


 村の誰かが私を面倒見てくれるだろうか。オバサンやヘレナちゃん家族? 楽観はできない。

 私は村の外で生きていくことになる。文明も乏しい、ファイヤーゴブリンなんて魔物がいる世界で。


「きっと、そのための『天職』と『特技』なのかもしれない」


 神様は生まれ変わる私に『天職』と『特技』をくれた。

私は神様に


「『天職』は神様のおススメでお願いします。『特技』のほうは、皆さんが選んだあとの、余ったもので構いません」


 と言ったけど。


 どんな天職と特技なんだろう。私には分からない。思い浮かばないし、目に見えないんだから。

 どうやって天職と特技を知ればいいのか。気のきいたガイドブックなんて持ってない。


 私が子供の頃、従妹が遊んでいたRPGには便利な機能があった。ステータスだ。主人公が客観的に自身の能力を知ることができる。

 この村の雰囲気はRPGに出てきた村に似ている。

 もしかしたら私にはステータスというものがあるのかもしれない。それを見れば『天職』と『特技』だって把握できるはずだ。


「もしも、あればの話だけどね」


 私は立ち上がると、誰もいない村の広場で声を上げた。


「ステータスオープン! ……って、ぎゃぁぁぁ!」


 悲鳴が出た。我に返り、畑のほうを見る。よかった。誰もこちらに気付いていない。

 私は気を取りなおして、左右を睨んだ。私を挟むように、大きな画面が左右に現れたのだ。大きなスマホのような、身長よりも高い長四角の画面だ。


 これがステータスかどうかは分からないけれど、文字や絵のある画面が本当に出た。

実は昨晩から考えていたアイデアだ。ステータスオープンと声に出してみようって。

 でも、やらなくて良かった。昨晩は家の中だ。お祖父さんを驚かせてしまっただろう。


 さてと、本当に出た。じっくり観察してみる。

まずは右側に現れた画面。そこには鬱蒼と生い茂った雑木林……ジャングルのようなイラストがあった。 そこに何体かの奇妙なトカゲが書き込まれている、そんな画面だった。


「なに、これ?」


 これが私のステータス? 文字じゃないよね。

あ、画面の上の文字がある。そこには『天職・異竜戦士』とあった。

 異竜戦士。聞いたことのない職業だ。ファンタジーの世界での職業といえば剣士や魔法使いとか鍛冶屋とか。異竜戦士なんて聞いたことがない。


画面の右側には『→』という記号がある。

『→』を押すと画面が切り替わり、先ほどよりは明るい風景を描いたイラストになった。そこに描かれているトカゲの種類も増えている。


「このトカゲ……恐竜だよね」


 描かれているのは恐竜だ。すると画面は大昔を描いたものなのだ。

 恐竜。そう聞くと、かつて死んだ両親を思い出す。両親は恐竜が大好きだった。私は興味なし。大昔に死んでしまった巨大なトカゲなんか好きにはなれないんだ。


 二つ目の画面にも右側には『→』のマークがある。左側には『←』もある。

 『→』に触れると画面が切り替わり、別の絵になった。ここでも多くの恐竜が描かれていた。

 その絵の左端にも『←』、右側には『→』のマークがある。ここでも『→』のマークを押せば画面が切り替わる。


「うえぇぇ……」


 ここでも多くの恐竜のイラスト。中には空を飛んでいるものもいる。こちらは確か翼竜だっけ。二足歩行の猛々しい恐竜の姿もある。ああ、名前は確かティラノサウルスだ。

 恐竜のイラストが私の天職だというのだろうか。私、女の子なのに。


「そもそも私は魔竜とかいうドラゴンに噛み殺されたっていうのに、神様はどうしてこんなイラストを見せるんだろうな」


 魔竜と恐竜。似てはいないけど、どちらも大きなトカゲなのだ。

 私は魔竜に殺された。殺されたはずなのに当時の恐怖や悲しみが湧きおこって来ない。これも神様の配慮なのかな。


 画面左の『←』のマークに触れると、三枚目のイラストに切り替わる。画面右の『→』に触れると再び四枚目のイラストに変わった。画面右には、もう『→』のマークは無い。

 四枚あるイラストを表示する画面のようだ。


 何気なくティラノサウルスの絵に触れてみる。するとティラノサウルス以外の恐竜や風景に薄い陰が落ちた。ティラノサウルスのイラストだけが、くっきりと表示される。

 さらにイラストの上に『ティラノサウルス』という文字が浮かんだ。

 そして画面下にも文字が浮かび上がったのだ。


『選び続ける』

『これに決める』

『やめる』


週末の貴重なお時間を拙作に割いていただきありがとうございます。

22時前には第5話を投稿したいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

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