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36.VSオーク

 子爵様の街を出て7日目。

 岩山の道から下界の森に目を凝らせば、オークの群れに追われている人影を見つけた。


「よく見つけたものだな。知らぬまま森に差し掛かれば、我々も襲われていたかもしれない」


「私は元冒険者です。魔物を警戒しながら進むことは容易いものですから」


 ラケロパさんが謙遜している。

 私なら見つけられなかった。


「で、どうするんだ」


「このまま下りれば交戦となるだろうな。ほかに道があればいいが」


 ウィナミルさんがキコアに応えると、下界を見下ろしていたルティアさんが振り向いた。


「誰かがオークに追われています。助けないのですか」


「我らの任務は御令嬢の護送だ。まだ任務すら始まっていない。ここで人員を欠くことがあれば騎士団の恥だ。人助けなどしている余裕はない」


「そんな……」


 ルティアさんが悔しそうに表情を歪ませた。


「追われている人は冒険者かもしれません。だとしたら仲間です。力なき旅人かもしれません」


「だからどうした」


「う……私だけでも助けに行きます。魔剛馬を貸して下さい」


「バカを言うな。オマエの雇い主は私だ。勝手な真似は許さぬ」


 ルティアさんは黙ってしまった。辛そうに視線を落としている。


「優しいオマエは騎士には向いていないのだ。さて、迂回路はないだろうか」


 下界に目を這わすラケロパさんにウィナミルさんは聞く。


「ウィナミル殿。時間を下さい」


「よし、時間をかけて探してくれ。安全な道がなによりだ」


 ウィナミルさんは、俯くルティアさんに近づいていく。


「時間がかかるそうだ。ルティア、たしか冒険者はDランクで将来は騎士になりたいのだったな」


「え?」


「成長したオマエの力を見せてみろ。そうだな、ちょうど進行方向に邪魔な魔物がいる。速やかに退治して見せろ」


「え、あ……」


「食堂のメイドではない所を兄に披露しろと言っているのだ」


「は、はいっ!」


 ウィナミルさんはみんなに向き直った。


「騎士と兵は迂回路を見つけてくれ。私は冒険者を引き連れてオークを退治しに行く」


 ルティアさんは騎士が譲ってくれた魔剛馬に跨った。


「ルティアさん、私も行くよ」


「俺もだぜ」


「自分も同行させて下さい」


 ラエリンも来るのか。

 私たちはオークに追われている人を救出しに向かった。




 魔剛馬で岩山を駆けおりて、森の中の道を進む。


「この辺だったよな」


 手綱を握るウィナミルさんのうしろ跨るキコアが森を見ている。


「きゃああっ」


 女の人の悲鳴が聞こえた。

 私はルティアさんは魔剛馬から降りると、森に分け入った。

 ほどなく進むと、眼鏡をかけた女性が座りこんでいて、オークに襲われる寸前だった。


「無理無理無理! どうして、こんなことに!」


 叫んでいる。この世界にも眼鏡はあったんだ。


「ミック! 力を貸して!」


「ニャア!」


 猫の妖精ミックが現れ、ルティアさんの背中にスゥっと入っていく。

 ルティアさんの頭には猫耳、腰には尻尾が生えた。

 彼女は獣のような勢いで、オークに掴まれそうになっていた女性を救出。よかった。


 それにしてもオークだ。3メートルくらいある鬼のような魔物だ。

 こん棒や丸太を振り回している。ゴブリンリーダーは熊のように大きかったけれど、こっちはもっと大きい。

 ルティアさんは素早い動きでオークの一体を追いつめていく。

それでもオークの数は20体以上いる。


「ルティア、加勢するぞ!」


 キコアが鉄製の槍でオークに挑む。

 ラエリンもやって来て抜刀した。


「フィリナ、俺を援護しろ」


 え、やだ。

 女性を守るため果敢に挑むルティアさん。優しいというか正義感が強いというか。


「私もそんなルティアさんに何度も助けられたんだけどね」


 今度は私が助ける番だ。

 だけど今はウィナミルさんの前。ルティアさんを活躍させないと。


「こんなときは、クリオロフォサウルス×冷凍!」


 冷気の風をオークたちの下半身に噴射。

 みるみる凍りついていき、オークたちは足を止める。

 それでもオークは手にした棍棒で下半身を封じている氷を砕こうとした。


「大人しくしていてよ!」


 オークの腕にも冷気の風を浴びせて、氷漬けにしてやった。

 これでオークはしばらく、無防備な上半身を晒している状態だ。


「今ですルティアさん。オークをやっつけてしまって下さい!」


「え……はいっ!」



☆☆☆



「やったぞ。俺は6体のオークにトドメを刺したんだ!」


 ラエリンが喜んでいる。

ルティアさんは逃げていた女性に手を差し伸べていた。


「ウィナミルさん、ルティアさんがオークを倒しましたよ。10体以上です」


「ああ。そうだな」


 女性のもとへ向かうウィナミルさんに声をかけた。

ところが喜ぶことなく、女性に向かっていく。


「こういうことはやめた方が良いぜ」


「キコア?」


「ルティアのためを思ってやったんだろうけれど、逆効果だ。あれじゃあフィリナがすごい事を知らしめただけだぜ」


「どうして?」


「あれだけのオークの群れを魔法で足止めさせて無力化したのはフィリナだろ。Gランクの俺でさえ、安全にトドメをさせた。本来ならCランク冒険者が戦う魔物なんだぞ。ああ、支部長にも見せてやりたい」


 そうなんだ。


「ルティアの兄ちゃん、戦いの最中ずっとフィリナのこと見ていたぜ」


 ルティアさんを助けるつもりが、活躍に機会を奪ってしまった?

 悪い事をしてしまった。

 向こうではラエリンが「よくやった!」と親指を立てている。どうでもいい。


 ルティアさんに謝ろう。

 ルティアさんの横には、オークに追いかけられていた女性がいる。

 疲れ切ったのか、ルティアさんに肩を貸してもらいながら歩きだした。


「助かったのですよ。マリッパ一人では死んでいたのです。皆さんには感謝しかないのです」


 お礼を言う女性にウィナミルさんは、こう答えた。


「キサマ、ただの旅人ではないな。何者だ!」


 何者って。女性はマントをしていて長い髪はボサボサ、眼鏡はずれている。

 私が言うのもなんだけれど、ドン臭そうだ。

 そんな人を警戒するなんて。


「ギクっ!」


「ただの旅人がオークの群れに追われていたとはいえ、無事とは思えない。普通なら既に死んでいる。キサマが何者かの確認も含めて私は来た」


「ギクギクっ!」


「お兄さま、この方は……」


 ルティアさんが止めようとしたけれど、ウィナミルさんは殺気の籠った視線を女性に注いでいる。


「うう……白状するのですよ。マリッパは秘密の任務を受けてオスニエル子爵様の街を目指している者なのです。はい」




 ギクギクしていた女性の名前はマリッパさん。

 さる貴族が子爵の街に向けて旅立つのに先立ち、道中に危険なモノはないかと調査するため、子爵の街を目指していたのだという。


「道に迷い、馬に逃げられ、荷物も落とし、森ではオークの群れに遭遇したのですよ。『隠ぺい』を使ってやり過ごそうとしたのですが、魔力切れであることを忘れていて、見事に見つかってしまったのです」


 マリッパさんは涙ながらに訴えた。


「ルティアさん。『隠ぺい』ってなに?」


「天職・斥候の者が、よく持っている特技です。使用すれば周囲から姿は見えません。よほどの強者が相手では別ですが」


「魔力切れだと使えないんだ?」


「己の力を過信した人間の末路です」


 どうやら魔法使いや私でなくても、魔力というものは持っているようだ。


「ルティアさんも魔力切れになることはあるの?」


「そうならないよう、気をつけています」


 ウィナミルさんの尋問は続く。


「さる貴族の従者ということか」


「そうなのです。御隠居様が子爵様の街を目指すに当たり、先だって旅路の安全を確認するのがマリッパの役目なのです。先輩方から、そろそろマリッパ一人で仕事しろって送りだされたのですが、まだまだ荷が勝ちすぎたのです」


 本来なら子爵様の街まで様子を見に行き、貴族のもとへ戻って状況報告していなければならない時期らしい。

 でもマリッパさんはドン臭いのか、いまだ街には辿り着けず、こんな所でオークに追われていた。


「事情はわかった。では証拠を見せろ」


「え、あ。たしか街に入るための通行許可証があったのですよ」


 マリッパさんは懐から、ヨレヨレの紙を出した。


「これは。侯爵以上の貴族の従者が持つ許可証だ」


 驚いたウィナミルさんはマリッパさんに一礼した。


「失礼した。私はオスニエル子爵様に仕えている騎士、ウィナミルという者です」


「マリッパなのです。分かってくれて嬉しいのです」


 女性の正体も分かった。

 オークも倒して安全も確保。ラケロパさんたちを迎えに行こう。

 そう思って動き出したとき。


「もったいねぇな。オークの素材は高く売れるのに」


 キコアがウィナミルさんに話しかける。


「なぁ、ここで解体していいか。肉や皮は高く買い取ってくれるぜ」


「我々の任務は御令嬢の護送。それもまだ始まってはいない。忘れたか。時間がないのだ」


「じゃあさ、せめて魔石だけ」


 無言でキコアを見下ろすウィナミルさん。目が怖い。

 それでもキコアは負けていない。


「じゃあさ、魔石一個だけ。お願い」


「三個だ」


「え?」


「オマエには仲間がいるだろう。早くしろ」


 こうして7日目が終わろうとしていた。


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