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33.私の目標

 キコアに連れられて街を散策していると、ルティアさんと再会した。

 ルティアさんは泣きじゃくっていた。

 私たちはそんなルティアさんをなだめ、人目から逃げるように広場をあとにした。


「とりあえず飯でも食おうぜ。この時間でもやっている店は」


 キコアに連れられてやってきたのは、私とキコアが初めて会った日の夜に食事をしたお店だった。


「あれ? キミたちは」


「ラケロパさん!」


 葡萄酒畑の村で一緒に魔物と戦った兵士のラケロパさんが、店の前に立っていた。

 兵士の姿ではなく、この世界の普段着の上にエプロンをしている。


「オッサン、なんだ、その格好」


「ここは妻が営んでいる宿屋だよ。兵士の仕事が待機状態でね」


 すると、ここがラケロパさんのお家である『短い首の羊飼い』なんだ。


「待機状態って何だよ」


「う……。ストレンジゴブリンは討伐したものの、私に割り当てられる兵士の仕事は無くなってしまったんだ。新たな命令があるまで、こうして宿屋の手伝いをして、少しでも儲けに繋げようと……」


 大変だな。兵士の仕事も安泰じゃないんだ。


「オッサン、また冒険者になろうぜ」


「年齢的に難しいかな。そうだ、良かったらウチで食事して行っておくれよ」


 ラケロパさんに通されて、私たちはテーブル席に着いた。




 遅めのお昼ゴハンはスープとパンのセットだ。

 キコアは美味しそうに食べていた。

 ルティアさんは悲しそうに食べながら、何があったのか説明してくれた。


「せっかくお兄さんに会えたのに、騎士にしてもらえなかったんだね」


「冒険者のDランクって言ったら、そこそこ強いぜ。それでも騎士になれないのかよ」


 ラエリンなんかでも騎士をやれているというのに。ルティアさんのほうが強いのに。

 ルティアさんは涙を堪えるように話してくれた。


「騎士になるにはBランク冒険者、兵士になるにはCランクの実力が必要なんだそうです。兄が、そう言っていました」


 あれ? ラケロパさんはEランクで兵士になれたって言っていたけれど。


「私はBランク冒険者になりたい。けれど、そのためには時間もかかるでしょうし、多くの人の協力が必要です」


 ルティアさんは悲しみを飲み込むように、パンを口に突っ込んでいた。


「じゃあさ、なれば良いじゃん。Bランク。アンタはその歳でDランクなんだろ。目指せばいいじゃん。そんでBランクになって騎士になれば良いんだ」


 キコアはそう言うけれど。ルティアさんの様子から察するに、Bランクになるのは大変そうだ。

 だから悲しんでいるんだ。

 この街の最強冒険者であるリコリヌさんだってBランクなんだ。


「キコア、簡単に言うけれど」


「じゃあ、ほかに騎士になる方法ってあるのかよ。Bランクになるしかねぇじゃんか」


 ルティアさんは、しゅんっとしてしまった。借りてきた子猫みたいだ。

 この人を元気づけてあげたい。だってお世話になったし。


「そうか……」


 気付いた。私には冒険者として明確な目標がない。

 私は、ルティアさんの夢を叶えてあげたい。

 キコアだってFランクを目指している。

 この二人をランクアップさせてあげればいいんだ。


「私の目標が見つかった気がする。ルティアさん、一緒にパーティを組みませんか」


「え?」


「私、ルティアさんをBランクにしたい。一緒に冒険者をしましょう」


 ルティアさんは驚いた顔をして私を見ていた。


「おいフィリナ。Bランクを目指すのなら、BやCのパーティに入ったほうが良いじゃんかよ。その人、Dランクなんだろ。俺たち二人はGランクだぜ。Bランクなんて、とても」


 キコアが困惑した声を出す。けれど。


「あ、ありがとうございます! フィリナさんと一緒に冒険者ができるなんて嬉しいです」


「あと2つのランク。いっぱい活躍しようね」


「共に活躍し、Bランクになり騎士になり、共にお兄さまを助けましょう」


 キコアは「イイのかよ」とつぶやいた。

 私自身はBランクやお兄さんには興味がないけれど、ルティアさんが笑顔で応えてくれたので嬉しかった。

 でも、その表情に陰がさした。


「私、この街には詳しくないんです。慣れるまで時間がかかると思います」


 私だって、この街のことは知らない。

 文字だって少ししか読めないのだから、私よりも楽な境遇だと思うんだけどな。


「じゃあさ、この街に慣れるまでウチで働けば良いよ」


 そう話しかけてきたのは、この店の女将さんだった。

 その横には7歳くらいの女の子がいる。


「ちょっと前まで帝国から来た冒険者の子がウチで働いていたのさ。なんでも冒険者になる前は帝国の貴族のところでメイドをしていたっていうよ。しばらくウチで働いていたんだけれど、この街に慣れたって言ってやめていったんだ」


「ウチはゴハンどきになると人手が足りなくて困っているの。あのお姉ちゃん、元気かな」


「オッサンがいるじゃねーか」


 キコアが女将さんと娘さんに突っ込みをいれた。


「ウチの夫じゃ看板娘にはならないよ。冒険者の子が辞めたせいで客の入りが減っちまったんだ。アンタならきっと、集客に役立つと思うんだ。空き部屋も貸すよ」


 たしかにルティアさんが接客すれば、男性客は増えるかもしれない。

スタイル良いし。顔キレイだし。


「そういうことなら、ルティアって言ったっけ。ここで働けば?」


 キコアが言う。


「食堂で働けば街の情報だって集まるし。泊まれる場所だってある。この街の冒険者のほとんどは雑魚寝の安宿に泊まるしかないんだぞ」


「雑魚寝……」


 ルティアさんの表情が曇る。


「お母さん、お姉ちゃんが残していった服を、このお姉ちゃんにも着せてあげようよ」


「名案だね。よし、さっそく着替えて今晩から働いておくれ。夫は今晩、商人ギルドの顔合わせに出るんで忙しいんだ」


「え? え? あの」


 ルティアさんは娘さんに手を引かれて、店の奥へ消えていった。



☆☆☆

 


 夕方になった。

 ルティアさんは店の奥で着替えている。

 ラケロパさんは商人ギルドの顔合わせに行ってしまった。

 キコアは成り行きで、今は女将さんと共に厨房に立って、仕込みをしている。


 なんでもキコアは7歳のとき、たった一人でこの街にやって来たらしい。

 それから10歳で冒険者になるまで、食堂や宿屋に住み込みで働き、将来冒険者になるべく、客の冒険者たちから情報を得たいたというのだ。

 当然、料理の腕だって高い。


 私はといえば、料理もできないし、接客をするにも、お客さんが来るには早い時間だ。

 やることもないので、店の前をホウキではいている。


「私、魔法以外で何もできないな……」


 なにか資格を取らなければ。この世界で資格ってあるのかな。

 そんな事を考えていると、行きかう女の子たちの声が聞こえてきた。


「ねぇ、あの人を見て。美形よ」

「え! カッコいい! どこの舞台役者かしら」

「あの人の舞台、見てみたい」


 なんだろう? 女の子たちの視線の先には一人の男の人が歩いていた。

 肩まで伸びたオレンジブロンド。サラサラだ。

 切れ長の目に白い肌。男の人なのにイイ肌しているな。うらやましい。

 背が高くて、程よく筋肉もついている。ゴリゴリのマッチョの支部長とは違って、安心感を与えてくれる雰囲気だ。

 服はこの世界の普段着に見えるけれど、ほかの男性と違って上品な感じがする。素材が違うのかな。だったら貴族かな。

 でも腰には剣をさしている。私服の騎士? 

 歩いているだけでも華を感じる。ラエリンとは大違いだ。


「魔法士団の本部に行ったとき、既に少女はいなかった。冒険者ギルドでの登録拠点は安宿。そこに行っても見つからない。どこを探せばいいのだ」


 その男の人はブツブツと一人ごとを言っていた。なにやら考え中の御様子だ。

 あ、目があってしまった。私はバツが悪くなり、掃除を再開した。

 ん、男の人はこちらへ近づいてくる。見ていたのがバレたのか。どうしよう。


「店の娘よ。私は人を探しているのだが」


 人探しか。よかった、怒られなくて。


「フィリナという少女を知らないか」


「え? 私もフィリナです」


「これは失礼した。私が探しているのは冒険者のフィリナという者だ。この店に来たことはないだろうか。10歳くらいなんだそうだが」


「私も冒険者で10歳です」


「そうか。私が探しているフィリナは、先日、魔物との討伐戦において火炎と凍結の魔法を使いこなし、勝利に一役買ったそうなのだが。そういえば緘口令かんこうれいが敷かれていたんだったな。知る由もないか」


「私、ストレンジゴブリンの討伐戦なら参加していました。ほかの討伐戦のことは知りませんけど。あと火炎と冷凍の魔法なら使えます」


「そうか。私が探しているフィリナは……なんだとっ!」


「な、なんですか」


 男の人は驚愕といった表情で私を見下ろしてきた。


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