31.Gランク冒険者フィリナ
「この娘がEランク以上の実力の持主だと?」
Bランク冒険者のリコリヌさんに連れられて冒険者ギルドに来てみると、筋肉ムキムキのギルド支部長が奥からやって来た。
「支部長、もっと強いってぇ。戦場で大活躍。この子が魔物の情報を持って駆けつけてくれなかったら、死傷者はもっと多かったぜ」
「本当か、リコリヌ?」
腹筋丸出しの上半身露出中年である支部長は、腰を折って私を覗きこんできた。
圧が強い。
「フィリナはすごいんだぞ。騎士団長と魔法士団長のお墨付きだ。一緒に戦っていたんだぞ」
キコアがおかしなことを言いはじめた。
私は二人から墨はもらっていないし、共闘なんてしていない。
「むぅ。本当なのか。副支部長、どう思う?」
支部長は受付の奥を見る。
そこにはギルド職員とともに働いている副支部長の姿があった。
彼は黙って頷いた。なに頷いているんだよ。
「騎士団長と魔法士団長が、この娘を。とりあえず鑑定具で調べてみるか」
「早速用意しますね」
お姉さんは嬉しそうに奥へと駆けて行った。
「さあ鑑定具だ。フィリナと言ったな。触れてみるといい」
お姉さんが持って来た鑑定具に触れてみろと支部長は言う。
キコアとリコリヌさんが覗きこんでくる。
周囲の冒険者も興味深そうに見てくる。
この冒険者たちは一昨日、ストレンジゴブリンとの戦いで助けたことがある人たちだった。
「みなさん、もっと下がって下さい。とっても眩しいので直視しないでくださいね」
お姉さんが楽しそうに注意を促す。
「フィリナ、もったいぶってないで、早く触れろよ」
「う、うん」
キコアに急かされて、鑑定具に触れた。
ピカァァァァっ!
触れた途端、鑑定具から尋常ではない光が溢れだした。
なにこれ、この前よりも眩しい。
「なんだ、この光は!」
「どこのバカだ。屋内で光魔法なんて使うヤツは!」
「眩しいからやめろ! 俺の目を潰す気か!」
あちらの受付で報奨金をもらっている冒険者や、部屋の隅で金勘定している人から文句を受ける。
私は急いで手を引っ込めた。
「どうして光が増したんだろう。……はっ!」
魔法士のお婆さんから借りたペンダントだ。
このペンダントはレアアイテムで魔力を2倍にしてくれる。ペンダントのせいで鑑定具の光が増してしまったんだ。
「すいません。もう一度やらせてもらえませんか」
「ふざけるな。俺の目を焼き溶かす気か! いや、すまん。フィリナと言ったな」
支部長はゴホンと咳をすると。
「実力は分かった。フィリナを冒険者として登録する。ランクはEだ」
「私、Gランクが良いです」
「たしかに騎士団長と魔法士団長、リコリヌが認める人材だ。鑑定具の光からしてEランクでは過小評価だと思う。しかし冒険者ギルドの決まりで、新人でDランク以上にはできんのだ。俺は所詮、一介の支部長。ギルドの規則は曲げられん」
「だったらGランクに」
「わかってくれ……え、Gランク?」
「はい。私、初心者なので」
支部長はゴホンと咳をした。
「初心者にも実力の差がある。フィリナはじゅうぶん実力があることがわかった。実力者には相応のランクを与えたいのだ」
「Gランク、どうしてもダメですか」
支部長は黙ってしまった。固まってしまった。
お散歩中に生まれて初めて大型犬と遭遇したときの乳幼児のような目をして、こちらを見ている。
「別にいいじゃねぇかよ、Gランクでさぁ」
リコリヌさんだ。また私の肩に手をまわしてくる。
「期待の新人がGランクだと、困ることがあるとは思えないんだけどなぁ」
「ぬぅ。本人がGランクが良いというのであれば、それで構わんが……しかし、どうして?」
支部長が困惑した視線を注いでくる。
いろいろあるんですよ。わかってくれ。
私はジッと支部長を見かえした。
「よし、わかった。これよりフィリナはウチのギルドのGランク冒険者だ。それでいいな」
☆☆☆
それから冒険者証が発行された。
文字が刻まれている。
キコアに読んでもらうと、ちゃんとGランクと書いてあるんだそうだ。安心した。
リコリヌさんとは冒険者ギルドでお別れした。
今日は指名された依頼があるんだそうだ。Bクラスの人は忙しそうだ。
「それにしても、私まで報奨金をもらえるとは」
「良かったじゃねぇか」
キコアとともに街中を歩いている。
「私が魔物と戦ったのは一昨日。冒険者になったのは今朝だよ」
「細かい事はいいんだよ。三日間で銀貨40枚か。Gランクでなければ、もっともらえたのにな」
「そうなんだ」
「だからフィリナは物体ねぇコトしたんだよ」
「だって初心者で先輩よりもランクが上だったら、どんな嫌がらせを受けるか分からないじゃん」
「フィリナだったら、嫌がらせをするような冒険者なんて、倒せると思うんだけどな」
それにしても、これからどこへ行くんだろう。
「まぁ、仲間になってくれて、俺は嬉しいけどな。よし、一緒にFランク目指して活躍しようぜ」
「うん。ところで今日はどこへ行くの?」
「フィリナは街のこと、詳しくないだろ。今日は街を案内してやるよ」
「ありがとう。でも今日の仕事は?」
「ギルドの依頼書、見たときには、もう無くなってたんだ」
ギルドの壁の一角には、羊皮紙に書かれた依頼書が貼りつけてある。
そういえば今朝は貼られていなかった。
すでにほかの冒険者に取られてしまったあとだったようだ。
「私が冒険者登録に時間をかけていたばかりに」
「いいって。それよりも行きたいところはあるか?」
ペンダントを返さなきゃ。
魔法士のお婆さんはどこに住んでいるんだろう。
「キコア。魔法士さんの職場ってあるのかな」
「魔法士団本部なら貴族街にあるぜ。庶民街との境界には門があって兵士がいるけれど。レアアイテムを返しに来たって言えば、通してもらえるかもな。行ってみるか」
「うん」
お婆さんにお礼を言おう。
それから……
魔法士団本部ではお婆さんに会うことができた。ペンダントも無事に返せた。
キコアの案内で庶民街を散策し、あっという間に時間が過ぎていった。
「あの婆さん、良いヤツだったな」
「うん。回復魔法、かけてもらっちゃったね」
黒きGとの戦いで、私たちは傷を負った。
黒きGの腕にはトゲが生えていて、かすっただけでも切り傷ができた。何回か殴られもした。
私たちの身体には軽い切り傷や痣がある。
もちろん痛いけれど、生活するには支障はないし、魔物との戦いで大けがを負った騎士や冒険者に比べれば、たいしたことはない。
キコアは、この程度の傷で傷薬を買うのはもったいないと言っていた。
魔法士のお婆さんは、そんな私たちに回復魔法をかけてくれたのだ。
おかげで傷ひとつない身体になれた。
「ここが街の広場だぜ」
「ここは来たことがあるよ」
キコアに連れられてやってきたのは、かつてルティアさんとお別れした広場だった。
「ルティアさん、元気にしているかな」
広場をあらためて観察する。多くの露店が並んでいる。
ゴザを敷いて商品を売っている人もいる。
「いっぱい人がいるね」
「なぁフィリナ。腹減ってないか」
そういえば、お昼ゴハンを食べていなかったな。
あちらの露店では串に刺した肉を売っている。キコアが角ウサギの肉だと教えてくれた。
隣の露店はジューススタンドのようだ。その隣ではパンを売っていた。パン、食べたいな。
その隣には広場に設けられた長椅子があり、ルティアさんが項垂れていた。
反対側には果物を売っている露店がある。
「ここ、いろんな店があるだろ。夜には酒を出す店も出てくるんだぜ」
「へぇ。いっぱいあるんだね。ルティアさんもいるし」
……ん? ルティアさん?
視線を長椅子に戻す。
そこには深刻そうな表情で、行きかう人々を見つめるルティアさんがいた。
どうしたんだろう。ただならぬ雰囲気だ。
「あの? ルティアさん」
近寄って話しかけてみる。すると
「フィリナさん!」
ルティアさんは人目をはばからず、私に抱きついたのだ。
「フィリナさん! うぅ、私はどうすればいいのか。うわぁぁぁん!」
スゴく泣きはじめた。泣きながら頬を擦りつけてくる。
通行人がどうしたことかと視線を向けてくる。
「うわぁ、なに、その人」
キコアが、あり得ないといった表情を向けてきた。
私だってよく分かりません。
おはようございます。
今回で第2章は終了です。
また、本日12時にルティア視点のエピソードを投稿します。
そちらも是非お楽しみください。
それでは第3章も引き続きお願いします。




