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30.討伐戦(2)

 ストレンジゴブリン2000体以上が街に迫る。

 騎士団と魔法士団、私たちの戦いが始まった。


「俺たちにできることは魔物を魔法士の前に誘導させることだ! 無理して倒そうとするなよ!」


 冒険者が仲間たちに呼びかけている。

 冒険者の女性が魔物に火炎魔法を放っていた。

 火だるまになった魔物は冒険者に殴りかかる。


「きゃあっ。なんて頑丈なのよ。火炎魔法ならともかく、凍結魔法なんてできない。両方できたら魔法士団にでも就職しているっての!」


「クリオロフォサウルス×冷凍!」


 魔物を凍らせる。

 さらにエオラプトル×俊敏性強化(小)!

 この状態になれば筋力も上がる。私の剣でもトドメをさせる。

斬られた魔物は倒れ、立ち上がることはなかった。


 火炎と冷凍。恐竜の力と組み合わせれば、消費魔力はそれぞれ4。エオラプトル×俊敏性強化(小)の消費魔力は2。

 火炎と冷凍、10回以上も繰り返したら魔力は尽きる。でも。

 首にかかるペンダントを手に取る。これは魔力を2倍にできるアイテムなんだそうだ。

 今の私の魔力は上限200。これなら、いつもよりも魔法が使える。

 魔法士のお婆さん、いいモノを貸してくれたな。


 助けた女性冒険者と目があう。


「大丈夫でしたか」


「あ、あの」


「礼には及びません。いっぱい魔物を倒しましょう」


「それは良かったわ。あなた、狙われているから」


「え?」


 振り返れば、複数の黒きGども。


「あ、フィリナだ。こっちこっち」


 キコアだ。手招きしている。

 私はキコアの方へ駆けた。魔物が追いかけてくる。

 そこは雑草が生い茂っていた。けれど、なんだか周囲の雑草と色合いが違う。


「キコア、これって」


「そのまま駆け抜けてくれ」


 駆け抜ける。足下から変なニオイ。このニオイは。

 振り返ると、先ほど駆け抜けた場所を魔物たちが走っていた。


「よしっ! 今だ、火矢を射ってくれ」


「キサマが指示するな!」


 副支部長が火矢を放つと、魔物たちの足下に命中した。一気に火の手が上がる。


「キコア、油を撒いたの?」


「おうっ。騎士たちのテントの横に、かがり火用の油があっただろ。借りたんだ」


「ちゃんと許可取った?」


「ここで負けたら、今晩のかがり火も焚けないぞ。それに魔法を使ったら魔力が減るだろ。火の用意はこっちに任せろ。フィリナは氷の魔法に専念してくれ」


「ありがとう。早速凍らせるね」


「いや、うしろ!」


 またか。黒きG、多すぎ。


「嬢ちゃん!」


 背後の魔物に冒険者が斬りかかった。

 あ、チャラい人だ。たしかリコリヌさん。この街の最強冒険者。


「大丈夫かぁ?」


「その魔物は、まだ魔法を喰らっていません。今、魔法を」


 リコリヌさんは何度も魔物に斬りかかる。やっぱり魔物は倒れない。


「たしかに硬いな。こんなの天職と特技がなければ、正面からでは倒せないだろうな。けどよぉ、知恵と観察眼で勝機を見出すのが冒険者ってもんだ」


 魔物は背中の甲を展開し、翅を広げた。


「さっそく勝機だぜ!」


 素早く魔物の背後にまわったリコリヌさん。

 甲が開き、むき出しになった魔物の背中へ剣を突きたてた。

 魔物はゆっくりと倒れる。


「こうすりゃ討てる」


 すごい。やっつけちゃった。


「フィリナ! 空からも来るぞ!」


「キコア、今行く!」


 戦いは続くのだった。



☆☆☆



 夕日が平野を照らす。

 黒きGどものテカテカした甲がオレンジの光を反射していた。

 でも魔物は、もう動かない。全て死骸となっている。


「勝ったぞ! 我々の勝利だ!」


 騎士団長の宣言で、みんな歓声を上げた。

 北の陣や南の陣でも、生き残った魔物はいないという。


「怪我した者は傷の手当てを。重傷者にはハイポーションを飲ませてやれ。悪いが魔法士は全員魔力切れじゃ。回復魔法は無理じゃぞ」


 魔法士長の言うとおり、魔法士たちはその場に座り込んでいた。

 私も魔力切れだ。魔法士のお婆さんから借りたペンダントがなければ、どうなっていたんだろう。


 この日は一応、さらなる魔物が現れたときにために、戦いに参加した全員で陣に泊まりこんだ。

 何人かの騎士は兵士を引き連れて、周囲に魔物の生き残りがいないことを確認しに行った。


 翌朝、戻ってきた彼らから魔物を確認できないことが告げられると、ここで改めて騎士団長が勝利宣言。

 冒険者と傭兵は一足早く、街へ帰ることとなった。


「よしっ! 祝勝会だ。呑んで騒ぎたい奴は俺について来い!」


 リコリヌさんがそう言うと、冒険者たちは笑顔で騒ぎはじめた。


「あ、副長。アンタはついてくんなよ。ギルドに戻って俺たちの報奨金の準備だ」


「わかっている。あまり街で騒ぐなよ。魔物の次は冒険者が敵とあっては、せっかく勝ち得た信頼が地に落ちる」


「心配すんなって。お!」


 リコリヌさんが私たちを見つける。


「嬢ちゃんと、たしかキコアだっけ。オマエたちも一緒に来い。ずいぶん活躍していたみたいじゃねえか」


「やった。フィリナ、最強に誘われたぞ」


「でも、この人たちが行く所って、酒場だよね」


 今の身体は未成年なんですが。


「気にすんなって。行こうぜ」


 キコアに手を掴まれ、ほかの冒険者とともに馬車の荷台に乗り込む。

 すると一人の騎士がこちらに駆けてきた。

 ラエリンだ。ボロボロだけど嬉しそうだ。


「フィリナって言ったな。俺は初めての討伐戦で魔物を20体も狩ったんだ!」


「へぇ、そんなんですか」


「俺はオマエを忘れない。だからオマエも俺を覚えとけよ」


「さようなら」


 こうしてストレンジゴブリンとの戦いは幕を閉じた。




 街に戻ったときは夕方だった。

 馬車から降りた冒険者一団はリコリヌさんを先頭に酒場に入っていく。


 酒場の主人は待っていたとばかりに、やって来た冒険者たちに酒を振る舞い始めた。

 注文していないのに、なぜ。


 あちらでは女性店員が冒険者に、討伐おめでとうと言っている。

 どうやら緘口令かんこうれいは完全ではなかったみたいだ。




 翌朝。私は冒険者ギルドの前に立っている。

 昨晩、酒に酔ったリコリヌさんが絡んできて、たっぷりと私の素性を絞り取っていった。


 もちろん、この世界で生まれ変わったことや天職・特技のことは内緒だ。

 でもリオハ村から来たこと。この街に来て四日目のこと。葡萄酒の村の戦い。

 いろいろ喋ってしまった。

 キコアはお酒を飲んだのか、私の横で饒舌にこれまでの活躍を語っていた。

 その日は、ほとんどの冒険者は酒場で眠ってしまっていた。

 店の店主は何も言わなかったけど。


「さぁ、報奨金をたんまりと貰おうぜ!」


「おうーっ!」


 キコアやほかの冒険者たちが拳を天に突き上げている。

 リコリヌさんは私の手を引っ張って、冒険者ギルドの建物の扉を開けた。


「今日の仕事の受け付けはこちらでーす」

「報奨金の受け渡しはこっちだ。事前に冒険者証を用意しとけよ」

「報奨金は奥の部屋でも渡してまーす」


 多くの冒険者でごった返している。

 ストレンジゴブリン討伐の報奨金受け渡しは今朝からなんだそうで、討伐に参加したEランク以上の冒険者はもちろん、それ以外の冒険者も来ているから混雑しているんだ。

 受付の女性や男性も忙しそう。


 あ、受付の奥は机が並んでいて、オフィスのような感じになっているんだけれど、そこにはいつぞやのお姉さんがいた。

 私が冒険者登録しようとしたときに担当してくれたお姉さんだ。

 声が聞こえてくる。


「だから、すごい女の子が来たんですって。鑑定具の輝きからしてEランク以上。あれは逸材です。探しだして冒険者にしましょう」


 お姉さんが話しかけているのは筋肉ムキムキの長身、スキンヘッドの男の人だ。

ボディビルダーよりもムキっている。どうして上半身裸なんだろう。


「すごい娘とやらには、ちゃんとEランク冒険者になれることを伝えたのか」


「もちろんです支部長。あれは相当な天職と特技を持っていますよ」


「じゃあ、どうして逃げちまったんだよ」


「わかりませんよ!」


「支部長たち、なに揉めてんだぁ?」


 リコリヌさんが不思議そうな顔をする。


「まぁ、いいか。行こうぜ」


 私の肩に手をまわし、支部長とかいうマッチョ男に近づいていくリコリヌさん。

これでは逃げられない。

 キコアもついてくる。ああ、嫌な予感がする。


「お~い支部長。ただいまぁ」


 受付の向こうで支部長とお姉さんがこちらに気付いた。


「リコリヌ。討伐ご苦労だった。報奨金なら、あちらの受付でもらうと良い。ん? その娘は?」


「この子、フィリナっていうんだ。なんでも、まだ冒険者じゃなっていうからさ。Cランクくらいで登録してやってくれよ。ついでにストレンジゴブリンの討伐戦の報奨金もあげてやってくれ!」


 昨晩、私は冒険者ではないことまで喋ってしまった。

お酒も飲んでないのに喋ってしまった。昨日の私のバカ。

 さらにお姉さんと目が合う。


「あ! ああっ! 戻って来た。この子です! この子がすごい子。良かった。また会えたぁ!」


 お姉さんは両手を上げて声を張り上げていた。


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