28.VSストレンジゴブリン
葡萄酒の村に現れた11体ストレンジゴブリン。その正体は黒きGだった。
現在、全てが夜空を舞っています。
「もうやめて。月夜が汚れる……」
「もしかして俺が叩いたせいで、甲羅が柔らかくなって、翅がでたのか?」
ある程度のダメージを受けると飛ぶってこと?
「硬さといい、飛ぶことといい、聞いてねえぞ! こんなの天職と特技を持った騎士でしか倒せねぇぞ」
「ラエリン殿。自身がどんな境遇であれ、与えられた任務は果たすのです。空を飛ばれては村に侵入される。村の向こうは葡萄畑です。矢があります。共に狙って下さい」
「ラケロパ! あいつらには矢は効かなかっただろうが」
「ならば火矢を放ちましょう」
もう一人の兵士は、すでに火を起こしていた。そうか。火だ。
この魔法なら近づかなくても倒すことができる。
「ブルカノドン×火炎!」
魔法の火の玉が空の魔物に直撃。
一分以内なら、消費魔力4で何度でも撃てる。
連射だ!
「この娘、魔法使いだったのかい」
ずっと黙っていた魔法士のお婆さんが驚いていた。
空の魔物は全部墜落した。まだ一分経ってない。
火の玉を放ち続けて、墜落したところを倒してやる。気持ち悪いし。
「キラーウルフのときよりも気合い入ってんな」
「全部撃ち落としやがった」
「それに、なんて火力だ」
キコアと二人の騎士も唖然としている。ラエリンは不満そうだ。
「チっ。これが天職の力だってのかよ」
一分終了。魔物たちが燃えている。ところが。
「私の世界のGも、耐久力だけはムダにあったよね」
燃えながら立ち上がったのだ。やがて身体の火は消えていった。
「また飛ばれると厄介だよね。今度は、これ!」
クリオロフォサウルス×冷凍。冷気の突風が魔物たちを凍りつかせた。ところが。
「頑丈すぎ!」
なおも魔物たちは動きはじめる。ムダに生命力が高すぎる。どうすれば。
「ほぅ。火炎魔法と凍結魔法かい。ふたつも扱えるなんて、とんだ特技だ。それよりも、考えたもんだね」
魔法士のお婆さんだ。こんな状況なのに、その表情は楽しそうだった。
「もう十分さ、お嬢ちゃん。さてと騎士ども、仕事だ。魔物どもに斬りかかりな」
「はぁぁん?」
ラエリンがお婆さんに食ってかかる。
「魔物には剣が効かなかった。俺の剣だって折れたんだぞ」
「武器なら私たちが乗って来た馬車に積んである。それを使うんだね」
お婆さんの言葉に真っ先に反応したのはキコアだ。
キコアは馬車から鉄製の槍を持ち出すと、魔物を槍で突き刺した。
「あっ! 槍が通る!」
彼の言うとおり、槍は魔物の硬い甲を貫いて傷を負わせた。
刺された魔物は数歩、後退する。
足下にボロボロと、甲の破片が落ち始めた。
良く見ればほかの魔物の甲も、ヒビが入っている。
「お嬢ちゃんの魔法だよ」
「お婆さん?」
「火炎と凍結。温度差で魔物の甲が脆くなったんだ。脆くなったところを攻めれば、剣や槍だって効果があるのさ。騎士なら、それくらい分かるだろうに」
「急激な温度差」
「そういうこったよ」
これを聞いた二人の騎士とラケロパさんは武器を構えた。もう一人の兵士も弓を引く。
「あぁっ。クソ。俺だって戦うぞ」
ラエリンは急いで馬車へ武器を取りに行った。
☆☆☆
「やったぞ。俺は強力な魔物を倒したんだ」
ラエリンたちは息を切らしている。
でっかいGことストレンジゴブリンは全滅した。
大きなGの死体が横たわっている。気持ち悪い。
とりあえず今の時点では、葡萄酒の村は守られたのだ。
「ほとんどはフィリナの魔法のおかげだろうが」
キコアがラエリンたちに毒づいている。
ラケロパさんがラエリンたちに近づいていく。
「戦いはまだ終わってはおりません」
「安心しろって。倒し方は分かったんだ。また出てきても、俺一人でも倒してやんよ」
ラエリンは私を見る。
自分が戦う前に、私が魔物に魔法を放てということだろうか。
ラケロパさんは首を振った。
「本陣の騎士団は魔物の変容を御存知なのでしょうか。私もラエリン殿も魔物の甲が厚くなっていることを知らなかった。何も知らない騎士団が魔物と戦いを始めたら……」
倒し方が分からない。しかも魔物は2000体だ。多くの犠牲者が出てしまう。
「え? あ、あちらにだって魔法士がいる。そいつらが魔法を使えば、あちらの騎士だって」
「魔法士と騎士は独立して戦うはずです。騎士が西と南から、魔法士が北側から魔物を挟みこむ。騎士と魔法士は仲が悪いことをお忘れですか」
ラエリンは魔法士のお婆さんを見た。
ラケロパさんは続ける。
「ラエリン殿。魔物が変容していることを騎士団長と魔法士長に報告して頂きたい。今回の討伐は騎士と魔法士が一丸にならなければ勝てません」
「報告って。俺が鬼の騎士団長にか」
なんだかラエリンは尻込みしている。私もお願いしよう。
「ラエリンさん。もし魔物が騎士団を突破するようなことがあったら、街は大変なことになると思います。報告しに行きましょう」
「この村はどうするんだ」
「ここには坊主以外にも騎士はいるんだよ。私だって火炎と凍結の魔法くらいは使える」
お婆さんがそう言うと、二人の騎士も頷いた。
「ここは俺たちに任せて行ってこいよ」
「ラエリン殿。私が行っても聞き入れてくれるかどうか。ここは男爵家の出身である貴方が報告するべきだ」
ラケロパさんの言葉でラエリンは黙ってしまった。
キコアはため息をつく。
「あんた貴族だろ。騎士だろ。街の命運がかかってるんだぜ。街のみんなのために死力を尽くすのが貴族ってもんだろう」
「なっ、そんな事は分かってんだよ。貴族の務め、騎士の務め。親父から何度も聞かされてきた。報告に行かないなんて言ってないだろ。行くぞ。馬車を使って良いよな」
ラエリンは馬車の御者席に乗りこんだ。
「お嬢ちゃんも行きな。魔物と戦うには強力な魔法使いが必要だからね。それと」
お婆さんは首にかけていたペンダントを私の首にかけた。
「騎士や魔法士の頭でっかちどもが何か言ってきたら、これを見せつけるんだよ。きっと言うことを聞くはずさ」
「フィリナが行くんなら俺も行くぜ」
私とキコアも馬車の荷台に飛び乗った。
村の守りをラケロパさんたちに任せ、私たちは騎士団と魔法士団が陣を張る戦いの地へ舞い戻った。
☆☆☆
「起きろフィリナ。陣に着いたぞ!」
キコアの声で目が覚める。ここは馬車の荷台の上だ。
荷台から降りると、東の空から朝日が昇っていた。
魔物がやって来るのはお昼頃。
多くの騎士や冒険者が慌ただしく動いている。
よかった。間にあったんだ。
「ついて来いガキども!」
夜通し馬車を走らせていたラエリンは元気そうだ。
「フィリナ、よくこんな状況で熟睡してたな。まぁ、俺もちょっとは眠ったけれど」
ちゃんと寝ないと魔力が回復しないから。
それにしても、普段の朝よりも魔力が満ちている気がする。どうしてだろう。
「失礼します!」
ラエリンのあとについていくと、陣に設けられたテントの中でも、一際大きなテントの前でラエリンは声を張り上げた。
入口の幕を開けて中へ入っていく。
中では数人の騎士と魔法士、冒険者ギルドの副支部長がいた。
彼らの中心にいるのは髭をたくわえた中年の男の人だ。大きなお腹に丸い鼻。地図が敷かれた机の前の椅子にどっしりと座っている。
この人が騎士団長かな。なんだか赤い帽子と青いオーバーオールが似合いそうだ。
「キサマはラエリン! どうしてここにいる。葡萄酒畑の死守はどうした!」
その人は声を張り上げた。野太い声がテントの中に響く。
「はい! 騎士団長に報告したいことがありまして!」
「報告だと!」
やっぱり騎士団長だ。それに声が大きい。テントが揺れている。迫力がある。
ラエリンはピンと背筋を伸ばしすぎて身長が伸びたように思える。あ、震えてる。
「ビビってる。ほんっと、情けねぇな」
キコアがラエリンの前に出た。
「俺たち、村でストレンジゴブリンのはぐれ者と戦ったんだ。もう倒したけれど。でもアイツら、身体が硬くて刃物が通じない。空も飛んでたんだ。変異種っていうんだろ。オッサンたち、このこと知ってた?」
騎士団長たちの表情が強張っていく。
「詳しく申してみよ」




