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26.討伐戦、参加

 キコアと共に飛び乗った商人の馬車。

 やって来たのは街から東にずいぶんと行ったところにある平野だ。

 多くの冒険者や兵士がいる。鎧を着ているのは騎士だろうか。

 ところどころに大きなテントがある。背が高くてひょろっとしたピラミッドのような形のテントだ。多くの人が入れそう。

 ほかにも運動会の実況席のような幌付きの東屋もたくさんある。


「ほらガキども。仕事だぞ」


 御者の商人に促され、兵士から指定された場所に、私たちは馬車の積み荷を下ろしていく。

 商人から書類を渡された兵士が、積み荷の数と種類を確かめていた。

 なんとなく前の世界の倉庫での仕事を思い出す。あの兵士は入荷のチェックをしているんだ。

 今回の仕事場は魔物との戦場だとキコアは言っていた。

 積み荷を下ろしながら、ここに来る途中、馬車の荷台で聞いた話を思い出してみる。


「街の東側から魔物が攻めてくるんだ」


 攻めてくるのはストレンジゴブリンという魔物らしい。

 珍しい魔物ではないものの、はるか東の森で大量発生。

 街から東に位置する村々を次々と壊滅させているそうだ。

 村を襲って食糧を得たストレンジゴブリンますます繁殖。その数は2000体にも及ぶという。


 そんな魔物の集団が次なる村を求めて、西へ西へと進軍しているんだそうだ。

 多数の魔物相手に、街の騎士団と兵士だけでは分が悪い。

 そこで街のオスニエル子爵は冒険者ギルドと傭兵ギルドに騎士団との共闘を依頼した。


「キコア。そんな状況なのに、街はなんというか、平和そうだったよ」


緘口令かんこうれいが敷かれているのさ。ギルド職員が中級以上の冒険者に直接声をかけて、この仕事を依頼したんだ。下級冒険者はもちろん、街の人間も魔物の集団が街に向かってくることなんて知らねえよ」


「キコアだって下級冒険者だよね。Gランクだし。どうして知っているの?」


「そりゃ上級冒険者がソワソワしているから、金のニオイを感じて酒を飲ませて吐かせたんだ」


 それを聞いていた御者の商人はガハハと笑っていた。




 2000体もの魔物。騎士団は迎え撃つにあたり、この平野を選んだらしい。

 騎士団、兵士、冒険者、傭兵。

 さらに子爵様が雇っている魔法使いの集団、魔法士団。

 これだけの人員がいるのだから食糧や武器、物資がたくさん必要。

街の商人も、こちらへの商品の輸送を優先しているそうだ。


「じゃあなガキども。死ぬなよ」


「オッサンありがとー!」


 積み荷を下ろしたあと、商人は空になった馬車に乗って、街へと帰っていった。

 もう夕日があたりを照らしている。


「キコア、私たちも騎士団やほかの冒険者と一緒に戦うんだよね」


「当たり前だろ。商人を手伝うために来たわけじゃねぇんだから」


「今回の仕事ってギルド職員が中級冒険者に声をかけたって」


「ああ。参加条件はEランク以上だ」


「キコア、Gランクじゃん!」


 どうしてここに来たの? するとキコアはニヤっと笑った。


「こういう場所はさ。常に人手不足なんだよ。飛び入り参加すれば仕事をもらえるって。それに」


「それに?」


「フィリナは強い。大抵の魔物なら倒せる。ほかの冒険者にフィリナの実力を見せつけることができれば、冒険者登録のときに上級ランクから始めることもできるかもだろ」


 そんな事は望んでない。私はGランクから始めたいんだけれど。


「おっ! アイツは……」


 キコアは私なんてお構いなしに、ある人物を見つけたようだ。


「ギルドの副支部長だ。おーい!」


 副支部長? 髪の長い男の人だ。頬がこけている。なんだか神経質そうな印象だ。

 キコアは副支部長のところへ駆けて行った。私も追う。


「なぁ。俺たちにも何か仕事をくれよ」


「ぬっ? キサマはキコア。どうしてここにいる。騎士団との共闘の依頼はEランク以上の者にしか声をかけておらんはずだ」


「うん。俺も騎士様の力になりたいなって」


「嘘こけ。身寄りのないガキ屑が! キサマなんぞ騎士殿たちに晒せるか!」


 副支部長は激怒して拳を振り上げた。

 キコアが殴られちゃう。そのとき。


「別に良いじゃねぇかよぉ。副長~」


 やってきた男の人が一方的に副支部長の肩を組んだのだ。

 男の人はチャラい人だ。ピアスしてる。指輪してる。ウェーブをかけたロン毛をしている。眉毛も整っている。

 でも来てくれて良かった。

 肩を組まれた副支部長は上げた拳を振り下ろせない。


「副長が今回の討伐の参加条件をEランク以上にしたおかげで、こっちは人手不足だしさ。現場は困っているんだよねぇ。この際、冒険者なら誰でもいいじゃんかよぉ」


「しかしな」


「人手不足で冒険者軍団が動くに動けなかったら、恥だろう。ガキでもこの際使おうぜ。魔物討伐が成功すれば子爵様から報酬金、たんまり貰えるんだろぉ」


「むぅぅ。好きにしろ! 私はこれから騎士団長殿と打ち合わせをする」


「おう。俺も行くぜ~」


 副支部長は踵を返し、騎士たちがいる方向へ歩いていった。

 男の人も追いかけながら、振り返ってウインクを飛ばしてきた。チャラいな。


「今の男、ウチのギルドのBランク冒険者、リコリヌだ。最強パーティ『狼の鼻づら』のリーダーだぜ」


 味方してくれたんだ。

 こうして私とキコアは、騎士団と冒険者が合同で行うストレンジゴブリン討伐戦のメンバーになった。


 ほかの冒険者の話によると、平野に構えた駐屯地にストレンジゴブリンの集団がやって来るのは、明日の昼頃らしい。

 ここから東には平原はなく、魔物の大群を大軍で迎え撃つには、どうも都合が悪いようだ。

 だからこの平原で魔物をやっつける。

 そのために騎士団と冒険者ギルドは打ち合わせ。

 魔法士団は魔法の射撃の練習と大忙しだった。


 東からやってくる魔物。平野の西側に陣を構え、さらに部隊を西・北・南に展開して迎え撃つ。

 西側は騎士団長が指揮を務める騎士団。北側は魔法士団。南側は騎士。

 兵士と冒険者、傭兵はそれぞれに分散して支援するそうだ。




「で? どうして俺たちはこんな所にいるんだよ」


 日が沈むと副支部長が声をかけてきた。

 仕事がもらえるとキコアは喜んでいたけれど。

 副支部長が私たちに依頼した立ち位置は……戦いの場となる平野の、はるか南側にある村の護衛だった。


「あの副支部長め。俺たちを追いだしやがったな」


「それでも重要な村みたいだよ」


 魔物の大群の進行方向から、かなり逸れたところにある村。

 けれども副支部長のはなしでは、村ではブドウを栽培していて、毎年上質な葡萄酒を出荷しているとのことだ。

 子爵様はもちろん、多くの貴族がこの村の葡萄酒を愛飲しているらしい。

 そんな村が魔物に襲撃されたら大変だ。


 魔物の集団は真っ直ぐ西へと向かっている。

 けれど何体かでも進行方向を逸れ、この村にやってきて悪事を働けば、葡萄酒が供給不足になる。そうなったら貴族が困る。


「そのための配置だって、副支部長は言っていたよね」


「それにしたってよ。決戦地から外されたぜ?」


 日が沈み、月明りが照らす中、私たちは騎士団から与えられた馬車に乗ってやって来た。


「この馬車、ずいぶん早く村に着いたね」


 平野の西側に位置する本陣。そこから村まで、かなりの距離があると副支部長は言っていたけれど。

 私はてっきり到着は明朝かと思っていたけれど、ほんの数時間で到着した。


「それはな、この馬車が魔法金属マジリルで出来ているからさ。馬にとっちゃ軽いんだ」


 答えてくれたのは、村の外で出迎えてくれた兵士のオジサンだった。40歳くらいだろうか。


「魔法金属?」


「ああ。鉄より頑丈で木材より軽い。さらに馬は魔剛馬だ。普通の馬よりも馬力がある」


「魔剛馬ッて言ったら魔物の馬だぜ」


 キコアも教えてくれる。


「へぇ。魔物でも人間に協力してくれる魔物がいるんだね」


「協力というか、飼いならしたっていうんじゃね?」


 日が沈んで間もなく、騎士団の陣から馬車で出発した。数時間で着いたのだから、時刻は零時前なのかな。

 明日の昼まで約12時間。

 半日後、騎士団・魔法士団・冒険者・傭兵と、魔物の大群の戦いが始まる。

 魔物の何体かはこちらにやって来るかも知れない。

 そのときは私たちが村を守るために戦わなければならない。


「冒険者と魔法士が食糧と一緒に来ただって? あん、しけてんなぁ、おい!」


 三人の騎士が村から出てきた。三人とも若い。

 その中の一人の騎士が罵声を浴びせてきた。

 騎士は馬車の荷台に積まれた食糧と水を見ると、馬車を蹴飛ばした。

 そのあと私たちを睨みつけた。


「なんだよ。冒険者ってガキ二人かよ。ギルドめ、舐めやがって」


 月明りで騎士の顔色が分かる。明らかに酔っぱらっている。なんで?


「やいガキ、オッメェ、ランクは?」


「Gランクだけど」


 ガンっ!

 騎士はいきなりキコアを殴ったのだ。


「何考えてんだ。冒険者ギルドはよぉ。俺の仕事が楽になんねぇじゃんか!」


「キコア!」


 殴られ、横たわったキコアを私は抱きしめた。


「やめて下さい!」


「今度は女の冒険者かよっ!」


 ほかの二人の騎士は笑っているだけだ。止めようともしない。


「ラエリン殿。やめて下され!」


 止めてくれたのは、先ほど魔法金属マジリルの説明をしてくれた、兵士のオジサンだった。


「あん? ラケロパ。テメぇ兵士の分際で騎士に立てつく気か」


「騎士団長はラエリン殿の実力を鑑み、あえて下級の冒険者を支援として送り込んだのでしょう。ラエリン殿はお強い。さらにご親友二人もいれば、魔物の集団から逸れたストレンジゴブリンなんぞ、歯牙にもかけませんでしょうに」


「まぁな」


「しかし魔物の集団を相手にする本営は強力な冒険者が必要。対してこの村の防衛はラエリン殿たちで十分。騎士団長はそう考え、幼い冒険者を派遣させたのではないでしょうか」


「なるほど。まぁ、ここに魔物がやって来たとしてもだ。せいぜい数匹だろうよ。たしかに俺でも倒せるわ。けどよ」


 ラエリンと呼ばれた騎士はキコアを睨み下ろした。


「俺は貴族。どうしてガキ臭ぇヤツと仕事しなくちゃいけねぇんだよ。俺は貴族。冒険者は貧民。マジで苛立つぜ」


「貧民の何がいけねぇんだ!」


 キコアが立ち上がった。キレたっぽい。


「フンっ。なんの茶番だいっ」


 そこへ、馬車から降りてきたのは、駐屯地から一緒に乗って来た魔法士だった。

 ローブを着た、杖を持ったお婆さん。いかにも魔法使いだ。

 馬車の中では話しかけてもずっと黙っていた人だ。


「ババァも来ていたのか。チッ」


 ラエリンはフラフラと村のほうへ歩き出した。絶対、葡萄酒で酔っているな。


「まぁ騎士の俺様にかかれば魔物の10匹や20匹。現れたってどうってことないわ。冒険者なんて必要ないしな」


 ラエリンはほかの二人の騎士と共に村へと戻っていった。

 お婆さんは兵士のオジサンに聞く。


「そこの。ワシが来ること、村長は知っているのかえ」


「はい。村長の家で騎士同様に歓迎すると。場所は」


「フンっ。自分で探せるわい」


 お婆さんはキコアの頭に手を乗せると、ブツブツとつぶやいて村の中に入っていった。

 なんなの。この人たち。


「あれ? さっき殴られたのに、もう痛みが引いてる?」


 キコアは不思議そうな顔をしていた。


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