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21.フィリナ、夢を見る

 目を開ければ私は恐竜のぬいぐるみに囲まれていた。

 目の前には死んだはずの両親がいる。

 ここは生家のリビングだ。両親は恐竜が出てくる洋画をテレビで見ていた。

 ああ、これは夢だ。幼少期の記憶だ。


 私の両親は恐竜好きが縁で出会った。親戚からは恐竜婚なんて言われていたっけ。

 子供の頃は、よく恐竜のイベントに連れていかれた。

 夏休みやゴールデンウィークにもなれば、県外の恐竜博物館へ出掛けていたものだ。


 夢の中で私は小学生になった。

 幼少期は親と一緒に恐竜を楽しんでいたけれど、成長するにつれて興味は失せていった。

 恐竜の図鑑なんて、女の子である私には興味がない。


「遊園地や動物園のほうがイイ!」


 あ、やっぱり言った。夢の中の私は父に向かってキレている。

 小学二年生になる頃には、両親に抵抗し、家族で恐竜のイベントに出掛けることはなくなった。


 私は小学四年生、10歳になった。

 親戚の家にも一人でお泊まりできる年齢だ。

 両親はこれまで貯め込んでいた欲が爆発したのか、海外の恐竜の化石の発掘ツアーへ申し込んでいた。

親戚には久々の新婚旅行だ、と自慢していた。


「新婚でもないじゃん。それに行き先が化石の発掘なんて。変なの」


 夢の中の私は、旅立つ両親に、そう毒づいた。

 違う。言いたいことはそんなことじゃない。

 止めて。二人を止めるんだ……。


 ここは祖母の家。テレビから海外行きの飛行機が墜落したというニュースが聞こえてくる。

 祖母は泣いていた。テレビの画面に映るのは乗客者リスト。

 私の目に両親の名前が鮮明に飛び込んできた。


 私は父方の叔父に預けられた。叔母や従妹とはあまり仲良くなかったから、本当は祖母のお世話になりたかった。

 時間が経てば仲良くなれる。そう思っていたけれど、どうも難しかった。


 夢の中の私は高校三年生になった。

 叔父が大学には進学しておけと言ってくれている。両親が残してくれたお金があるから心配するなと。

叔母は渋い顔をしていた。


 夜、伯父と叔母が口論していた。私の大学進学についてだ。

 この家の娘である従妹は一つ年下。

 二人も同時期に大学に行かせるお金はないと叔母は言っていた。


 私は高校を卒業したら、進学せずに働こうと決めた。

 高卒での就職はなかなか決まらなかったけれど、アルバイトならすぐに決まった。

 近所の倉庫だ。時給もいい。


 夢の中の私は大人になっていた。

 そこで働くおじさん、おばさんたちはとても親切だった。

 40代の主任はとても良くしてくれた。

 半年も経たないうちに会社がフォークリフトの免許を取らせてくれた。

 できることが増えて嬉しかった。

 おじさん、おばさんたちは、若いのだからどんどん挑めと応援してくれた。


 年末年始になると、期間限定のアルバイトにやって来た大学生の指揮を執ることもあった。

 主任からは補助役の仕事も任せられた。

 人生で一番楽しかったのは、この時期だったかもしれない。


 風向きが変わったのは今年の四月のことだった。新入社員がやって来たのだ。

 一人は男性の三条さん。今どきの若い男ってカンジだったけれど、誰にでも笑顔で接してくれてフォローも上手い人だった。

 こんな人が出世していくんだろうなって思った。


 もう一人は女性の白井さん。社員以外と会話しているところを見たことがなかった。

 あ、はなしかけられたことは何度かあったな。あれは会話というよりも確認と指示だったか。

 白井さんに睨まれていると感じたのは五月頃からだった。

 それから彼女から嫌がらせともとれることを何度もされた。思い出したくもない。

 もしかして、嫉妬されているんじゃない?

 職場のおばさんの言葉だ。私がバイト二年目なのに、色々なことを任されていたから?

 そんなバカな。


 バイトの後輩の指導を任されたとき。目を離すと後輩が指示とは異なることをやっていた。

 そのワケは……別のフロアから白井さんがやってきて、それでは効率が悪いからと別のやり方を指示していったと言った。

 そのときの白井さんは私と後輩がする仕事とは、まったく違う仕事をしていたはずだ。私が後輩に教えたやり方も効率が悪いとは思えない。

 ほかにも……ああ、思い出したくない。

 それでも、あの人の私を睨む目が鮮明に思い出される。


 とにかく職場に居づらくなってしまった。いつのまにか職場は怖いところになっていた。後輩はいつのまにか白井さんの補助にまわっていた。


 夏になった。主任は夏休みをくれた。昨年は取れなかったので、気を効かせてくれたのだ。

 でも、どうしよう。

 叔父の一家は私を置いて海外旅行にいく予定だ。

 そうだ。久しぶりに祖母に会いに行こう。

 祖母のことだ。そろそろ身体の自由も効かず、掃除もままならないだろう。


残業が終わり、私は夜行バスで祖母の家へ向かった。


「あれ? 辰巳さん」


 三条さんだ。彼も夜行バスに乗っていたんだ。

 彼の隣には、白井さんも座っていた。


「俺たち、明日からN県の観光地を巡るんだ。社員の○○さんや△□さんは先に車で向かったよ。辰巳さんも行き先はN県? 時間があったら合流できないかな」


 楽しそう。でも……。

 白井さんが睨んでくる。三条さん、私は遠慮します。


「そうか。残念だな」


 こうして私はおとなしくバスの座席に着いた。

 バスは発車し、窓の向こうの景色は、都会から山あいのものへと変わっていく。

 ああ、どうしてバスの中にも白井さんが。私は何か悪いことをしたのだろうか。

 バイト風情が職場で立ちまわっていたから? 身の程知らずだから?

 窓に疲れた私の顔が映っている。

 半年前まで、こんな顔していたっけ。


 そうだ。居心地が悪いのなら別のバイトを探そう。

 次は目をつけられないよう、遠慮して、下の者がやる仕事を粛々とこなせばいいんだ。

 誰かの指導なんて10年早い。指示を出すなんて私にはおこがましい。

 おじさんおばさんを差し置いて大きな仕事を任されても、自分では何もできないと断ろう。

 次の職場では、とことん遠慮し、周りの視線に気を配ろう。

 そうすれば、イヤな想いはしなくて済むんだ……。


 そして夜行バスはドラゴンに襲われた。

 逃げる私を、ドラゴンの大きな口が噛み砕こうとする。

 そうか。これは罰なんだ。私なんかが遠慮せずに生きてしまったから。

 だったら、死んでも仕方ないよね……


「フィリナさん!」


「はっ!」


 目を開ければ、ルティアさんが私の手を握っていた。


「ひどく、うなされていましたよ」


 リオハ村を出て、そろそろ一ヶ月。子爵様の街へ行く道中、大きな木の下で野宿をしていた。


「昔の夢を見ていました。もう大丈夫です。あ、もう朝ですか」


 朝日が周囲を照らしはじめる。

 リオハ村の西側は、迫るような山脈が南北にまたがり、その向こうは帝国と言われていた。

 この辺りまで来ると、山々の標高は低くなっている。

 外国へも、行こうと思えば行けそうだ。


「それだけ北上したんだな」


「ええ。もうすぐ子爵様の街につきますよ」


 ルティアさんは私の手を再び握り、起こしてくれた。

 彼女が目的は、街にいるという人物に会うため。

 私の目的は街の冒険者ギルドに登録し、神様からもらった天職と特技を使い、この世界で生きること。

遠慮も忘れずに。


 朝の支度を整え、馬にまたがるルティアさんのうしろに座る。


「ニャオン」


 ミックはルティアさんの前で器用にお座りしている。


「さぁ、行きましょう」


 ルティアさんは馬を進めた。

 子爵様が治める街。一体どんなところなんだろう。


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