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18.VSファイヤーゴブリン(2)

 新しく得た恐竜×魔法の消費魔力は4。既に得た恐竜×魔法の消費魔力は2。

 この瞬間もエオラプトル×俊敏性強化(小)を使っている。

 敵を攪乱しながら、身を隠せる場所に移動した。

 恐竜×魔法の効果が終了する前に大木の陰に隠れる。残りの魔力は32だ。


 木の陰から、そっと敵の様子をうかがうと、どうやら私を見失ったようで、辺りを見回している。

 ステータスオープン。解禁された恐竜×魔法は残りふたつ。

 どの恐竜と、どの魔法の相性が良いんだろう。


「冷凍では倒しきれないし。冷凍よりも冷やせる魔法なんて見当がつかないし」


 パンファギア×収納の力で武器を取り出すこともできる。けれども槍は敵の身体から噴き出す炎で、突き刺す前に焼かれてしまった。

 弓と矢も収納の中にあるけれど、矢を射ったところで刺さる前に焼かれてしまうだろう。

剣で斬ろうにも、敵が熱くて近づけない。


 敵の炎をものともしない武器か魔法はないだろうか。

 特技・魔法のステータス画面を眺める。


「『火炎』か」


 魔法の火なら敵の火を貫いてくれるかな。

 そう思ったとき、敵の姿が見えた。


「もうこんな近くに!」


 相手もこちらに気付き、火の玉を吐いてくる。それも特大だ。

 考えることに集中し過ぎた。相手の死角になるよう、背にしていた大木の裏側にまわりこむ。すると今度は。


 メキメキメキ……


「ウソでしょ」


 特大の火の玉が大木に命中。大木が折れて倒れてしまったのだ。

 しかも、この大木はアルマガ村の近くにあったものだ。

 森の中を真っすぐ逃げていると思っていたのに、村に戻って来てしまったんだ。


「グファア!」


「こうなったら!」


 ステータス画面。魔法から『火炎』を選択。

恐竜からは、二枚目の画面の中に正解があると信じて。


「グファア!」


「少しは考えさせてよ!」


 エオラプトル×俊敏性強化(小)。逃げ惑いながら恐竜のイラストに触れる。

 熱そうな名前はないものか。当然ファイヤーサウルスなんていない。名前から連想するしかない。


「火炎、燃える、熱い、真っ赤、太陽、温泉、湯気、溶岩、岩盤浴……」


 画面の中から四足歩行の恐竜が目に止まった。首と尻尾が長いけれど垂れ下がっている。背中が一番高いところにある。そんな恐竜だ。

 身体の色は赤茶色。まるで緑を失った山。赤い山だから燃えているように見える。


「山……山と火炎……火山だ」


 この恐竜のイラストに触れると名前が浮かび上がった。


「これに決めた。『火炎』×えっと、『ブルカノドン』!」


『ガオオオン! 解禁された恐竜×魔法を選ばれました!』


 やった! 敵に手をかざす。魔力が手に集中していくのを感じる。

 炎よ、お願い、出てきて。

 同時に敵が火の玉を吐いてきた。


「オマエには頼んでない! 出ろ! 火炎! できた!」


 手から火炎球が発射。

 敵が吐きだした火の玉にみるみると近づいていき、衝突、爆発した。


「きゃあっ」


 爆風で吹き飛ばされる。

 エオラプトル×俊敏性強化(小)を使っているときと違って、たいして体力面が強くなっていないみたい。地面に身体を打ちつけて、かなり痛い。

 それでも上体を起こして敵を確認すると、敵は倒れていないものの困惑している様子だった。それにしたって、まだやられてくれないなんて。


「まだ、生きていたのか」


「え?」


 振り向けば、弓矢を構えた伯父が立っていた。今度はアンタか!




 それにしても、どうしてここが。

 どうして私に矢を向けているの。

 本当に私のことが邪魔なんだ?

 ファイヤーゴブリンの戦いの中で私を殺そうと……


「どけフィリナ! 邪魔だ!」


「あっ……」


 敵を見れば真っ直ぐこちらに向かってきている。

 急いで立ち上がり、距離を取ると、伯父は敵に向けて矢を放った。

 けれど矢は敵の身体から出る炎で掻き消されてしまった。


「伯父さん、どうして?」


「助けに来たんだ。あれには勝てない。逃げるぞ」


「あ、はい」


 逃げながら伯父は教えてくれた。

 アルマガ村の生存者を乗せた馬車を、じゅうぶん離れた場所まで移動させたこと。

 そのあとはみんなをルティアさんに任せて、私を迎えに来てくれたこと。

 村の近くの大木が倒れたことで、私の居場所に当たりをつけたこと。

 伯父は危険を承知で私を助けに来てくれたんだ。


 伯父と共に森に入り、身を隠す。

 伯父は私を連れて真っ直ぐ馬車を追おうとはしない。敵も連れて行ってしまうことが分かっている。


「ここに隠れろ」


 伯父が選んだ場所に隠れれば、敵はこちらになかなか気付かない。

 私が大木の陰に隠れても、すぐに見つかってしまったというのに。


「フィリナ、無茶をするからこんなことになるんだ」


「……ごめんなさい」


「まぁ、囮役を買って出てくれたおかげでアルマガ村の連中は助かりそうだ。それに俺も昔はオマエの父親と森に入り、ゴブリンに追いかけられたこともある」


「え?」


 伯父は敵の様子を窺いながらはなした。


「俺も昔は自分の力を過信していた。しかし冒険者になって素人だと痛感した。冒険者からして見れば、狩人でもない限り、村育ちの者は罠を張って魔物を倒すことが精いっぱいだ。だからオマエには森には出てほしくなかった」


「元冒険者の伯父さんでもファイヤーゴブリンを倒すのは難しいですか」


「当然だ。あんな魔物、10年冒険者をやっていたが見たことがない。一体どこから湧いて出たんだ?」


「初めて見た……ですか」


 すると伯父はこちらに向き直り、苦虫を噛んだような表情になった。


「村のヤツらの、噂か」


 つい口がすべってしまった。


「信じてしまっても無理はない」


「それじゃあ、隣村にいたのは、本当にゴブリン」


「そうだ。たしかにオマエの父親と、その友人とは仲が悪かった。仲良くなれなかった。俺は一度、村を捨てた。片や村とともにずっと生きてきた連中だ。嫌われて当然だろうな。だからって、あんな魔物を使って殺そうなんて考えたこともない」


 それをちゃんと村の人たちに伝え……。

 そう言いかけて、口をつむんだ。

 私だって敵意を向けてくる相手とおはなしする勇気なんてない。

 以前の世界では叔母や白井さん、この世界でも伯父とも会話をしてこなかったんだから。


 伯父は再び敵の様子をうかがった。


「夜になったら馬車を追いかけるぞ。日が落ちればファイヤーゴブリンの身体は目立つ。今よりも逃げやすいはずだ」


 その発想はなかった。なかったけれど。


「倒さないんですか」


 せっかくブルカノドン×火炎が使えるようになったんだ。

 もう少しで勝てるような気がするのに。

 伯父は呆れたように私を見下ろす。


「バカなことを言うんじゃない。あんな魔物、腕利きの冒険者か騎士団でなければ」


「でも。でも、これ以上放っておいたら、また犠牲者が」


「自分も犠牲者になるつもりか。オマエは一度、アイツに焼かれて」


「次はリオハ村が犠牲になるかもしれません」


「村に来たら逃げれば良いだけだ」


 魔力はまだ28残っている。4分の1もあるんだ。


「伯父さん。あの魔物はお父さんの仇です。村のみんなの仇です。村の男の子のお父さんだって」


「それ以上、言うな」


「え?」


「俺を臆病者だと思っているのか。弟が殺されたんだ。誰よりもアイツに跳びかかりたい衝動を抑えているのは、俺なんだぞ」


 伯父は震えていた。怒っているんだ。ファイヤーゴブリンに。


「もし俺が屁理屈を捨てて、みんなと共に隣村へ向かっていれば。冒険者だった俺が行っていれば状況が変わっていたかもしれない。死人の数も減ったかもしれない。俺はずっと、そのことを考えていたんだ」


「伯父さん」


「フィリナだって記憶を失わずに済んだかもしれない。オマエ、気付いているか。父親を失ったというのに、俺の姪は涙ひとつ流せないんだぞ。そんなオマエにしてしまったのは、この俺だ。今さら伯父のツラをして仲良くなれるかよ」


 伯父は両手で私の肩を掴み「すまなかった」とつぶやいた。

苦しそうに震えていた。

 村のお酒に手を出したのも、きっと心が苦しかったんだ。


「これ以上、リオハ村は人を失うワケにはいかない。俺も、オマエもだ。こんなところで死んではいけないんだ」


 私だって同感だ。

 だからこそ、ここで倒さなければいけない気がする。

 私には恐竜と魔法の力がある。新たな力も手に入れた。

 それでも敵は倒せない。ここで、もう一手が欲しい。

 伯父は私から手を放すと、敵に目を向ける。


「伯父さん、もしものおはなしなんですが、あの魔物を倒すとするなら、どうしますか?」


「まだそんなことを。背負わなくていい。村長の孫娘なんて肩書きは捨てろ。きっと新しい村長は俺でもオマエでもない誰かが担うだろう」


「それはそうと……もし冒険者時代にあの魔物の討伐を依頼されたら」


「Eランクだった俺には罠を仕掛けることしかできない。あんな魔物と戦えるのは上級ランクの連中だけだ」


 罠か……。

 アルマガ村にも魔物対策の罠があるのだろうか。

 馬車に追いついて、村の人に聞いてみる? 

 時間もかかるし、落とし穴程度じゃ弱らせることもできない。

 せめて落とし穴の底に水が張っていれば。


「落とし穴を『水』の魔法で満たす? でも30秒しか使えないし」


 最初から水のある穴。井戸? 井戸ならリオハ村にもあった。この村にだって。

 いや、どうやって井戸まで誘導すれば。もっと簡単な……。


「喉でも渇いたのか。馬車に戻ってしばらく行けば川がある。それまで我慢しろ」


「川……そうか川だ。魔法で水なんて出さなくても川に誘いこめば」


 伯父の言葉で気付く。井戸に比べて川は大きい。

 魔力の残りなんて気にしなくても水は無限に流れてくる。


「伯父さん、ここで一番近い川を教えて下さい!」


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