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15.襲撃

 翌朝目を覚ますとルティアさんは部屋にはいなかった。

 外に出てみると彼女は薪を割っていた。


「おはようございます」


「おはようございます。フィリナさん。よく眠れましたか」


 よく眠れました。

 ルティアさんよりも早起きするつもりが、いつもより遅くまで寝てしまいました。


「フィリナさん、今日もゴブリン退治を?」


「はい。ゴブリンは森の果物を取ってしまいますから。なかなか見かけなくなりましたけれど」


「たしかに村の周辺では昨日のゴブリンだけでしたね」


「でもオバサンから一人で行くなと言われてしまいました」


「一人では行ってはいけないのですよね。二人ならどうでしょうか」


「え?」


「一日くらい出発が遅れても構いません。よかったら村の外で剣術を学びませんか。私の剣術は冒険者から習った程度のもので、剣術というには、おこがましいかもしれませんが。薬草を取りに行くということにして」


「いいんですか」


 やった。剣の扱い方を教えてもらえるチャンスだ。

 ゴブリンの効率的な退治も教えてほしい。


「なんだかフィリナさん、放っておけませんから」


「ルティアさんがいれば、ゴブリンの親玉、ゴブリンキングが出てきても安心ですね」


「ゴブリンキング?」


「昨日いた……」


「あれはゴブリンリーダーです。ゴブリンキングはもっともっと強いですし、この辺りにはいないと思いますよ」


 あれよりもっと強い魔物が存在するんだ。魔竜がいた世界だもんな。


「それにしてもゴブリンリーダーです。あの魔物はどうして村の近くに出没したのでしょう。もっと森の奥に住んでいるはずなのに」


 ルティアさんは首を傾げる。


「ゴブリンリーダーは、いえ、ゴブリンは住処を作る魔物です。獲物を探して歩き回るような魔物ではありません。ゴブリンリーダーが以前から村の近くに住んでいたということは考えにくいですし」


 あんな強い魔物が昔から村の近くにいたのなら、とっくに騎士団か冒険者たちに討伐されているということだ。


「それともうひとつ。フィリナさんがゴブリンリーダーとの戦いで持っていた盾のようなものですが、良かったら見せてくれませんか」


 魔法で出した盾のことだな。いきなり出すと驚かれるだろうから、一度家に入って部屋から持って来たふりをしよう。

 私は家の中で『エオラプトル×盾』で盾を出現させ、ルティアさんのもとへ走った。


「どうぞ」


 制限時間は30秒です。


「う~ん」


 私が手にした盾をジィッと眺め、表面を指でなぞるルティアさん。

 もし盾が彼女の手に渡ったら、盾はどうなるんだろう。消えるのだろうか。


「やはり、これは竜鱗材ドラゴアーマーです!」


「え?」


「竜鱗材とは昔、魔竜と戦った聖竜の亡骸から得ることのできる希少な素材です。鋼鉄の武器でも傷はつきません」


 そういえばゴブリンリーダーに吹き飛ばされても、この盾は壊れることがなかった。


「フィリナさん、こんな希少なモノをどこで手に入れたのですか」


「え、それは……」


 神様からもらったモノで。もう私の天職と特技を白状してしまおうか。

 そうなると、自分の天職と特技をどのようにして知ったのかという話になる。この村には鑑定の魔道具なんてないのだから不自然だ。

 私がフィリナちゃんに生まれ変わったことも白状することになる。そうなると面倒なことにならないだろうか。

 村のみんなが知ったらショックだろうな。どうしよう。

もうすぐ30秒終わる。どうしよう。


「おーい! みんな来てくれ」


 村の人の声だ。北のほうから聞こえる。ずいぶん大声で人を呼んでいるようだ。

 ルティアさんは盾から視線を逸らし、北へ目を向ける。


「なにかあったようですね」


「行ってみます」



☆☆☆



 村の北の門は開け放たれ、多くの人が疲れた様子で門の近くに座り込んでいた。

この村の人じゃない。50人くらい。倒れている人、泣いている人もいる。


「誰か手当てしてやってくれ!」


 向こうには傷を負った人……あの傷は火傷だ。大火傷を負った人が村の人に抱えられていた。


「何が起きた!」


 お祖父さんだ。騒ぎを聞きつけ、足を引きずりながらやって来たんだ。


「俺たちはアルマガ村の者だ。真夜中、村が魔物に襲われたんだ。それで逃げてきたんだ」


「村が襲われたじゃと? 魔物の群れが現れたとでもいうのか」


「群れなんかじゃない。たった一体の魔物だ。全身が燃えていた。そいつに家も家畜も仲間も焼かれちまったんだ」


「それは……まさか」


 ファイヤーゴブリンだ。ほかの村にも現れたんだ。


「村長、まずは皆さんを休ませましょう。ケガ人もいます。詳しい話は代表者の方から」


 ただ事でないと悟ったのか、ルティアさんがお祖父さんに言った。


「ルティアどの。そうじゃな。村の者、アルマガ村の者たちに水と薬を分けてやれ」

 



 代表者の話では、リオハ村に辿りつけたのは運良く村から脱出できた者のみ。

 あとの人たちは別の場所へ逃げたか、焼き殺されたか……。ここにいない者の消息は分かっていないという。

 ファイヤーゴブリン。隣村に現れてから二ヶ月以上姿をくらましていたけれど、再び現れたんだ。

 どうしよう。街から冒険者がやってくるまで、あと一ヶ月はかかる。


「アルマガ村が……」


 オバサンは呆然としている。今知ったことだけれど、オバサンはアルマガ村から嫁いできた人だ。親兄弟がアルマガ村にいる。


「おばあちゃん……」


 ヘレラちゃんのおばあちゃんだって同じだ。


「村長、アンタの息子は元冒険者だって聞いたぞ。魔物の退治に向かわせてくれないか」


「息子……ピサノにか」


 お祖父さんは辛そうだ。村ひとつ焼き払う魔物の討伐なんかに息子を行かせたくないんだろう。お祖父さんは、すでに息子を一人失っているんだ。

 こちらの様子をうかがっていた伯父も渋い顔をしている。


「まだ生きている人間がいるかもしれない。魔物は倒さなくてもいい。せめて生存者の救出だけでも」


 代表者がお祖父さんに懇願した。

 かつて隣村でフィリナちゃんたちの焼死体を回収したオジサンたちも首を横に振っている。もう怖い思いはしたくないんだ。


「冒険者なら、ここにも一人います」


 ルティアさんだった。


「村長。生存者の救出なら、今の装備でもやれないことはありません」


「ルティアどの。頼れるのはあなたしかいない。しかし孫の恩人でもある」


「構いません。生存者はケガをしているはず。馬車の用意を」


「ルティアさん……」


 ルティアさんは私に微笑んだ。


「私は騎士を志す者。魔物に焼かれた村を見過ごすわけにはいきませんから」




 こうしてルティアさんがアルマガ村へ向かうことになった。

アルマガ村の代表者も案内人として同行する。


「私も行きます」


 私も名乗りを上げた。


「ダメじゃ。オマエはまだ子供。いくら力が強いからと」

「そうだ。ここは冒険者に任せておけばいい」

「また危険な目に遭ってしまうぞ」


 お祖父さんや村の人たちが反対する。気持ちはありがたい。でも……。


「エオラプトル×俊敏性強化(小)!」


 私は一瞬でお祖父さんたちの背後にまわった。


「え、あ、あれ?」


 村の人たちは目を丸くしている。


「私は神様から力を授かりました。この力でアルマガ村の人たちを助けたい。もう焼き殺される前の私じゃない。危ないときは、この力で逃げおおせます。だから、行かせてください」


「フィリナ……」


 お祖父さんは黙りこんだ。



☆☆☆



 馬車の準備が整う。アルマガ村はリオハ村から見て南東の方角にある。歩いて半日かかるという。


「馬車だと、もう少し時間がかかるかもしれませんね」


 まだ朝だ。季節は収穫期前。

 日が落ちるまでにはアルマガ村へつけるとオバサンが言っている。


「お祖父さんたち、黙っていたけれど、行っていいってことだよね」


「きっとフィリナさんの力に驚いてしまったのでしょうね。それにしても」


 ルティアさんの視線が伯父に向いている。

 驚いたことに伯父も名乗りを上げたのだ。元冒険者ということが理由らしい。


「フィリナちゃん!」


 馬車に乗り込もうとすると、ヘレラちゃんが駆けてきた。


「あの……」


「大丈夫。ヘレラちゃんのおばあちゃんは、きっと助けてあげるから」


「……うん」


 おばあちゃん一家は村の外れに住んでいるという。さらにおばあちゃんは腰が悪い。

 下手に逃げずに、村の外れの家の中で閉じこもっていれば、もしかしたらファイヤーゴブリンに狙われずに済んでいるかもしれない。


「おいっフィリナ!」


 今度は、いつかの男の子だった。

 私と一緒に隣村でファイヤーゴブリンに焼き殺された村人の息子さんだ。


「アルマガ村には僕のお祖父さんも住んでいるんだ。助けてあげてほしい」


「うん。任せといて」


 そう言って馬車に乗り込む。


「ピサノ、フィリナ、死ぬでないぞ。ルティアどの、みんなを頼む」


 お祖父さんの言葉に御者のルティアさんは頷くと、馬車をアルマガ村へ走らせたのだった。


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