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最終話.新たなる夢

 領内の村が魔物に蹂躙されそうになっている。

 エリーから報告を受けた私とキコア、ルティアさんは、騎士隊に先駆け現地入りした。

 そして村に侵入せんとする魔物の集団を駆逐したのだ。

 すると狙われていた村……ネウケン村の村長は私とキコア、ルティアさんを自宅に招いてくれた。


「よくぞ村の危機に駆けつけてくれましたな。感謝いたしますぞ」


「明日になればオスニエル領の騎士隊がやって来ます。山の向こうに村を構えるというゴブリンキングの討伐に行きますので」


 ルティアさんは村長に頭を下げる。

 ネウケン村の森の向こうにある大きな山。そこで崖崩れがあった。

 それを期に、そこに住んでいたのであろうゴブリンの集団が、村の近くまで移住してきたのだ。

 ただのゴブリンなら、まだいい。その集団はゴブリンキング率いるものだった。

 山に狩りに出ていた村人は、ゴブリンキングを確認すると、村にやって来ていた巡察員に報告。

 巡察委員はすぐさま街へ戻ると、子爵様へ報告した。


 村人らは私たちに気を使ってくれているようで、次々と食べ物とお酒を持ってきてくれた。


「Aランク冒険者のキコア殿と言ったな」


 そう話しかけてきたのは、先ほど村の入口でゴブリンの集団と戦おうとしていた男性だ。


「失礼。俺は村長の息子だ。キコア殿は、もしかすると『キコアサウリア』のリーダーなのか」


「よく知ってるじゃんよ。オジサン」


 キコアは竜鱗材ドラゴアーマーの槍を横に置き、振る舞われるお酒を飲みながら答える。


「やはり、そうか。実は俺も少し前まで冒険者だったんだ。今は父を助けつつ、森ではゴブリンの監視を続けていた。ヤツらはこちらの罠をものともせず、西へ西へと勢力を伸ばし、ついに村までやって来たところだった」


 そして村が蹂躙される寸前で、私たちが駆けつけたんだ。


「ところでキコア」


 私はお酒をくらっているキコアに聞いた。お酒は村人の大切な楽しみなのだから、あまり飲まないでほしい。


「キコアのパーティの人たちは?」


「おう。今は北端の森に沸いたストレンジゴブリンの討伐を任せてる。俺はこっちに興味がわいて、こっちに来たんだ」


 リオハ村に私を迎えに来てくれたのは、キコアなのだ。

 私は春から収穫期までリオハ村で畑仕事をしている。伯父が村長となり、ヘレラちゃんが女性衆のリーダーとなり、アルマガ村と協力しながら作物を育てている、おだやかな村。

 冬の期間、私は街に出向きキコアのパーティでお世話になっている。


「キコアサウリア。魔竜調査団の命を受け、王国内外で活躍するパーティのリーダーがネウケン村に。感謝しかない」


「アンタ、詳しいな」


 キコアが上機嫌で男性に返した。


「まあな。俺だって10年も冒険者をしていた。これでもEランクまで上った。だが日の目が出ずに村に戻ってきたんだ。ギルドの英雄くらいなら知っているさ。ところでフィリナさんと言ったな」


 今度は私だ。


「もしや数年だけ存在していたという『フィリナサウリア』のリーダーか?」


「それはワシも聞いたことがあるぞ」


 村長が元気に喋り出した。


「南方伯領では大怪鳥と魔虫王を殲滅。国内の3つのダンジョンを鎮静化。帝国では転覆を企てたドルファルト家を、現地の冒険者と共に拘束。さらに国内に度々現れるようになった魔竜を退治してきたという英雄ですな」


「まぁ、だいたい合っています」


 ガスパリーニ領の討伐戦から数年で、いろんなことがあったな。おかげでシアンタは一度も貴族学校には通わず、エリーはほとんど貴族学校には行けなかった。

 復讐のために帝国転覆を企んでいたミキナス・ドルファルト。彼を拘束してからも、彼から魔竜の血をもらっていた竜魔人が、たびたび王国や帝国で騒動を起こしていた。

 魔竜も何度も現れた。

 魔王の残した力は、まだまだこの世界にあるようだ。

 リナンから通信の魔道具に連絡があるたびに、私たちは出撃し、騒動を鎮圧してきた。


「戦後以来、魔竜に蹂躙されていた『失われた大陸』が王国の手に戻ったと聞いたときには驚きましたぞ」


 村長は言う。うん。帝国とは違う、もうひとつの隣国『ジュンガル獣人国』を助けに行った際の、帰りの出来事だな。

 あのときはエリーの学校の生徒さんや講師陣、さらにはミラクル☆ミサオン、いろいろな人に助けられたよ。


「村長さんは、よくご存知ですね」


 ルティアさんは村長さんに問う。


「そりゃそうじゃ。巡察員殿はおしゃべり上手。国内の情報が耳に入り楽しんでおりますじゃ」


 この辺りの担当の巡察員といえばアナだな。彼女は冒険者から巡察員になったんだ。そんなアナはエリーと仲良し。いろんな情報を耳にしている。

 妹のビーゼちゃんは今や凍結魔法分野の最強魔法士『氷結の女王』として王都魔法士団の一員になっているんだ。

 リナンは魔竜調査団のメンバーから、新たに設立された魔物調査団の幹部に出世。人々を脅かす王国内の魔物の動向に睨みを利かせている。


「ところでゴブリンを全滅させたわけではないんだよねぇ」


 村長の家に料理を運んできた大柄な女性が言う。


「見張りの男たち、村の中に戻しちまったけれど、いいのかい?」


「心配ありません。私の妖精たちがちゃんと見ていますから」


 ルティアさんが頷く。

 彼女は南方伯領での戦いの後、大妖精使いに覚醒した。操るミックは13匹に増え、今も村の外で監視をしてもらっている。

 ミックたちを束ねるのは巨大な黒い虎の妖精『ミレニアム・クイーン』。略してミックだ。

 ルティアさんはオスニエル領の女性騎士隊の隊長。

 夢が叶い、副騎士団長となったウィナミルさん直属の部隊長となっている。




「あの……」


 夕食が終わり、そろそろ明日のゴブリンキング討伐に備えて就寝しよう。そんなときに私は村長に質問した。


「私たちが駆けつけたとき、ゴブリンたちと戦おうとしていた女の子は、何者なんですか?」


 10歳くらいの女の子。木の棒の先に刃物をくくりつけただけの粗末な槍で、ゴブリンたちを追い払おうとしていた子だ。


「それはワシの孫娘ですじゃ。病で両親を亡くしたというのに、村のために頑張っておる。冒険者だった伯父から英雄譚を耳にし、自分も人々を守ろうと躍起になっておる、じゃじゃ馬ムスメじゃよ」


 誰に似たんだか。そんな村長の視線を受けて、息子さんは頭を掻いた。

 私は続けて聞いてみた。


「その子は、どこにいるんですか?」



 ☆☆☆



 きっと村の広場だろう。村長はそう言った。

 村長宅で就寝の準備を始めていたルティアさんとキコアを置いといて、私は孫娘さんを迎えに行った。

 ルティアさんは


「あの子、フィリナさんと同じで保護欲を掻き立てられます。私も行きます」


 と言っていたけれど、明日に備えて休んでもらった。


 村の広場は、丸太が点在しているだけの、ただの広場だった。遊具もベンチもない。

 そんな広場の丸太には、例の女の子が腰を下ろしていた。深刻な顔をしている。


「私、何もできなかった。絶対に力があると思ったのに」


 そうつぶやく女の子に近づいて行く。


「こんばんは」


「あ、さっきの強いお姉さんだ」


「私の名前はフィリナ。あなたは?」


「ファリーネ」


 似たような名前だな。


「そろそろ帰って寝よう。私たち、ファリーネちゃんのお家にお泊りするんだ。ゴブリンが来ても怖くないよ」


 もっとも、ゴブリンらの第2陣が来ようものなら、村の外に配備されたミックらが気づいて、村に来る前にルティアさんが倒すだろうけど。

 ファリーネちゃんは暗い顔で地面を見つめている。

 怖くて眠れないワケじゃない。何かわけがあると察した私は、彼女の隣に座った。


「ファリーネちゃんは強いね。あれだけのゴブリンを前にして怖がらなかったんだもん」


 彼女はずっと、槍の矛先を魔物に向けていたんだ。

 そんな彼女はぽつりと喋り出した。


「私ね、ずっと念じていたんだ」


「ん?」


「私の力。天職と特技があると思ったのに。それでも応えてくれなかった。私って、何もない人なのかな」


 彼女は親指を噛みながら、視線を落としている。

 ファリーネちゃんの両親は亡くなっている。村長の孫娘。伯父は元・冒険者。なんだか似ている。


「そうだ。お姉さん!」


 彼女はこちらに顔を向けた。


「フィリナって名前なんだよね。もしかして『フィリナサウリア』の人?」


 この子も知っているのか。私は聞いた。


「伯父さんから聞いたの?」


「うん。あとエリザベス様からも。フィリナっていうスゴイ人がいるって」


 エリーは貴族学校を卒業し、15歳で成人となると、領内の街や村を渡り歩き、挨拶回りをしたのだ。これは貴族としては異例のことだった。そのときに聞いたのかな。

 さらにエリーは物資の流通のない村々には、ポーションや日用品を配布していた。

 巡察員に薬や嗜好品を持たせて、仕事のついでに村々に配る制度を作ったのもエリーだ。


 冒険の中で彼女は念願のミラクル☆ミサオンとの再会も果たした。

 成人してからのエリーの仕事ぶりは、きっとミラクル☆ミサオンと共に過ごした経験が原動力になっているんだと思う。


 そんなエリーは隣領のピアノニッキ伯爵家の嫡男と結婚。

 オスニエル領ととつぎ先を高速魔空船で飛び回り、両領の治安維持担当貴族として騎士団の上に立っている。


「ミラクル☆ミサオン。やっぱり私と同じ転生者だったな」


「お姉さん?」


「うん? なに?」


「私ね、エリザベス様からいっぱい聞いたんだ。そうだ。シアンタっていう人は、大人になって何をしているの?」


「シアンタは聖竜騎士になって暗黒大陸に遠征に行っているよ」


 彼女は王国から実績を認められ、若くして聖竜騎士を拝命した。まだ彼女のお祖父さんやお父さんが存命中にも関わらず、だ。

 よって6人目の五大武侯なんて呼ばれている。


 そんなシアンタ。王国内はもちろん帝国、獣人国、周辺国の聖竜剣士の若者を率いて、現在は暗黒大陸へ乗り込んでいる。生き残りの魔竜を討伐するためだ。

 ハルシュカは回復魔法の使い手として、聖竜剣アンガトラマーは相棒として、シアンタのパーティにいる。


「いいなぁ。エリザベス様とシアンタさんには『天職』と『特技』があって。私にも絶対あると思ったのに。あれば街に行って冒険者になって、この村にいっぱいお金を入れてあげられるのに」


 そうか。ファリーネちゃんは村の役に立ちたいんだ。だから魔物に立ち向かおうとしていた。村長の孫娘として。

 なんだか親近感の沸いた私は、彼女を抱きしめたくなった。

 『天職』と『特技』がなくても、キコアみたいにAランク冒険者になれた女性はいるんだ。

 そう言おうとして、彼女の頭を撫でようとした。


 そのときだ。


「本当、これ、なんなんだろう」


 隣に座るファリーネちゃん。彼女と私を妨げるように、光の壁が現れた。

 驚いて正面にまわると、彼女の左右には、スマホ画面を大きくしたような壁が現れている。

 彼女の右側には、恐竜のイラストの描かれた画面が。彼女の左側には魔法名と思しき文字の書かれた画面が。

 ファリーネちゃんが画面を横にスワイプすれば、新たな画面が流れてくる。

 見たことのない恐竜のイラストが。ひとつの画面にたくさん描かれている。

 私の知らない魔法名が。ひとつの画面にいくつも表記されている。


「『天職』と『特技』じゃないんなら、なんだろう。これ?」


 これは私と同じ『恐竜』と『魔法』のステータス画面だ。

 彼女はそれを見て、首を傾げている。

 思い出した。超魔王竜との戦いのとき、聖竜剣カムイサウルスは聞いてきた。


『汝の望むことは何だ?』


 あのとき、私はみんなを助けるために力を欲した。さらに、私は…本当のフィリナちゃんの復活も望んでいたんだ。

 でも、私はこうして生き残り、みんなと共に超魔王竜を打ち倒した。

 異世界転生してきた直後、私は水の張ったかめで自分の顔を確認した。その意識は、ファイヤーゴブリンに焼かれてしまったツルツルの頭部に向いていたけれど。

 ファリーネちゃんの顔を見る。彼女の顔、よく見れば、あのときの私の顔に似ている。


 カムイサウルスめ。あれからピンチのときにしか目覚めない怠け者かと思いきや、ちゃんと最初に私の願いを叶えていたんだ。

 私は腰に差した聖竜剣の柄を撫で上げる。

 フィリナちゃんはファリーネちゃんとして生まれ変わっていた。

 さらに私と少し違う『天職』と『魔法』を身に付けて。

 私はそう思うことにした。


 そんな彼女はステータス画面を眺めながら、表情を歪ませている。

 そうか。この子、恐竜と魔法の使い方が分からないんだ。


「お姉さん、どうしたの?」


 クスクスと笑う私に、ファリーネちゃんは不思議そうに見上げてきた。


「ねぇファリーネちゃん。あなたにはちゃんと『天職』と『特技』があるんだよ」


「え? 本当!」


 彼女はステータス画面を消すと立ち上がった。


「だったら私、村の人たちはもちろん、困っている人たちを助けたい。いっぱい稼いで冬のぶんの食べ物を買って、王国中の村に配るんだ。ねぇ私の『天職』と『特技』って何?」


「あなたの夢を叶える、その名前は」


 息を吸い込んで、私は新たな仲間と大きな夢に、その名を伝えた。


「ダイナマジック! 恐竜×魔法!」


読者の皆様へ。

この物語は、これにて最終回です。

最後まで応援していただき、ありがとうございました。


いいね! をくれた読者様。

ブクマをつけてくれた読者様。

ポイントをくれた読者様。

誤字脱字報告をしてくださった読者様。

感想を寄せてくださった読者様。

ここまで読んでいただいた読者様。


励みになりました。勉強になりました。

また皆様に物語を届けられたらいいなと思います。


ありがとうございました。

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