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126.救助

 フィリナサウリアがガスパリーニ子爵領における未知の魔物の討伐、そして南方伯領の大森林における怪鳥と魔虫の大討伐を終えてから10年の月日が経過した。


 ここはオスニエル領の東端にあるネウケン村……その東側にある森の中だ。

 月明りが照らす森を、数人の男性が松明を手にしながら駆けている。


「つり橋を落とした。落とし穴も作った。でもヤツらは乗り越えてきた。どうなってんだ」

「ただのゴブリンじゃねぇ。ゴブリンキングが率いる集団だ。頭だって体格だって良いんだろうな」

「ほかの魔物を手なずけていた。どうするんだよ。このまま村に逃げ帰ったって、ヤツらが村へやってきたら……」


 男たちは答えを求めるように、リーダー格の男に目を向ける。


「2ヶ月前に巡察員には報告した。子爵様の街から冒険者が来るのを待っていたが」


 リーダー格は、そう言いながら、男性陣を伴って村へと駆ける。


「ヤツらがすぐそこまで迫ってきている。このことを村のみんなに伝えて急いで逃げるんだ。俺たちじゃヤツらに勝てない」


 村を捨てるときが来たんだ。リーダー格の男性は、その言葉を飲みこむ。

 とにかく、見張りを勤めていた自分たちが生きて帰り、脅威を村民に伝えなければ。

 伝えなければ村人全員が蹂躙されてしまう。

 村が見えてきた。村の入口には一人の少女が槍を手に立っていた。


「松明の明りが見えたから。伯父さん、もしかしてゴブリンが?」


「どうしてオマエがいるんだ!」


 リーダーの男は少女に怒鳴った。


「悪いゴブリンが村にやって来るんでしょ。だったら私がやっつけてやる。私には力が」


「バカを言うな。村のヤツら全員に伝えろ。西に向かって逃げるんだ。そうでなくては、全員殺される!」


 ガルルルル。

 獣の鳴き声。振り返ると、キラーウルフに乗った大きなゴブリンが、こちらに眼を光らせていた。

 あとから、続々とキラーウルフに跨ったゴブリンがやって来る。


「ゴブリンリーダーか。あとをつけられていたのか」


 男性陣が顔面蒼白となる中、リーダーの男性は背中の弓を手に取った。


「ここは俺が死守する。オマエたちは村のみんなに伝えろ。村を捨てて逃げろってな」


 男性は矢を放つが、ゴブリンリーダーは棍棒で難なく弾き返してしまう。

 それを見た男性陣は敵わないと悟ったのか、村の中へと走り込み、ゴブリンの襲来を声高に叫んだ。

 今さら逃げたところで何人逃げきれるか。そう考える男性に、キラーウルフから降り立った一体のゴブリンが襲いかかって来る。

 男性は腰のなたを思いきり振り回し、なんとか後退させる。

 腕に激痛。見れば鋭利なナニカで抉られた跡。出血が始まった。


 ゴブリンの手には鋭くとがった木の枝があった。あんな程度の物に刺されてしまったのかと、男性は歯ぎしりをする。

 ゴブリンリーダーやゴブリンらは、ニヤニヤと男性を見つめている。

 たいして、こちらはゴブリン一体を押し返すだけでも深手を負ってしまった。


「ゴブリンの大群にキラーウルフ。冒険者でも無理だろうが」


 そんな彼の前に小さな影が滑り込んだ。


「ここは私が戦うから!」


「バカ! オマエ!」


 先ほどの槍を持った少女だ。彼女は果敢にもゴブリン、飼いならされたキラーウルフの集団に槍を向ける。


「ギャギャギャ!」


 先ほどのゴブリンだ。対戦相手が小さな少女に変わるや否や、余裕とばかりに接近してきた。

 男性は少女の正面にまわりこみ、ゴブリンに背を向けて彼女を抱きしめる。

 男性は死を覚悟した。

 少女は、それでもゴブリンから目を逸らさず、槍を手離さなかった。

 ゴブリンは、そんな二人を獲物とみなし、武器を手に飛びかかる。

 そんなとき。


「ウェロキラプトル×俊敏性強化(大)!」


 風が吹いたかのように思えた。

 男性は振り返ると、そこには黄色い布を頭に巻いた長髪の女性……といっても、だいぶ年下だが……そんな黒髪の女性が、剣でゴブリンを斬り伏せている光景があった。

 彼女の持つ剣は月明りに照らされ、奇妙な光沢を放っている。初めて見るような不思議な剣だ。


「さっきまで、いなかったよな?」


 男性は思わず口にした。


「跳走獣から降りて走って来ましたから」


 女性は振り返り、そう返した。

 走ってきたって。だからって先ほどまで気配はなかったぞと男性は思う。彼女の言うことが本当ならば、どれだけ遠方から高速で近づいてきたかということだ。


「あっ!」


 抱きしめていた少女が何かに気付く。

 少女の視線の先を追えば、見たこともない大きな馬から、一人の男性が降りてきた。


「フィリナ。勝手に先行くなって」


「ごめんキコア。でも、この人たちが襲われそうになっているのが見えたから」


 キコアと名乗る人物。声からして男性でなく、背の高い女性だったのかと男性は思う。短髪と挙動から、男性と見間違えたと。


「そうかよ。あ、コイツらが報告にあったゴブリンだな。久しぶりのキラーウルフもいるじゃんかよ」


「ゴブリンキングはいないみたい。明日にでも捜索しなくちゃ」


 そんな二人の前には大群がいる。強敵キラーウルフに乗ったゴブリンたちが。そんなゴブリンらはゴブリンキングの息のかかった、知能あるゴブリン。

 さらに今はゴブリンリーダーに率いられている。


 そんな中、眼の前に立つ二人の女性からは、恐怖や諦念は微塵も感じられない。

 ゴブリンリーダーは彼女たちから何かを感じたのか、雄叫びをあげる。

 次に、ゴブリンやキラーウルフが一斉に襲いかかってきた。


「行くぜフィリナ!」


「うんキコア。ここから先は、一歩も進ませない」


 男性は我が目を疑った。たった二人の女性が、ゴブリンとキラーウルフの大群を殲滅していく。

 まるで二人を境に、見えない壁がゴブリンの前に立ちはだかっているかのようだった。


「あなたたちは、一体?」


 男性はつぶやく。


「俺はAランク冒険者のキコア! オスニエル領のエリーの命令で、ここに来たぜ」


「Aランク?」


 見れば、キコアと言う女性が振り回す槍は、冒険者の中では成功の証と言われる竜鱗材ドラゴアーマー製だ。


「私はEランク冒険者のフィリナ。エリーのお願いでリオハ村からやって来ました」


「Eランク?」


 男性は思う。Eランク冒険者が、ゴブリンに迫り、剣で斬り伏せる。ましてやキラーウルフの首を傷も負わずに吹き飛ばすなんて。


「あ!」


 そんなフィリナの前に、棍棒を構えたゴブリンリーダーが飛びかかって来る。


「フィリナさぁぁぁん!」


 そこへ、猫耳と猫の尻尾を生やした女性が駆けこんでくる。同時にゴブリンリーダーの腕を剣で斬り落とした。


「間にあいました!」


「ルティアさん? 一緒に来るって言っていた騎士隊はどうしたの?」


「随分先で野営をしています。フィリナさんが討伐に参加すると聞き、私は居ても経ってもいられず、大きくなったミックに乗ってやってきました」


 そんな彼女たちの前には、依然としてゴブリンとキラーウルフの集団が対峙する。


「大技を使うよ。キコア、ルティアさん。ちゃんと避けてね」


「マジかよ」


 キコアと言う女性が馬に戻り、跨って村へと走っていく。


「あなたたちも、早く!」


 ルティアと言う女性に促され、男性は少女を抱えて村へと避難する。

 フィリナという女性を一人にしていいものかと男性は思うが、それでも不思議な空気に呑まれて従ってしまった。


「トゥパンダクティルス×雷撃。消費魔力10倍!」


 フィリナの右手から稲妻がほとばしる。空気を走る幾筋もの輝きは、ゴブリンリーダーやゴブリン、キラーウルフを飲み込み、魔物らの身体を一瞬で塵芥と化した。


「強い……」


 戦いは終わり、男性から離された少女は、強い眼差しを女性に送った。


「剣士だと思ったが魔法使いだったのか。待て。Eランク?」


 男性は、夜風に流され、消えてゆく魔物たちの残骸の前で、悠然と剣を下ろす女性に聞いてみた。

 フィリナと名乗った若い女性は振り返る。


「だって私、冒険者になって10年しか経っていません。今や一年のほとんどはリオハ村で過ごしています。Eランクであるのは当然ですよね?」


次回はフィリナの視点に戻り、最終回となります。

投稿時間は朝7時。

どうぞよろしくお願いいたします。

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