125.転生遠慮少女と夢見る冒険者
超魔王竜はやっつけた。
けれど隣の南方伯領では怪鳥と魔虫との戦いの幕が上がろうとしている。もう始まっているかもしれない。
そこで私たちはガスパリーニ子爵の御子息をリーダーとした、追加派遣隊として南方の騎士団、冒険者たちを助けに行くことになった。
竜魔人・ミキナスの次の手が分からない以上、私たちはできることをするしかない。
「お姉さんがた」
リナンだ。寂しそうに見上げてくる。
「本当はリナンもご一緒したいんですが」
「リナンにはリナンにしかできないお仕事があるよ。お父さんと一緒に、王国の平和を守って」
王国には、魔竜やファイヤーゴブリンのような魔物が、まだまだ潜んでいるかもしれない。まだ知らない竜魔人が悪事を企んでいるかもしれない。
「南方の件はお任せ下さい」
「また、どこかで会えるよな?」
ルティアさんとキコアが話しかけると、リナンは気持ちを切り替えたように笑顔を作った。
「はい。リナンは魔竜調査団の一員。これまでよりも精力的に魔竜が絡んでいそうな案件を調査したいと思います。新たな事件や分かったことがあれば、すぐに会いに行きますね」
ラテロシュタイン侯もやってきた。
「フィリナ君。娘から聞いたよ。なんでも魔竜や竜魔人と戦うたびに強くなるらしいな」
「そうなんです。よく分かりませんが」
超魔王竜との戦いのあと、新たに3つの恐竜×魔法が解禁されていた。
「キミはまるで魔竜の天敵だ。国内に魔竜がらみと思しき事件が発生した場合、今回のように協力してもらうことが多々あると思う。そのときはよろしく頼むよ」
「わかりました」
「キミたち専用の通信魔道具を届けさせよう。健闘を祈る」
「リナンたちはこのあと王都に戻ります。お姉さんがた、お気をつけて」
私たちは侯爵様とリナンに頭を下げる。
「王室直属の調査団、ご用達の冒険者パーティか。来るところまで来たって感じだな」
キコアがニヤニヤしだした。
御子息護衛の親衛隊は状況が理解できないのか、口が半開きだ。
「おーい。まってー。フィリナたち~」
一頭の馬が走りこんでくる。馬には二人の人物が乗っていた。
むむ。この展開は。
馬から降りた二人組は冒険者のアナとビーゼの姉妹だ。
「アタシたちも連れていってよ。支部長の許可は取ってあるから」
「なにかの役には立てると思うんです」
支部長を見ると、黙って笑っていた。
ルティアさんが聞いた。
「危険な目に遭うかもしれませんが、よろしいんですか」
「危険が怖い冒険者なんていないって。みんなと一緒なら成長できると思ってさ」
「じゅうぶん承知です。フィリナさんの凍結魔法。すごいと思いました。勉強させて下さい」
二人ともヤル気満々だ。
「冒険者はこうでなくっちゃな。よし二人とも俺たちの仲間だ。面倒は俺が見る」
『良かったじゃねえかキコア。フィリナサウリア(仮)のメンバーができて』
嬉しそうなキコアに聖竜剣が声をかける。
「あのルティア殿」
親衛隊から一人の騎士が歩み出てきた。若い女性の騎士だ。
「討伐戦での活躍、留守番長から伺った。私は当時、街の警護を任されていたのだが」
「はい」
「ダンジョン攻略、そして魔竜の撃退。私はキミのことを尊敬している。私は親衛隊ではないが、キミたちと共に戦いたいと思い、今回志願した。よろしく頼む」
「こちらこそ! よろしくお願いします!」
ルティアさん。将来のお手本となる女性と一緒に旅ができて嬉しそうだ。
はっ! 今度は鋭い視線を感じる。
振り向けば大きなカバンを背負い、両手に大荷物を抱えたハルシュカがいた。
「間にあったか。私はいつでも出立できるぞ」
ハルシュカ、もしかして来るの? 彼女は首を傾げると。
「ん? ああ。僧正さまの許可は得ている。回復魔法の使い手も必要だろう」
同行することが当然な状態だな。
「ところでフィリナ。カミュサルの言葉で気になったことがあったのだが」
ハルシュカは耳元でコソコソと喋り出した。
「カミュサルは『魔神』という言葉を口にしていただろう」
思い出してみる。
『我が名は神の使い、聖竜カムイサウルス。魔神の攻撃を受けて目覚めた者……』
たしかに言っていたな。
「魔竜大戦のときにも神との交信を天職とする者がいた。私の曽祖母だ。神から聞いた話によれば、魔王とは、古の時代に神と戦った悪の神『魔神』なのだそうだ」
つまり。魔王は大昔から存在していて、100年前に復活したってこと?
そして魔竜を率いて人類と戦争を始めた。
そう言えば神様、ワケあって地上には降りられないって言っていたな。
なんだか複雑そうだ。
シンクロンは言っていた。ミキナスは魔王の残した力を得たって。
今後、王国や帝国で魔竜や魔物が暴れることになったとしたら。
「これ以上悲劇なんて、起こしたらいけないんだ」
そのためには力が必要だ。
竜魔人や魔竜が悪さをする前に、見つけ出して戦って、恐竜と魔法の力を解禁させていかなくちゃ。
「跳走獣がやって来たようじゃの」
お爺さんに言われて見てみれば、6本足の馬にひかれた大きな馬車がやってきた。何台も。
この時期、空路では別のガルーダの群れと遭遇するかもしれない。
私たちは魔剛馬よりも速い魔物の馬車に乗って、陸路で南方伯領を目指すのだ。
「エリザベスよ」
子爵様だ。
「最後に確認する。本当に行くのだな、皆の者?」
「はい。南方の安寧、魔物の討伐、御子息の護衛、すべてフィリナサウリアにお任せ下さいませ」
エリーはスカートの裾をつまんで頭を下げた。
「それに私には夢がありますの」
「夢?」
「貴族としてオスニエル、王国、そして世界の平和に貢献すること。その中にはガスパリーニ領や南方伯領、ピアノニッキ領も含まれておりますわ。だから今回の派遣も夢の一環。それに、死んだあの子も喜んでくれることだと思いますの」
これを受けてルティアさんは頷いた。
「私の夢は騎士になること。脅威に襲われている人々を守ること。ガルーダ、魔虫。必ず討伐してきます!」
キコアが二人の隣に立った。
「俺の夢は冒険者として上を目指すこと。ランク上げの実績、しっかり作ってくるぜ。あと報奨金ももらってくる!」
シアンタが聖竜剣を高らかに掲げた。
「ボクの夢は聖竜剣士としてみんなを守ることかな。いつかは王国に認めてもらって聖竜騎士になるんだ!」
『シアンタが五大武侯の一人か。当分先だな!』
聖竜剣が楽しそうに言う。
「それを聞いて安心した。任せたぞ」
「かしこまりましたわ、子爵様」
エリーが返事をし、みんなと別れを済ませ、馬車に乗り込む。
目指すは南方伯領、大森林。怪鳥と魔虫と人類の大混戦。
新たな戦いに緊張しつつ、新たな仲間たちとともに、まだ見ぬ戦地へと出発した。
☆☆☆
馬車に揺られて数時間ほど経ったとき、左隣に座るルティアさんが思い出したように声をかけてきた。
「超魔王竜との戦いの最中、たくさんの……恐竜ですか」
「うん。恐竜」
「その中に、変わった身なりの男女を見かけたんです。すぐに恐竜たちの陰に隠れてしまって、見失ってしまったのですが」
それ、両親だな。ルティアさんにも見えたんだ。彼女は続ける。
「私とフィリナさんが超魔王竜を倒して空を見上げていたとき」
「二人揃って、疲れて倒れたときだね」
「あの二人、私を覗きこんできたんです」
はぁ? 私には、そんなことなかったのに。
「二人は『翔子をよろしく』と言っていましたが、どういうことでしょうか」
どういうこと?
ルティアさんは私の手をギュッと握った。そしてジッと見つめてくる。
「『翔子をよろしく』。不思議ですが、保護欲を掻き立てられる言葉です」
両親め。何を企んでいる。
でも、大切に思ってくれる仲間がいることは、嬉しいことだ。
私は彼女の手をギュッと握り返す。
「こちらからもよろしく。これからも」
彼女は不思議そうに見かえしてきた。
この世界に来て、もうすぐ1年。分からないことだらけ。
私の、私たちの冒険は始まったばかり。
そして物語は一気に10年後へ。
読者の皆様へ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で第5章は終了です。
次回からエピローグに入ります。残り2話もよろしくお願いいたします。




