123.恐竜、魔法、みんな・・・そして
私の中から恐竜が溢れてくる。私の魔法を伴って。
エオラプトル、アギリサウルス、コンプソグナトゥスがファイヤーゴブリンとガルーダを翻弄。
その隙にブルカノドンが炎でガルーダを焼き、クリオロフォサウルスがファイヤーゴブリンを凍てつかせていく。
スクテロサウルスとステゴサウルス、ガーゴレイオサウルスが騎士や傭兵の盾となる。
ブラキオサウルスが魔物たちを踏みつけて、ジンフェンゴプテリクスが焼き殺された兵士や冒険者を蘇生させていく。
向こうでは……あれはティラノサウルスだ。多くの肉食恐竜を引き連れて、魔物たちを喰らって行く。
『なんだ! 何が起きている!』
超魔王竜は混乱の最中だ。
「あれは魔竜? 聖竜とも違う。ボクの知らない竜がたくさん出てきたよ」
『例えるなら『異竜』か?』
シアンタと聖竜剣が、混乱しながら私を見た。
「ざっと数えただけで80体はいますわよ。これは?」
「フィリナから出てきたんなら、仲間だろうぜ」
エリーとキコアが立ち上がり、辺りを見回す。
そんな仲間たちに私は応えた。
「みんなは恐竜たちと一緒に魔物を倒して。超魔王竜は私が何とかするから」
彼女たちは唖然としていて動けない。
『各々がた。如何なされた? 我は竜の王ドラゴレックス。共に戦おうぞ』
「え? ボク、知らない竜に話しかけられたよ」
恐竜の一体がシアンタとエリーに話しかけた。両者はしばらく見つめ合う。
「わ、わかったよ。聖竜剣士として、みんなを守る!」
「私もやりますわ!」
しばらく呆然としていたシアンタとエリーは、冒険者や魔法士を守るために駆けていった。
「でも、俺。もう武器ないしな」
マジリルの槍を魔物に溶かされたキコアは、立ちつくしてしまった。そこへ。
『ヘイ。人間のガール。オイラの名前はケントロサウルス。オイラの槍を使いなよ!』
ケントロサウルスがトゲのある槍を吐きだした。
『どうしてオイラがトゲトゲの槍を? まったく神様は分からないね』
『それはウチも同じよ』
震動を伴って現れたのは巨大な恐竜だ。
『ウチの名前はサウロポセイドン。海に住んでいたワケでもないのに、どうしてこんな名前と能力を』
サウロポセイドンは前足をドンっと地面に打ち付けると、そこから津波を発生させ、前方のファイヤーゴブリンの纏う炎を一気に鎮火させた。
『さぁ今のうちよ。魔物を倒して御覧なさい』
「ありがたいぜ!」
キコアはケントロサウルスが吐きだした槍を掴むと、ケントロサウルスの背中に飛び乗った。
この恐竜、背中にはトゲトゲがいっぱいあるのだけれど、キコアの小さな身体はトゲのあいだに、すっぽり収まったみたいだ。
「俺の名前はキコア。行くぜケントロ!」
『行こうかキコア!』
キコアとケントロサウルスは弱体化したファイヤーゴブリンとガルーダを打ち倒していく。
見れば、シアンタはサウロファガナックスと共に、エリーはエンケツと共に魔物を殲滅していった。
多くの恐竜が仲間たちと力を合わせ、魔物を倒していく中……。
恐竜たちの姿の中に、忘れもしない二人の姿があった。
「翔子。また会えたな。外見が変わっていて、お父さん、驚いたぞ」
「それでもお母さんたち、すぐに翔子のことがわかった。ちょっと恐竜と一緒に悪いヤツら、退治してくるから」
え……。今の二人。死んでしまったお父さんとお母さん?
二人とも恐竜にいたの?
両親は恐竜と共に魔物へ走っていく。ちょっと待って。
走りだそうとしたとき、私の左手はギュッと握られた。隣にはルティアさん。眼の前には超魔王竜。
隙なんて見せられない。あの二人なら恐竜と一緒だっておかしくない。
今の私にできること。この世界に住人、フィリナちゃんとしてできること。何だろう。
考えるまでもない。
「よし。みんなを守るために、回復した魔法で。ダトウサウルス×付与術!」
『心得た。頭目の名を預かるものとして、主の友に力を付与する!』
首の長い恐竜がヌッと私に首を伸ばすと、ニヤッと笑って魔法を行使した。
仲間たちの身体が光り、次々と魔物を退治していく。
その光は、隣で私の手を握るルティアさんにも宿っている。
「フィリナさん。行きましょう!」
「うん。倒そう。倒して終わりにしよう」
私とルティアさんは超魔王竜へ走り込んだ。
『オマエたちは、何者なのだ!』
「私はGランク冒険者フィリナ!」
「私は騎士を目指す冒険者ルティア!」
超魔王竜は禍々しい口を開け、炎を放とうとする。
『死ねぇ! 人間は死んで余が望む世界から消え失せろ!』
「悪役に都合のいい役割なんて、遠慮します!」
私とルティアさんは、超魔王竜へ飛び込んだ。
☆☆☆
「はぁ……はぁ」
「ぜぇ……ぜぇ」
私は、ルティアさんと二人して地面に転がる。
その先には絶命した超魔王竜が倒れている。凶悪な図体は息絶えた途端、魔竜のサイズに萎んでしまった。
「フィリナが聖竜剣で出した技って魔竜討滅斬だよね。一体どういうことなのさ」
「ルティアさんから飛び出した大きな黒い猫。あれは虎ですの? ひょっとしてミックでして?」
「フィリナが出した異竜ってヤツら、魔物を全滅させた途端に消えちまったぞ。どうなってんだ?」
シアンタとエリー、キコアが質問攻めしてくる。応える元気もない。
魔物は倒し切ったようだ。恐竜の気配も神様の声も聞こえない。あと両親も。
アナやビーゼ、魔法士のお爺さんや角刈り騎士の留守番長も私たちを見下ろす。
「とりあえず、この場にいる魔竜と魔物はやっつけたってことで良いかな。フィリナサウリアのリーダーさん?」
エリーの未来のお兄さんとギルド支部長が、私とルティアさんを抱え起こしてくれた。
私とルティアさんは見つめあって頷き合う。
この場にいる大勢に向けて、なんとか笑みを作って声を出した。
「みんな、お疲れ様」
☆☆☆
ガスパリーニ子爵領における、逃亡者シンクロンおよび未知の魔物ファイヤーゴブリン、並びに魔竜の進化系『超魔王竜』に対する、騎士団・魔法士団・兵団・冒険者・傭兵らによる合同討伐案件。死亡者、奇跡的にゼロ。
死にかけた人たちもいたものの、私から出てきた恐竜の力で蘇生を果たし、今は問題なく生きている。
あれから一週間。冒険者が森を捜索し、生き残ったファイヤーゴブリン、ガルーダ、風の竜魔人・ミキナスがいないものかと入念に調査した。
結果として生き残った魔物とミキナスはいなかった。
また、崩れ落ちた屋敷を捜索したところ、ガラス製品だったと思われる破片がいくつも見つかった。回収された破片を調べたところ、どうもビーカーや三角フラスコ、試験管のようだった。
これらの物をエリーや貴族らに見せたところ、こんなモノは知らないという反応だった。
やはり私の世界の知識を持つ者が作ったんだ。そして、その者が黒幕を通じてシンクロンに渡したものなんだろう。
黒幕。敵はミキナスと呼んでいた。何者なのだろうか。
「あれから7日は経ったが、森の中でファイヤーゴブリンとガルーダを見つけたという報告はないな」
「はい。さらに超魔王竜の死体は完全に焼き払い、心臓部と言える魔石は粉々に砕きました。聖竜剣アンガトラマーに検分してもらい、死亡を確認しております」
『おう。アイツは完全に死んじまったゼ。安心しな』
子爵様の確認にギルド支部長と聖竜剣が答えた。
ここはガスパリーニ子爵様の屋敷だ。
大広間兼会議室には子爵様とラテロシュタイン侯、リナン、戦いに参加した主要なメンバーと貴族たちが集まっている。
「シンクロンは超魔竜に食われ、屋敷からは黒幕の手掛かりとなる物は得られなかった……か」
ラテロシュタイン侯が発すると、支部長は黙って頷いた。
この数日間、私たちは冒険者と共に屋敷の瓦礫を片づけ、屋内や地下に黒幕の痕跡がないかと調べ尽くした。
けれど、何も分からなかったのだ。どうも通信の魔道具で何者かと連絡していたみたいだけれど、スマホやPCのように通信履歴が残るような代物でもないみたいだ。
子爵様、こめかみに手を当てて難しい顔をしている。
「シンクロンが魔物を操り、竜魔人となり、魔竜を進化させたこと。そして討伐の最中に死亡したことは、すでに南方伯およびに王都ギルドには報告している。のちに国王の耳にも届くであろうな」
「わかったことといえば黒幕が帝国の転覆を企んでいること。ガスパリーニ領以外でも魔物の実験を行っている可能性があること。黒幕の名はミキナスであることくらいか」
そう言うラテロシュタイン侯に子爵様は頷く。
シンクロンは言っていた。ミキナスは魔王が残した力を得たって。それって魔竜大戦は終わっていないということなのかな。
「ミキナスと言う者について、通信の魔道具を使い、王都にいる部下に調べさせたのだが」
ラテロシュタイン侯の言葉に、貴族や支部長が身を乗り出す。
「王都の帝国大使館に尋ねたところ、すぐに回答があったそうだ。ミキナス・ドルファルト。帝国の元・貴族で10年前、謀反を企てた罪で処刑されたナスカン・ドルファルトの息子の名前らしい」
やっぱり帝国の人間なんだ。話から察するに、ミキナスの目的は復讐なんだろうか。
魔法士のお爺さんが手を上げる。
「その者は、今どこに」
「ドルファルト家はすでに取り潰され、親族臣下は行方知れず。捜索しようにもできないとのことだ」
それはつまり、今後も今回のような事件は起きるということだ。
「これ以上は、我が領ではどうしようもないか」
「昨日で森から冒険者を撤退させました」
支部長が答えると子爵様は立ち上がった。
「よし。シンクロンおよび魔物の討伐の一件はこれにて終了する。皆の者、御苦労であった」
こうしてガスパリーニ領における事件は幕を閉じたのだ。




