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120.超魔王竜 誕生!

 ガスパリーニ子爵領に現れたファイヤーゴブリン。それを操る紅の竜魔人・シンクロン。さらに今回の黒幕と思しき風の竜魔人・ミキナスまで現れた。

 私たちに追いつめられたシンクロンは、魔道具で屋敷を爆発させた。何を企んでいる?

 崩れ落ちる屋敷からは巨大な魔物が姿を現した。

 同時に空をかき鳴らす信号弾。ここを俯瞰するアナからの連絡だ。

 見上げれば蒼空に黒い煙か泳ぐ。これは。


「みんな! 魔竜が地下から這い出てきた。攻撃に備えて!」


 私の声で、みんなが臨戦態勢を取る。


「やっぱり出てきたね、魔竜!」


『これで終わりとは思ってねぇよ!』


 シアンタと聖竜剣が叫ぶ中、みんなは散開して魔竜を取り囲みはじめる。


『むぅ。ここは。人間どもがウヨウヨいるか。久しぶりの人間殺しだ』


 魔竜は殺気漲る視線で私たちを見下ろす。

 多くの仲間たちが魔竜と距離を取る中。


「ひぃひぃ……これだけ魔竜が元気になれば、実験の最終段階にも耐えられるだろうなぁ」


 朦朧としたシンクロンが魔竜へ近づいて行く。


『人間。違うな。我と同じ血のにおいがする』


「吾輩はずっと老いさらばえたオマエに血を与え続けた者。そして偉大なる実験の成功者。さらに、これを与えれば実験の全ては完成し、華麗なる一族への仲間入りを果たすことができる。再び錬金術師としてぇ!」


 シンクロンは懐から、ある物を握っては、魔竜の口へ放りこんだ。

 あれは……注射器だ。その中身は赤い液体に満たされている。

 魔竜は、それを飲みこんでしまった。


『おお、これは! 何だこれは! 我が、我でなくなるだとぉぉ!』


 魔竜はどんどん膨れ上がる。そのサイズは以前戦った風の魔竜のものから、死の魔王竜へと近づいて行く。


「ヒヒィっ! 土壇場で完成した。『魔王』の血を魔竜に与えれば魔竜は『魔王竜』に進化する。ミキナス様の推測通り。吾輩はこの瞬間のために、老衰して意識もない魔竜に吾輩の血を分け続けてきたぁ!」


 魔竜が『魔王』の血で魔王竜に? 魔竜ならともかく、魔王竜なんて今回も勝てるかどうか、分からない。

 魔竜の体表は赤く光り、まるで溶岩……あるいは太陽のように燃え上がっている。この大きさ、威圧感は魔王竜だ。ダンジョンの街で遭遇した魔王竜だ。

 シンクロン、なんてモノを作ったんだ。


「この気配、魔竜が魔王竜になったと言うことですか。『魔王』の血なんて、どこから?」


「じゃあ敵は魔王竜を無限に生み出せるってことかよ。魔王より厄介じゃねぇか」


「この場合は準魔王竜ですわね? いえ、超魔竜と言ったほうがよろしいでしょうか」


 仲間たちが混乱する中、進化した魔竜は意識を取り戻す。


『おおお。余は、余は』


「キヒヒィィ。完成したぞぉ。魔竜、いや吾輩の魔王竜。どうだ。若返り、そして魔王竜となった気分はぁ?」


 シンクロンは体表から煙を上げている魔竜へと近づいて行く。


『キサマは何者ぞ』


「炎の魔竜よ、オマエを復活させ、魔王竜へと進化させた偉大なる錬金術師ぁ。ここにいる騎士や冒険者どもを皆殺しにし、共にミキナス様の下で栄華をすすろうじゃないか」


 まるで崇拝する者に出会ったかのように、シンクロンはフラフラと魔竜へ。ところが。


『下劣な人間め。魔王たる余を『魔王竜』とあしらったか』


「ほえぇ?」


『まだ血が足りぬわ!』


 次の瞬間、進化した魔竜はシンクロンの上半身を食いちぎった。

 下半身は血を噴き出し、後ろへ倒れる。


『魔王である余が、何故このようなところに? これまでの記憶がない……まぁいい。人間のニオイがそこかしこからするな。まるで世界を覆っているように。いったい我に何があったというのだ』


 魔竜は辺りに睨みを聞かせながら、逡巡にふけっている様子だ。


「これは厄介だな」


 これらの光景を共に見ていた竜魔人・ミキナスはつぶやく。


「我々の力で魔王竜は作れる。しかし制御するには難しいか。配下にするのは問題があるようだ」


「あれは、なんなの?」


 私の問いにミキナスは顔を向けた。


「魔王の血を取りこんだ魔竜さ。魔王竜に進化すれば良いなって思っていたけれど、人のはなしは聞いてくれないようだ。僕はしばらくしばらく様子を見てから回収するとするよ」


 そう言いうとミキナスは竜巻を起こす。砂埃の向こうに眼を凝らせば、すでに敵の姿は消えていた。


『魔王の血を取りこんだ魔竜だと?』


「アンガトラマー?」


 シアンタは手にした聖竜剣を顔に近づけた。


『あの魔竜、魔王の血を取りこんで、自分が『魔王』だと思い込んでるんじゃねぇか?』


「なにそれ? 変なの」


 シアンタが笑い飛ばす。けれど。


『思い込んでいるだけならいいが、ひょっとして『魔王』の力を扱えるのならば、とんでもない敵だぞ』


「待ってよ。それじゃあ『魔竜の王』としての魔王竜じゃなくて、『魔王の竜』の魔王竜ってこと?」


 シアンタの発言にエリーや騎士、支部長たちの顔が青ざめる。

 キコアとビーゼ、傭兵ギルド長はワケがわからないという感じだ。


「魔竜の上位と言うワケではなく、魔竜の姿をした魔王という認識でよろしいでしょうか。アンガトラマーさん」


『ルティア。そう思ってくれなきゃ、この場にいる全員が死ぬだろうな』


 ルティアさんと聖竜剣の会話に、魔法士や兵士から悲鳴ともとれる溜息が聞こえた。

 貴族のご子息の面々は硬直して動けない。

 魔竜……『超魔王竜』は辺りを見回す。

 目があったのは一瞬だったけれど、それだけで恐怖という言葉が心を支配する。

 私は怯える心を振りきって、みんなに攻撃を促した。


「ダトウサウルス×付与術! 30倍! フィリナサウリア!」


 この力の消費魔力は、たび重なる消費魔力低下で4から0.5になった。30倍にしたって消費魔力は15だ。


「承知しました!」

「任せろ!」


 輝きを帯びたルティアさんやキコア。超魔王竜に攻撃をぶつけていく。


「全力放出!」


 エリーの特技に合わせて、騎士や魔法士、冒険者らが剣撃や魔法、矢を放つ。


「これが本気の、魔竜討滅斬だぁぁぁ!」


 シアンタの特技が光の奔流に。竜をかたどった光線となって超魔王竜を飲み込んだ。


『ぬぅ。余はしばらく眠っていたようだな。これほどまでに余を恐れぬ人間がいるとは』


 超魔王竜は……効いていない?

 一分経過。

 あれほどの攻撃を喰らったというのに、生物を地獄に突き落とすような圧力を視線に絡め、私たちを見下ろしてくる。


『面倒か。ザコの相手はザコに任せるか』


 超魔王竜は空高くに火を吐き散らした。人よりも大きな火の玉が辺りに降り注がれる。

 騎士や兵士たちはうまく衝突を免れたようだけれど。

 落下した火の玉が死んだファイヤーゴブリンを包みこんだ。


「なんじゃ、あれは!」


 死んだファイヤーゴブリンたちが復活したのだ。

 以前よりも勢いを増した炎を伴って。


「ブリザード!」


 ビーゼちゃんが凍結魔法を放ったものの。


「火が消えませんよ!」


 ほかの魔法士たちも協力して氷の竜巻を放つものの、直撃したところで、間もなくして体を燃え上がらせてしまう。


「もう魔力が尽きてしまったぞ」


「これでは、どう攻撃して良いものか」


 魔法士のお爺さんと角刈りの騎士が困惑している。


「こんなこと、あってたまるか」


 支部長がファイヤーゴブリンに投げ槍をぶつけるものの、それは命中する前に魔物の炎によって焼かれてしまった。

 兵士や傭兵は必死に戦っているけれど、次々と燃やされていく。


『まだ地獄と言うには程遠いか』


 超魔王竜は空に向けて吠えた。地面が揺れ、森の木々がおののく。熱風が辺りに広がり、皮膚がチリチリする

 いったい、何をするっていうの?


「マジかよ」


「時期が時期だが、こんなことが」


 キコアと傭兵ギルド長が空を見上げる。

 北西の方角から飛んできた黒い集団が、上空を横切ろうとしているとしているところだった。

 超魔王竜は再び吠える。

 上空の集団はそれに導かれるように降り立ってくる。

 現れたのは巨大な鳥の大集団。金属のような光沢を湛える鋭いくちばし。角の生えた大きな翼。人の頭を握り潰せそうな大きな足。その爪は槍の矛先のように鋭利だ。


「怪鳥ガルーダ……」


 どこかの騎士が諦めにも似た声を吐いた。

 南方伯領の大森林に向かうはずの怪鳥ガルーダが、この場に降りて来てしまったのだ。


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