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118.VS紅の竜魔人(1)

 シンクロンが潜む屋敷を東西南北から囲む私たち。

 迫りくるファイヤーゴブリンを魔法士たちの『氷の竜巻』で弱体化し、騎士や冒険者が倒していく。

 ファイヤーゴブリンは100体以上。次々と屋敷から湧いて出てくる。


 北へ降り立つ私。元・魔法士団のお爺さんと魔法士が『氷の竜巻』でファイアヤーゴブリンを弱体化させ、それを冒険者たちが斬り伏せていく。


「アギリサウルス×俊敏性強化(中)!」


 私も戦いに参加。ハルシュカから託された剣の切れ味は良好だ。さすがの聖竜剣だけれど、戦いが始まっても応答がない。

 キコアたちは順調に魔物を倒していく。

 そのとき、信号弾が撃ち鳴らされた。見上げれば赤い煙。アナだ。

 ついに出てきたんだ。紅の竜魔人。

 続いて爆竹が2回鳴らされた。方角は西だ。


「キコア、竜魔人が出てきたみたい」


「わかった。先に行ってろ。すぐに向かうぜ」


 マジリルの槍を振り回すキコアは、魔物と戦っている最中だ。

 私はルティアさんと騎士たちが奮闘する屋敷の西側へと向かった。




 西側では紅の竜魔人が炎の剣を振るっていた。

 すでに角刈りの次男さんと複数の騎士が負傷している。


「騎士の鎧は頑丈だぁ。だが炎から伝わる熱はどうしようもない。鎧の中は火傷しているんじゃないかぁ? 吾輩の可愛いしもべをよくも使い物にならなくしてぇ。作るのにどれだけ手間かかったと思ってるのぉ!」


 怒り狂い気の竜魔人から騎士らを守るように、ルティアさんは竜鱗材ドラゴアーマーの剣を構えていた。


「貴方はシンクロンですね」


「その通り。アレを強化するために忙しいってのに。邪魔だ。オマエらどこか行け。手っ取り早く死んでしまえぇ」


 竜魔人はルティアさんたちににじり寄る。


「そこまでだ! クリオロフォサウルス×冷凍!」


 駆けこみながら消費魔力は20倍。周囲のファイヤーゴブリンを巻き込み、魔法の冷気で竜魔人を覆いつくす。


「ケガをした皆さんは僧正さんたちのところへ。残りの人はファイヤーゴブリンを。竜魔人はフィリナサウリアが引き受けます!」


 ケガ人は僧正さんが待つ森の奥へ。元気な騎士と兵士、魔法士は左右に散開。北と南へと移動していく。

 竜魔人が現れた。魔法士が確実に氷の竜巻を放てる状況にない限り、ファイヤーゴブリン相手に、騎士や兵士が安全に勝てる保証はない。

 北と南に散開してもらい、そこにいる戦力と協力してもらいたいんだ。


「なんの。これしきでぇ」


 魔法の冷気、一分間の連続噴射。ファイヤーゴブリンを凍てつかせ、白い氷の結晶が辺りを飛び舞う中、竜魔人はこちらに向かって飛びかかってきた。


「どいつもコイツも研究の邪魔しやがって。これでもくらえぃ!」


 竜魔人の全身は霜を帯びていたものの、あっという間に蒸発し赤い鱗を怪しく光らせる。その剣からは炎が噴き上がり、私めがけて振り下ろしてくる。


「フィリナさん!」


「スクテロサウルス×盾!」


 ルティアさんが叫ぶ中、盾で業火の剣を受け止める。

 竜鱗材ドラゴアーマーの盾だというのに熱が伝わってきて手が熱い。それに盾の向こうから来る熱波が尋常じゃなく、火傷しそうだ。


「頑丈な盾だねぇ。察するに竜鱗材ドラゴアーマーかなぁ。吾輩の推測では魔竜の血のほうが強いと思うがぁ、試しに溶かし斬ってみようかぁ!」


「その前に聞かせて。オスニエル領の南部にあるリオハ村の隣村、それとアルマガ村にファイヤーゴブリンを放ったのはお前なの?」


「オスニエルのどこだとぉ? そんな田舎のことは知らない。吾輩は南方伯領でずっと研究を続けて貴族に貢献してきたというのに。街のゴミどもを少し実験に使っただけで投獄するなんてぇ、なんて理不尽なことをぉ!」


 こいつは村の惨劇を知らない? 

 だったら、私が戦ったファイヤーゴブリンは誰が放ったの?


「次は私に答えてもらいます」


 ルティアさんだ。


「マルネス子爵に魔竜の血を渡したのは貴方なのですか」


「そいつはどこの田舎貴族だ。吾輩以外にも、あのお方に選ばれた者がいるとでも。キヒヒぃ。コイツは傑作だ。王国は巨大な実験場なのだよ。吾輩を捨てた南方伯、それに王国。復讐の恐怖に怯えるがいい!」


 あの方。マルネスもスイルツも似たような人物をほのめかしていた。

 一体それは何者なんだろう。

 それに、王国が実験場って。


「どういう意味!」


「あのお方は帝国の転覆を考えておられる。魔王が残した『力』を手に入れた、あのお方たちは、魔竜の血を使い、魔物の兵団を作るおつもりだ。吾輩の炎のゴブリンも、その尖兵のひとつ!」


 魔王が残した『力』?

 帝国の転覆? すると黒幕は帝国の人間?

 魔竜の血。やっぱりファイヤーゴブリンは魔竜の血を得た魔物だったんだ。

 炎剣を受け止めている盾が、熱を加えたチョコレートのように溶けていく。このままでは盾が真っ二つだ。


「そうなる前に!」


 私は盾から手を離して後ろへ飛び退く。


「キヒィ。我がしもべ。試験運用ののち、王国から帝国へ攻め込ませるつもりだった。それなのにオマエたちと来たら、可愛い吾輩の研究結果を次々と葬ってくれてぇ。盾同様にオマエも斬り裂いてやろうか! これは決定事項!」


「どうして、帝国の転覆で王国の人たちが犠牲になるの?」


「恐らく……」


 フィリナさんだ。


「帝国で魔物を強化する実験を行えば、すぐに尻尾を掴まれる危険がある。ならば隣国で実験を行えば、黒幕が疑われるにも時間がかかる。そういうことでは?」


 彼女は怒りに満ちた目を竜魔人に向けている。

 私だって怒り心頭だ。帝国の転覆。何が目的なのか。復讐なのか革命なのか。


「そんなことのために……」


「フィリナさん?」


 転覆には兵士が必要。だから魔物を強化した。他人の国で。

 魔物を指揮する者も必要なんだろう。それが竜魔人。

 そんなことは自国でやってもらいたい。

 他人の国で、多くの人を犠牲にして、多くの冒険者を、村人も、フィリナちゃんを犠牲にして。

 きっとシンクロンだけではないはずだ。スイルツやバイオンのように利用されている人間がいっぱいいるんだ。

 この瞬間だって、私が知らないだけで悲劇が生まれているかもしれないんだ。


「そんなこと、許さない。オマエに力を与えた黒幕は誰!」


 私の頭の中は真っ赤だ。敵の剣から湧き立つ業火よりも。


「キヒィ。教えるワケないだろう。吾輩に勝ったら教えてやらんでもないがぁ!」


「だったら叩きのめして聞いてやる!」


 そして新たな恐竜×魔法の名を叫んだ。


「ガーゴレイオサウルス×守護者!」


 私の目の前に、背中に羽を生やしたゴブリンが現れる。ゴブリンといっても身長2メートル以上、その身体は竜骨甲ドラゴメタル製なので、どことなくロボットっぽい。

 ゴブリンよりも、全身に鱗模様の鎧をまとった竜魔人のほうが近いかもしれない。

 この力は竜魔人スイルツとの戦いで解禁された3種の恐竜×魔法のひとつだ。


 今回の恐竜、ガーゴレイオサウルスは四足歩行の恐竜だ。背中の半分、頭のほうにはゴツゴツとした岩のようなものがあるものの、お尻のほうには何もない。背中と後ろ足の付け根のあいだから、尻尾にかけてトゲトゲが生えている。

 首のまわりには半円状の硬そうなモノがくっついていたりする。そんな小顔の恐竜だ。

 そんな恐竜と魔法の力で出現した守護者さんは竜魔人の火炎の刃を白刃取りする。


「ゲゲェ! こいつめ、吾輩の剣だぞ。離すのだぁ!」


 どうやら竜魔人の炎は、竜鱗材ドラゴアーマーを溶かすことはできても、竜骨甲ドラゴメタルを焼くことはできないみたいだ。

 この隙に懐から信号弾を出して発射。空に弾ける煙の色はピンク。その意味は『決戦よ! フィリナサウリア全員集合!』だ。


「守護者さん、もう少し頑張って!」


『!』


 守護者さん。今度は竜魔人を羽交い締めだ。さらに。


「ぎゃあ。冷たいぃ!」


 2メートルの高さにある口から、羽交い締めの竜魔人めがけて冷水を滝のように垂らしはじめた。守護者は水攻めもできるようだけど。


「どうして水を吐くんだろう」


 水はポーションでも聖水でもないようだ。


「フィリナさんの妖精、不思議ですね」


 ルティアさん、珍事を見たかのような声色。妖精ではないし。私だって不思議に感じています。


「フィリナさん!」


 最初に姿を見せたのはエリーだ。


「南は支部長とお兄さまにお任せしましたわ。竜魔人! では早速、アレをいたしましょう」


 エリーは竜魔人めがけ、一直線に走って来る。


「エリー、いいところに来てくれたよ!」


 一分経過。守護者さんは忽然と姿を消す。

 混乱している竜魔人に私も駆ける。ちょうど竜魔人をエリーと挟みこむ位置だ。

 タイミングを合わせ、拳を引く。


「いきますわよ。全力放出!」


「同時にブラキオサウルス×腕力強化!」


 ブラキオサウルス。4足歩行でとても首の長い恐竜だ。

 ほかにも4足歩行の恐竜はたくさん見てきたけれど、ブラキオサウルスは首が斜め上に伸びている。

 背中だって滑り台のような斜面だ。ガーゴレイオサウルスのように楽に背中に乗れそうにない。

 後ろ脚に比べ、前脚が長いからかな。


 魔法のほうは腕力強化。村にいたときにお世話になっていた魔法だ。

 ずっと使いたいと思っていたけど、やっと使えるようになった。

 腕力を強化させた状態で、思いっきり殴る!


 カタマンタイトのナックルで強化されたエリーの特技と、魔法を帯びた私の拳。

 竜魔人の顔面に、左右から同時に炸裂させる。


「ぎょげぇぇ!」


 竜魔人は吹き飛ぶこともできず、その頭部からはミシミシといった音が鳴り響く。

 うしろに飛びのいた私とエリーが警戒する中、竜魔人はふらつきながらも体勢を整えた。


「いいですね。同時攻撃……」


 ルティアさんが恨めしそうにエリーを見ている。なんで?


「おのれぃ、小娘ごときが」


「今度は私の番です」


 ルティアさんが竜魔人に急接近。


「オマエも特技で吾輩をコケにするつもりかぁ!」


「いえ、特技を解きます」


 剣で突っ込むルティアさん。応戦しようとする竜魔人。

 両者の剣が斬り結ばれる直前、ルティアさんは猫のミックとの妖精憑依を解除。ミックは竜魔人の足下を跳ね回る。


「なんだ?」


 竜魔人の視線が一瞬、足下に向かった。


「今です!」


 彼女の、下から上への一閃。その剣撃が竜魔人の手首を跳ね上げた。


「手首は無事ですか。さすがに硬いのですね。でも」


 竜魔人が持っていた剣は、剣撃の衝撃で遠くに弾かれて飛んでいく。


「業火の剣は竜鱗材ドラゴアーマーを溶かすほど。まともに相手をしようとは思っていません」


 これで相手は武器を失った。


「次から次へと。こっちは研究の途中だというのに」


「ゴブリンをファイヤーゴブリンとして臣下にする研究ですの? そんなことのために、どれだけの人間が犠牲になったと思いますの。貴方のような錬金術師、我が領にいたとしても投獄いたしますわ」


 怒り心頭のエリーに竜魔人は憎悪に満ちた目を向けた。仮面だけれど。


「今はもっといい物を研究中さぁ。さっさとオマエたちを倒して、あの方に献上をぉ」


 それは魔竜のことなのか。

 そこへ。


「丁度いい頃あいだぜ!」


 屋敷の屋根の上から、槍を構えたキコアが飛び降りてきたのだ。


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