表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/127

116.討伐戦、開始!

 ガスパリーニ子爵領で私たちは魔竜調査団のラテロシュタイン侯の娘、リナンと再会した。

 子爵様は私たちを立派な冒険者と認め、私たちは新たな仲間と共に、紅の竜魔人・シンクロン率いるファイヤーゴブリン軍団を討伐することになった。

 潜伏先がばれ、一時は冒険者に包囲されたシンクロン。逃亡や攻撃もせず、その場に留まっているのは、何か企みがあるのだろうか。


 作戦会議に丸一日を費やす。生き残った冒険者から詳しい話を聞き出した。


 そして今日、シンクロンが潜んでいるという森へ向かう。

 途中で新たな監視役が走ってくる。どうやらシンクロンはまだ屋敷から出てくる気配はないそうだ。

 私は準備のため、支部長と屋敷に向かう。

 屋敷が見えてくる。ファイヤーゴブリンの姿はない。中だろうか。

 あまり近づいたら気付かれる。遠くから観察してやる。


「オフタルモサウルス×視力強化!」


 やっぱりファイヤーゴブリンは外にはいない。

 元・別荘とは聞いていたけれど、敷地と森を隔てる柵はとっくに朽ちていて、屋敷自体も、よくこんな所を潜伏先に選ぶものだ、と思うくらいボロい。

 それゆえ隠れ家には適しているんだろうけど。


 屋敷の周囲は壊れた防具や焼け落ちた矢が散乱している。辺りの木々は黒焦げだ。ファイヤーゴブリンの吐いた火球が当たったのかな。

 地面にも焦げた箇所がある。ここで誰かが焼き殺された……。

 焼死体の多くを、監視役が隙を見て回収したらしいけれど、全部ではないって聞いた。

 仇を取ってやる。


 ステータスオープン。恐竜の画面の中から『インロング』という恐竜を選ぶ。

 後頭部が小さく盛り上がっているのが特徴だけど、それ以外に目立つものは見当たらない。どんな恐竜なんだろう。

 魔法の画面からは『隠ぺい』を選ぶ。

 鋼鉄の竜魔人スイルツとの戦いで3種類の恐竜×魔法が解禁された。そのうちのひとつが、『インロング』と『隠ぺい』の組み合わせだ。


「よし。準備開始!」



 ☆☆☆



 準備を済ませた私は森の途中で待機している仲間のもとへ戻った。

 フィリナサウリアはもちろん、騎士、魔法士、僧侶、冒険者、傭兵、兵士、ギルド職員。多くの参加者が待機している。

 一日で良くこれだけ集まったものだなぁと感心して眺めていると。


「当然のことだ」


 一昨日、魔法士とケンカ腰であった角刈りの騎士が話しかけてくる。

 彼はガスパリーニ子爵様の次男。普段は副騎士団長の補佐として、現在は留守番長を務めている人だ。


「街のすぐ近くに脅威が存在しているのだ。ましてや魔竜。残りの冒険者だけに任せるワケにはいかないからな」


「ふふん。団長の留守中に街や村が焼き払われたとあれば、居残り組のメンツも立たんからのぉ」


 魔法士のお爺さんが割りこんでくる。

 お爺さんは元・魔法士長で、引退したものの、この時期になると留守番のメンバーとして駆り出されるそうだ。


「お帰りなさい。準備は出来ましたか」


「うん。支部長に任せて来たよ」


 ルティアさんに私は応えた。

 会議の場にいた子爵様の御子息……長男さんは緊張した面持ちだ。

 彼のほかにも貴族の御子息らが武装して参戦している。

 そんな長男さんをエリーは見上げた。


「では未来のお兄さま。準備はよろしいですか」


「キミがエリザベス・オスニエル……未来の妹が援軍と知ったときは驚いたよ」


 長男さん。エリーの従兄姉の長女さんの婚約者だったのだ。

 貴族の娘は、貴族の男性のもとへ嫁ぐものらしい。オスニエル領出立の前、長女さんの様子がおかしかったのは、この人が原因だな。

 オスニエル子爵にとって、今回の戦いは将来の親戚家の存亡を賭けたものだったんだ。


 長男さんはエリーの存在に気付くと、是非自分も参加したいと名乗り出た。同時に子爵様に仕える男爵や準男爵、商人らの御子息も手を上げてくれたのだ。


 んっ!

 鋭利な視線を感じる。シスター・ハルシュカだ。

 昨日のことを思い出す。




 医院では負傷した冒険者から情報を聞きだし、会議室では騎士や魔法士、支部長や貴族を相手に作戦を煮詰めていたところ。


「黒眼・黒髪……キミも変身するのか?」


 なんのこと? 

 ただならぬ眼差しのシスターが真剣に聞いてきたのだ。


「エターナが救世主を導いてくれたのか……ブツブツ」


 シスターはブツブツ言いながら去っていき、しばらくすると一振りの剣を持ってきてくれた。

 剣は、刃と柄が一体となっていて、まるで一塊の鉱物を削って出来たような代物だった。キレイな緑の結晶体。それは部屋の光源を受けて、キラキラと輝いている。


「これってまるで聖竜剣だ! ハルシュカさんでしたっけ。どうしてこれを」


「ハルシュカでいい。遠い先祖に聖竜剣士がいてな。しかし私の家系は何代も剣士を輩出していない。聖竜剣士に譲ろうにも受け取ってもらえなかった。とりあえず教会に飾っていた物なのだ」


 聞きつけた仲間たちが集まってくる。シアンタは興味深々だ。


「あれ? ボクが握っても声が聞こえないよ。力も湧いてこないし。これじゃあ聖竜剣士は譲られても困るかも」


 シアンタは剣を手にしたものの、私に返してくる。


『大先輩なんだろうが、眠っている? 死んでいるのか? 俺様の声にも応えないぞ。コイツめ』


 聖竜剣も怪訝な声色で、ハルシュカの聖竜剣を評価する。


「ハルシュカ、これって」


「それはカミュサルの剣。なんでも神と人とをつなげる聖竜カミュサルの聖竜石から作られたものらしいのだ。魔竜大戦のずっと、ずっと前にしつらえられた物だという」


「それを私に?」


「こんなときだ。キミはキョウリュウの力を有すると言ったな。キョウリュウ。原初の聖竜は前世でそう呼ばれていたらしい。神との交信を天職とする物が書き残した書物に、神が残した言葉として記述されている」


 しばらくキミに託す。そう言うとハルシュカは部屋の片隅の席に座った。

 その目は対策会議を続行しろと言っていた。




 そして今、カミュサルの剣は私の腰にぶら下がっている。


「ハルシュカ、まだ私、この剣の声は聞こえないの」


 するとハルシュカは無言で僧正様たちのもとへ戻っていった。

 今回の討伐、彼女たちには回復薬として後方待機を任せている。


「贈り物攻撃ですか。侮れません」


 ルティアさん、何故か昨日からピリピリしている。


「フィリナ、準備できたのならそろそろ行こうぜ」


「そうだねキコア」


 私は討伐戦参加者に向かって声を張り上がる。


「これよりシンクロン、ファイヤーゴブリン、魔竜の討伐を行います!」



 ☆☆☆



「定刻です。ミックが皆さんで東西南北を囲んだことを確認しました」


 隣に立つルティアさんが教えてくれる。

 先だってファイヤーゴブリン討伐戦に参加し、命からがら逃れてきた冒険者のはなしでは、この屋敷は北に正面玄関があり、東西南に勝手口がある。

 そこからファイヤーゴブリンが現れたというのだ。

 今回はあらかじめ東西南北に戦力を割り振る。


 北はキコアと冒険者集団。約100名。

 西は騎士約80名と兵士約160名。

 東はシアンタと傭兵集団。約50名。

 南はエリーと貴族の御子息たち。騎士団・魔法士団の親衛隊ら約20名。


 話によれば南が多少手薄のようなのでエリーたちにそちらを任せた。そこには回復魔法が使えるハルシュカもいる。

 回復役の僧正さんたちは離れたところで待機してもらっている。魔王竜の戦いのときのように、救護班が狙われたら大変だ。


 魔法士団の皆さんは現在、私と共に北に立っている。その数、冒険者の魔法士も含めて27名。

 魔物に対して約4倍の人員だ。けれど相手はファイヤーゴブリン。


「魔法士として独立して戦うものだと思っていたが、補助役とはのぉ」


「お爺さん。今回の戦いの鍵は魔法士です。走りまわってもらいます」


 魔法士のお爺さんに告げる。うしろに控えた若い魔法士たちは緊張を表情にあらわしていた。


「フィリナと言ったな。昨日も言ったが火炎と凍結魔法が使える魔法士は、全員南方に派遣された。残っている者は魔虫や怪鳥と相性の悪い風の魔法使いだけじゃ。ワシ以外は」


「じゅうぶんです。勝てます」


「それを聞いて安心した。ワシも作戦を聞いたとき、勝てると踏んだ」


 お爺さんは強い眼差しでニヤリとした。

 さて、屋敷を包囲したというのに相手には反応がない。ファイヤーゴブリンが出てくることを想定していた。これでは初動が狂ってしまう。


「突入しちまうか?」


「待って下さい。相手はそれを考え、待ちかまえているかもしれません」


 キコアの勇み足をルティアさんが踏みとどまらせる。

 こうなったら。


「出てこないなら……シンクロン! お前は完全に包囲されている! 無駄な抵抗はせず、諦めて魔物を置いて投降しなさい!」


 私が叫んだあと、森林の静けさが辺りを包み、私の肌にチクチクと刺さった。

 相手に反応なし。みんなは「何言ってんだ、こいつ」という目で私を見てくる。

 刑事ドラマでこういう場面があったんだ。一度やってみたかったけれど、実際やると恥ずかしい。


「キヒヒヒィィィ!」


 そのとき、二階の窓が開け放たれ、頬のこけた男が顔を覗かせた。手配書で見た。アイツがシンクロンだ。


「屋敷に突入してきたところを迎え討ってやろうと考えていたが、吾輩が投降? 諦める? バカなことを言うヤツは、こちらから出向いて成敗してくれる。死ね! 吾輩の可愛いしもべの餌食になるといい!」


 しもべと言った。やはりファイヤーゴブリンは何者かに造られていたんだ。

 正面の玄関が開くと、忘れもしない、全身燃えさかる身体。炎の魔物が複数現れたのだ。

 二階の窓を見上げる。窓辺でニヤつくシンクロンの横の壁に矢が突き刺さった。


「ちくしょう! 外したか。頭を取れば戦いは終わると思っていたのに」


 矢を放ち、悔しがるキコアに対し、シンクロンは「キヒィィ!」と奇声を上げながら屋敷の奥へと引っ込んだ。

 パン! パァァン!

 見上げれば白、黄、青、緑の煙が空を漂う。これは信号弾の煙だ。

 森にそびえ、ここを見下ろすことができる大木から、冒険者が放った物だ。

 その意味は屋敷の東西南北の扉からファイヤーゴブリンが出てきたことを意味する。


「みんな! 討伐戦を始めます! 作戦開始!」


 私の、ファイヤーゴブリンとの二度目の戦いが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ