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115.再会と紹介

 ガスパリーニ子爵領に到着した私たちは子爵様の屋敷に案内された。

 そこの広間では、この街のギルド支部長や騎士、貴族などがいた。どうやらファイヤーゴブリンの対策会議室のようだ。

 そこへ豪奢な身なりの二人の貴族が現れる。一人はひょろりとした七三分け。一方は中年だけどイケメンだ。

 彼らにほかの貴族が声をかける。


「子爵。それにラテロシュタイン侯でしたな。南方はいかがでしたか」


「魔道具で騎士団長と交信したのだが……南方ではガルーダは現れていないものの、魔虫どもが動き出した。派遣させた騎士団、魔法士団は戻せない状態だ」


「そうなれば頼りの綱はラテロシュタイン侯の援軍のみ。到着はまだなのですか」


 貴族に詰め寄られるイケメン中年。困った顔だ。

 そこへ貴族たちがたたみかける。


「こうなったら子爵、残りの騎士を討伐に向かわせましょう」

「待て。街の治安維持はどうなる。最低限の騎士を街と貴族の警護に残し、騎士団を南方伯のもとへ向かわせたのだぞ」

「しかし炎の魔物がいつ森を出てくるか分からない。動かれる前に討伐せねば」


 興奮する彼らを子爵様と思しき七三分け貴族が治めようとする。

 イケメン中年が口を開けた。


「待っていただきたい。未知の魔物、そして竜魔人。それらは魔竜の血を得た常識外の存在と聞く。戦力を動かすのであれば慎重になっていただきたい。ヤツらの脅威は、これから私の娘が説明する。まずは座って頂けないか」


「居残りといえど騎士だぞ。魔物に遅れを取るようには思えん」


「いいから侯爵様に従うのだ」


 広間には椅子とテーブルが用意されている。会議室のようなスペースだ。

 ガスパリーニ子爵様と思しき七三貴族は、ほかの貴族らに着席を促す。

 私たち、参加していいのかな。


「さぁ、こちらです。侯爵令嬢さま」


「はい。恐れ入ります。子爵の御子息さま」


 そんな広間に、サラサラヘアーの若い貴族と、10歳ほどの女の子がやってくる。

 子爵様の息子さんと侯爵様の娘さんのようだ。

 娘さんは私たちに目を向ける。目があった瞬間、私の頭に喜びの感情が広がった。


「あ、お姉さんがた。来てくれたんですね」


「リナン!」


 ダンジョンでは案内人として活躍し、それなのに、お別れの挨拶ができなかった女の子が目の前に現れたのだ。




 リナンの正体はラテロシュタイン侯爵家の末娘。

 戦後以来、国王様から魔竜の追跡調査を命じられた貴族家の御令嬢だった。

 バナバザール侯爵領のダンジョンでは、魔王竜復活の兆しを見極めるべく、案内人の立場から冒険者と接し、情報を得ようとしていたのだと教えてくれた。


「詳しいことはあとでお話しします。これより父と子爵様が今後についての検討をいたしますので、まずは席に着きましょう」


「お、おぅ」


 商業ギルドの案内人だと思っていた女の子が、実は侯爵家の娘だったのだ。キコアでなくても動揺する。


 そんな私たちは、なぜか前の席に座らされた。

 私たちの座るテーブルの前には、同じくテーブルが幾つかあり、それぞれに貴族や騎士、魔法士、僧侶らが着席する。

 私たちは彼らと向きあっている。警察ドラマの捜査会議なら幹部席、もしくは授業なら教員側のポジションだ。

 隣にはリナン、侯爵様、子爵様、息子さんが着席している。どうして私たち、こっち側なの?

 そんな疑問を余所に、会議は始まった。


「今回の未知の魔物、炎に包まれた姿からファイヤーゴブリンと呼称するが。それを操る紅の魔人……竜魔人が存在するとの報告を受けた。魔竜調査団としては、今回の件、背後に魔竜が絡んでいると見ている。よって」


 侯爵様がそう言うと、「どうして魔竜が」という疑問が貴族らから噴出する。


「貴公らも聞いていると思うが、オスニエル領に魔竜が出現した。リリエンシュテルン公の報告によれば、魔竜は竜魔人に操られていた。またバナバザール侯のダンジョンでは複数の竜魔人が暗躍。魔王竜復活を目論み、成功させてしまったのだ」


「今回の竜魔人も魔竜と何らかのつながりがあると侯爵様は考えておられる」


 ガスパリーニ子爵様が続けて答える。

 どうやら貴族は魔竜の一件を知っているようだ。


「竜魔人の力は、実際にダンジョンで脅威を目の当たりにした娘のリナンが説明する」


 侯爵様がリナンに説明をうながす。

 リナンは立ち上がると、ダンジョンでの竜魔人との戦いを口にした。




「竜魔人。たった一体で冒険者複数人を相手にしたか。まるで魔物だな」


「魔竜を操り、魔王竜復活の手段も持っていた。不意打ちといえどもBランク冒険者を殺傷するとは。今回の竜魔人も同様の脅威と見て間違いないのう」


 騎士と魔法士が唸っている。


「さらに魔竜ときたか。しかし、この領に魔竜が現れたとの報告はないぞ。これから飛んでくるのか。ガルーダみたいに」


 傭兵ギルド長の言葉に、支部長の隣に座っていたアナが反応した。


「あ。アタシ見たよ。屋敷の中を透視の特技で覗きこんだら、地下に大きな魔物が蠢いていたんだ。もしかして魔竜なのかも」


「待て。街から魔剛馬で数刻の場所にある森に魔竜が潜んでいると? 我が領にはダンジョンはないのだが」


 子爵様は慌てている。


「あ!」


 ギルド支部長だ。


「2ヶ月より少し前、真夜中に大きな魔物が上空を通過したとの噂を耳にしました。飛んでいった方向は、たしか森のほう」


 皆の視線が一斉に支部長へ向く。


「真夜中の目撃談だったので酔漢の世迷言かと。せいぜい群れを追われたガルーダの一体かと」


「どうして、しっかりと調査しなかったのだ」


「子爵様。お伝えしました。しかし当時は南方領への遠征準備にお忙しい時期だったのを思い出して下さい。新たな目撃談や被害届もありませんでしたし、すぐにシンクロンの拘束の件があったもので」


「そうだったな……」


 子爵様。とても悔しそうに拳を握りしめている。


「街の主力は南方領に出向いて留守ときている、こんなときに」


「つまり僕らは騎士団・魔法士団の主戦力を欠いた状態で、未知の魔物と竜の魔人、そして魔竜を相手にしなければいけないということだね」


 御子息は顔の前に手を組んで、貴族や騎士らを見つめている。


「しかし、このまま手を打たなければ、いつ魔人となったシンクロンが仕掛けてくるかもわからない」

「どうして魔竜を従えているのに侵攻に出ないのだ。なにを企んでいる」

「これはラテロシュタイン侯の援軍とやらに期待するしかない。一体、いつになったら来るのだ」


 貴族たちが騒ぎたてる。


「援軍なら、すでに到着しています」


 座っていたリナンが再び立ち上がる。

 みんなが、どこ? という視線を彼女にぶつけている。


「ここにいらっしゃるお姉さん方です。オスニエル領では竜魔人の一体を追い返し、一体を打倒。ダンジョンでは三体全てを倒しています。さらに魔竜を撃退。魔王竜に至っては退治し、活性型ダンジョンを鎮静化させています」


「バカな! まだ子供じゃないか」


 うん。私11歳です。

 貴族たちが冗談を言うなと声を上げた、ところ。


「はい。お静かにして下さい。ここにいるお姉さん方を見くびらないで下さい。特にリナンの隣に座るフィリナさんは恐竜と魔法の力で、ダンジョンでは仲間たちの危機を救い、導き、ダンジョン攻略に貢献しました。素晴らしい女性に失礼です」


 リナンは10歳とは思えない毅然とした態度で貴族らを黙らせる。やはり侯爵令嬢か。

 ルティアさんは「よく分かっていますね」と謎の頷きをしている。


「キョウリュウと魔法の力……。え、キョウリュウ!」


 シスターが仰け反って椅子ごと後ろに倒れた。机に手をかけて、這い上がって驚愕の表情で私を見る。どうしたの?

 隣のリナンは私に視線をぶつける。さぁ、お言葉を。目が、そう言っている。

 私はルティアさんたちのほうを向いた。どうしよう?


「このパーティのリーダーはフィリナさんです。私たちを代表して、是非」

「バナバザール領で貴族たちと話していただろ。慣れてるんじゃねぇの?」

「自己紹介すればいいのですわよ」

「ようはボクたちの自慢話をすればいいんでしょ。簡単だよ」


 そうは言っても、今はピリピリしているし。目立つのはイヤなんだ。

 でも、そうも言っていられない。渋々と立ち上がる。


「あの、オスニエル子爵領から来たフィリナサウリアです。リーダーのフィリナです。はじめまして」


 ああ、貴族たちの視線が痛い。騎士とか傭兵の目が怖い。シスターの圧がハンパない。

 ご隠居様、力を貸して。

 私は御隠居様から託された手紙をガスパリーニ子爵様に渡した。


「これはリリエンシュテルン公からの手紙?」


 子爵様は読みはじめる。ラテロシュタイン侯は、それを覗き見る。


「たしかに先輩の字だな。先輩、引退しても魔竜調査を続けているのだな」


 ん? ご隠居様の旅って魔竜調査だったの?

 子爵様はブルブルと震えだした。


「これらの実績が本物とは。公爵様のご推薦の精鋭部隊だったか……。どうして、こちらの席に座っているのかと不思議だったが、これほどの偉業を成し遂げていたとは」


 子爵様の目を見開いている。そこへ。


「ダンジョンを攻略したのが年端もいかない五人の少女たちだと聞いていたが、本当だったか」


「娘らの防具、よく見ればカタマンタイト製。戦中の逸品と見た。ダンジョン攻略は本物のようだな」


「え、そんなに偉い子だったの?」


 支部長と傭兵ギルド長、アナも同様だ。


「黒目、黒髪……」


 シスターの鋭い眼光が際立つ。

 子爵様は立ち上がった。


「よし。相手が動きを止めている今が好機。フィリナサウリアを援軍と認め、彼女らを中心に据え討伐隊を組織する。我々でシンクロン、ファイヤーゴブリン、魔竜の討伐を行うのだ!」


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