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111.結成! フィリナサウリア

 冒険者ギルドでパーティ登録することになった。受け付けてもらうにはパーティ名が必要のようだけれど。しまった。考えていなかったのだ。


「なんでもいいんじゃねえか」


 キコアの声に振り向けば、後ろに控えたみんなが頷いていた。


「う~ん」


「たとえばリコリヌさんのパーティ名は『狼の鼻づら』です。お好きな名前を」


 お姉さんの言うリコリヌさんは、この街最強の冒険者だ。

 変な名前じゃいけないし、カッコよくても脈絡がないと……。

 私たち……冒険者……天職と特技……妖精猫、闘士、聖竜……恐竜と魔法……。


「あまり悩まずに……」


「じゃあ『ダイナサウリア』ってどうかな」


 ダイナサウリアは恐竜全体を意味する、恐竜類って意味だ。

 このパーティにはお嬢様や生粋の冒険者、猫も喋る剣もいる。異世界転生してきた人間も。

 恐竜たちのようにいろんな種類がいる。

 だからダイナサウリアだ。


「強そうな名前ですわね」


「フィリナさんが決めたのなら、私は何でも」


 エリーとルティアさんたちが賛成してくれた。


「フィリナさんがリーダーで、えっとパーティ名は『フィリナサウリア』ですか?」


 登録用紙を前にペンを握ったお姉さんが確認してくる。

 それでは私がトカゲみたいじゃないか。


「いえ、ダイナサウリアです」


「聞き慣れない名前ですね。リーダーがフィリナさんで、パーティ名はフィリナ……」


「ダイナサウリアです」


「はい……」


 お姉さんは登録用紙にスラスラと書きこんでいく。大丈夫だろうか。




 冒険者証にパーティ名を刻印するということで、受付に冒険者証を預ける。

 次は今日のお仕事だ。

 丁度いいタイミングで奥から支部長がやってきた。


「支部長。俺たちに丁度いい仕事くれ」


 キコアが元気に注文するものの、支部長は難しい顔だ。

 受付と待合室に目を向ければ冒険者の姿はまばらだ。

 いい仕事は既になくなってしまったのかもしれない。

 パーティ登録に時間をかけ過ぎたのかも。


「角ウサギ退治や地下のネズミ退治でも構いません」


 ルティアさんはそう言うけれど、支部長の顔は険しいままだ。


「支部長?」


 困難極まる顔となった支部長に、シアンタは不審な声をあげた。

 そして支部長はやっと口を開いた。


「丁度いいところに来てくれたが、仕事の受注は待ってくれ。緊急事態だ」


 何が起こったんだろう。



 ☆☆☆



 仕事は受けないでくれ。昼過ぎに子爵様の屋敷に伺うから、そこで詳しい事情をはなす。

 支部長はそう言うと、ギルドの奥へ戻っていった。


 預けていた冒険者証が戻ってくる。

 それにはパーティ名が刻印されていた。

 えっと……『フィリナサウリア』?


「もうっ! ダイナサウリアって言ったのに」


「いいじゃん。フィリナがリーダーのパーティっぽくていいよ」


「私は気に入りましたよ」


 シアンタとルティアさんは嬉しそうに冒険者証を眺めている。


 時間ができた私たちは、この街でお世話になっている宿屋兼食堂『短い首の羊飼い』の女将さんに挨拶し、昼食をそこで済ませた。

 ラケロパさんは兵士として仕事しているらしい。よかった。

 お昼過ぎにエリーの屋敷に戻った。




 屋敷ではオスニエル子爵と御子息も帰って来ていた。この時間は執務館で働いていると聞いたのに。

 さらにご隠居一行もやってきた。

 全員が屋敷の大広間に集まり、用意された大きな机につく。子爵様の奥さまや従兄姉の二人のお姉さんも同席している。

 しばらくすると支部長がやってきた。普段は上半身裸なのに上着を羽織っている。

 その顔はやっぱり険しい。


「使いの者から簡単な話は聞いているが、本当なのか」


「はい。王都ギルドからの連絡です。ここから南にあるガスパリーニ子爵領に未知の魔物が複数出現し、多くの冒険者が死傷したとのこと。また王室直属・魔竜調査団が現地入りしたとの報告を受けています」


 子爵様にそう答えた支部長が席に着く。

 ん? 未知の魔物? 魔竜調査団?

 ルティアさんやキコアの顔を見ると、ワケわからないという表情をしている。


「まぁ、そんな反応になるじゃろうな」


 御隠居さんは私たちに視線を送る。そして。


「支部長よ。南方の危機だけを伝えに来たわけではあるまい。ここに彼女たちを同席したとあれば」


「その通りです公爵様、子爵様。彼女たちの力を借りたい」


 支部長、今度は子爵様に目を向ける。


「そういうことか……」


 子爵様、辛そうに溜息をもらした。


「そうであるのなら、フィリナちゃんたちにもわかるように説明しないといけないのう」


 御隠居さんが私たちを見る。新たな戦いの予感がした。



 ☆☆☆



 イスキガラスト王国の南に位置するガスパリーニ子爵領。王国の最も南に位置する南方伯領、その北側にある貴族領だ。

 南方伯領の南部は海に面しており、東部には大森林が広がっている。

 大森林。とっても深くて、その全貌は明らかになっていないそうだ。

 この時期になれば虫型の魔物『魔虫』が大森林から湧いて出てくるという。


「脅威は、それだけでは留まりませんの」


 南方伯領のこの時期の話題といえば?

 ご隠居さんに質問されたエリーが言うには、湧いて出てくる虫型の魔物を喰らいに、巨大な鳥の魔物『ガルーダ』が毎年、ガスパリーニ子爵領の西の山脈からやって来るのだそうだ。

 もうすぐ、大森林の入口では虫型の魔物と怪鳥の壮絶な食物連鎖の戦いが開幕されるという。魔物大戦だ。


 怪鳥ガルーダは一ヶ月ほどの滞在で虫を食い散らかすと、満足して西の山脈に帰っていく。

 しかし、何体かの魔虫と怪鳥は、食う食われるの戦いを掻い潜り、周辺の街や村にやって来るかも知れない。


 そこで南方伯は騎士団・魔法士団・冒険者を魔物大戦の周囲に配置し、戦線を突破してきた魔物を迎え討つという。それも毎年。

 北に隣接しているガスパリーニ子爵領も騎士団・魔法士団を派遣していて、それでも毎年多くの死傷者を出しているようなのだ。


 テーブルの上に用意された地図を見る。

 王国の西にはゾルンホーフェン帝国がある。両国を隔てているのは南北に伸びる大きな山脈。ガスパリーニ子爵領の西側にも山脈は鎮座している。

 ここに怪鳥ガルーダたちは巣を作っているらしい。


 そういえばリオハ村から西を見れば、大きな山脈が連なっていたっけ。

 ピアノニッキ伯爵領まで北上すれば、山脈の標高はだいぶ低いので、隣国に行きたい商人は、そこを越えているみたいだけど。

 以上、エリーがこの場で教えてくれたことだ。


「さすがエリーちゃん。勉強しておるな」


「もちろんですわ。おじいちゃま」


 ご隠居さんに誉められたエリーは嬉しそうだ。


「つまり大きな鳥さんは美味しいご飯を求めて、ガスパリーニ子爵領の西の山脈から、南方伯領の東の大森林まで、空の旅を行うのですよ」


 マリッパさんが、地図を指でなぞりながら説明してくれる。

 なるほど。怪鳥ガルーダにとっては、エサを求めて北西の山脈から南東の大森林まで大移動するんだね。渡り鳥みたいだ。


 え? マリッパさん、いつからいたの?

 彼女はニンマリすると、部屋の隅に去っていった。


「んで? それとガスパリーニ子爵領の未知の魔物が、どう関係するんだよ。ガルーダや魔虫とは関係なさそうだし」


「たしかに関係ないのだが。時期が、時期なのだ」


 キコアの疑問に子爵様が答えた。


「それはきっと」


 ルティアさんだ。


「ガスパリーニ子爵領は、騎士団・魔法士団を上位貴族である南方伯領へ派遣していて戦力を欠いている。そこへ未知の魔物が出現。私たちの力を貸してほしい。しかもその魔物は私たちに因縁があると」


「話が早くて助かるわい」


 ご隠居さんはルティアさんから支部長へ発言を促す。


「改めて言うぞ。ガスパリーニ子爵領に未知の魔物が現れた。相手は30体以上。なんでも全身燃えさかる身体から、かつて現れたファイヤーゴブリンと酷似した魔物だと考えられる」


 ファイヤーゴブリン! 

 支部長は私をじっと見据える。


「『フィリナサウリア』。オマエたちの力を貸してほしい!」


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