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101.VS鈍色の竜魔人(1)

 鈍色の竜魔人の正体は、バナバザール侯爵の街の冒険者ギルド副支部長、スイルツだった。


「昼間は多くの冒険者がいたが、この人数なら皆殺しに時間はかかるまい。全員殺して魔王竜石を奪い取ってやる!」


 竜魔人スイルツは背負っていた槍を抜くと、ギルド支部長に襲いかかる。


「まずは支部長から殺す! ずっと気に入らなかったんだよォ!」


 危ない。アギリサウルス×俊敏性強化(中)!

 筋骨隆々の支部長をお姫様だっこして、凶刃から助ける。


「みんな、足場は悪いけれどスイルツを捕えて!」


「わかってます!」


「足場ごときで不満なんて言わねぇよ」


 ルティアさん、キコア、続いてみんながスイルツに応戦する。


「スイルツ! どうして、こんなことを。オマエは真面目に職務をこなしていた。なのに、なぜ?」


 私の手から離れた支部長が、悲痛な声でスイルツに問いかけた。


「当り前じゃないか。気付かなかったのか。副支部長の私は冒険者にバカにされていた。ギルドという組織内では私のほうが偉かったのに。それを、冒険者ときたら実績やら経験やらで人を見て。私を見下して」


 エリーの鉄拳を、スイルツは高速の槍さばきで跳ね返した。


「ずっと冒険者を憎んでいた。私には冒険者の才能がない。だがな、冒険者だって才能のないヤツの集まりだ。職人にもなれない。強くても騎士団や魔法士団にも就けない。支部長、そんなヤツらに見下される、私の気持ちが分かったものか!」


 プエルタさんの風の魔法を、スイルツは耐え抜く。


「父がギルド上層部の人間だ。父は冒険者としての素質があった。私は期待された。でも私は凡人だった。父は侯爵領で副支部長の役職を用意してくれた。それが、どんなに私の心を砕くまでの屈辱だったか! キサマらに分かるか!」


 スイルツの槍撃は、ルティアさんの妖精憑依ポゼッションによる素早い剣撃を上回った。


「冒険者め。もっと報酬を寄こせだの、昇格させろ、仕事を寄こせだのうるさいんだよ! 田舎に返って畑でも耕していろ!」


 私の叔父も、こんなギルド職員に出会ったのだろうか。


「スイルツ。オマエはそんなに心を病んで……」


 支部長が悲しい目でスイルツを見ている。

 槍を手にしたキコアがこちらに後退してきた。


「やっぱり硬いな。マジリルの槍じゃ、竜魔人を貫けねぇぞ」


 未だ聖竜たちによる魔力回復は続いている。

 魔力は存分にある。魔王竜との戦いで解禁された恐竜×魔法。残り3種類。

 日中にグアンロンから教わり、それぞれを試してきた。


「ダケントルルス×ソーンブレード!」


 ダケントルルスは四足歩行の恐竜で首は短く、尻尾の短い。

 首から尻尾にかけて、背中に板状の硬そうなモノが生えている。ステゴサウルスの背中にも硬そうな物が生えているけれど、それよりは小さい。

 尻尾にはトゲトゲが生えていて、刺さったら痛そうだ。

さらに前足の付け根の、ちょっと上の部分からトゲが生えている。どうして、こんな所にトゲが。


 次に魔法はソーンブレードだ。聞いたことのない武器が出てくる魔法だった。

 この武器。剣にトゲトゲが生えている。刃があるべきところにトゲがあるのだ。両刃ならぬ両トゲだ。

 刀身をよく見れば、節があった。刃先から鍔のあたりまで全部で4つ。刀身は5つの刀身で出来ているようだ。

 さらに柄にはピストルの引き金のようなものがある。ここを引くと、5つの刀身は分割される。それでもバラバラになるわけではなく、刀身の芯は何本かのワイヤーで結ばれていた。


 試しに、振り切ったタイミングで引き金を引けば、刀身と刀身が分割され、ワイヤーがとても伸び、10メートルほど先の樹木まで切り払うことができたのだ。

 ソーンブレードを手に、私は竜魔人スイルツに挑む。


「どうして竜魔人なんかに」


「あの方に出会ったのだ。あの方は魔竜の血を与えてくれた。おかげで冒険者以上の素質を手に入れることができた。楽しかったよ。生意気な冒険者でも苦戦するダンジョンの奥へ奥へと潜入することができた」


 ソーンブレードは竜骨甲ドラゴメタル製だとルティアさんが言っていた。これなら竜魔人の硬い鎧にも効果があるはずだ。

 思ったとおり、ソーンブレードの攻撃が当たるたび、竜魔人の鎧は傷ついていく。


「うおぉ。ここで負けるワケにはいかない。あの方が望んでいたのだ。魔王竜さまを蘇らせよと。約束してくれたのだ。魔王竜さまが冒険者のいない世界を作ってくれると。そのために私は」


「そのためにマスカードやバイオンも竜魔人にしたというのか!」


 支部長が叫ぶ。


「そうさ。パーティを追い出され、冒険者を憎んでいたマスカード。不治のケガを負った挙げ句、敗北者として忘れ去られようとしているバイオン。あの方から譲られた魔竜の血で同志にしてやった!」


 竜魔人スイルツの槍さばきが激しくなっていく。このままじゃ。


「しかし所詮は冒険者。二人ともたいして役に立たなかったな。私は心底、冒険者が嫌いだよ!」


 槍がソーンブレードを撥ねとばした。

さらに私は槍に刺され、蹴りとばされてしまった。


「魔王竜様と共にあの方のもとへ行くつもりであった。そうすれば、あの方たちに迎え入れられる。せめて魔王竜石だけでも献上しなければ。バカどものギルドの幹部ではなく、華麗なる一族の一人としての私になるのだ!」


 刺され、蹴られ、横たわる私にスイルツが近づいてくる。


『キンコンカンコン! 魔竜に準ずる者の攻撃を受けました。これより三種の恐竜×魔法を解禁します。さらに既存の恐竜×魔法の消費魔力を低減させます』


 神様のアナウンスだ。


「小娘め。大人しく渡していれば痛い目を見ずに済んだものを……む?」


 立ち上がる私に竜魔人スイルツが驚いている。


「たしかに刺したはずだ。全力で蹴りとばしたはずだ。どうして立てるのだ」


 ソーンブレードを魔法で出している一分間。

 そのあいだ、恐竜×魔法の力は、ソーンブレードを振るうに耐えられる筋力と運動神経を私にもたらしてくれる。

 まるで上級冒険者のような身のこなしだと、ルティアさんは誉めてくれた。


 そんな身体になったおかげで、多少の攻撃では死なない。

 もちろん槍は刺さった。深くはないけれど。蹴られたら痛かった。まだ痛いけど。


「な、何なんだオマエは……グギャ!?」


 竜魔人の背後からの攻撃だ。


「鋼の魔竜の血を得た私を、これほどまで。何が?」


「さすが竜骨甲ドラゴメタルの武器だぜ。硬い敵でも攻撃が通るな」


 キコアだ。手にはソーンブレード。

 ソーンブレードは魔法で出しても、一分経てば消えてしまう。一分以内なら、私の手から離れたとしても、仲間の手に渡っても実体化しているんだ。


 スイルツはキコアから距離を取ろうとするものの、キコアはソーンブレードの引き金を引き、10メートルの長射程でスイルツを攻撃する。

 この長さになると、ソーンブレードのほとんどがワイヤーなので、まるで鞭みたいだ。


「スイルツさん。あなたはフィリナさんの術中にはまったのです」


「なんだと」


 防御の姿勢を取りながら、スイルツはルティアさんに視線を向けた。


「魔法の武器を手にしたフィリナさんは強力な耐久力の持ち主。ならば武器を仲間に託し、耐久力の高い自らは囮となって、あなたの背後に隙を作った。フィリナさんはわざと武器を手放していたのです。仲間に渡すために」


「ふざけやがって!」


 スイルツはソーンブレードの攻撃を掻い潜り、走りだした。


「逃がさないぜ……なに?」


 キコアが言葉に詰まる。その場にいたみんなが硬直した。

 スイルツが行きついた先。それはリナン。

 竜魔人スイルツはリナンを人質にとったのだ。


「動くな。このガキがどうなってもいいのか」


「スイルツ。そこまで堕ちるか!」


 支部長が駆け寄ろうとするも。


「動くなと言っているだろう。全員武器を捨てるんだ!」


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