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10.パンファギア×収納

 初めてゴブリンを倒した日から一週間がたった。

 午後になれば森でゴブリンたちを探し、見つけては『エオラプトル×俊敏性強化(小)』で倒してきた。

 森は広い。村の周囲は森だ。ゴブリンとは毎日遭遇出来たワケじゃない。それでも30匹は仕留めることができた。


 村のオジサンの中には、かつてゴブリンを仕留めた人もいた。ヘレラちゃんの父親もその一人だ。

 罠にかかったゴブリンを矢で射って弱らせて、刃物で首の後ろを斬れば、すぐにやっつけられるらしい。


 本当は冒険者であった伯父からゴブリン退治のコツを教えてもらいたかった。

冒険者ならゴブリン退治を依頼されたこともありそうだからだ。

でも、とてもじゃないけど話しかけられる仲じゃない。


「それにしても、ゴブリンって探すことに時間がかかるんだよね」


「フィリナちゃん、なんのこと?」


 今日は雨が降っている。この日の午後はゴブリン退治を休んで、ヘレラちゃんのお誘いにのって遊ぶことにした。ヘレラちゃんの家で女の子たちが集まって遊んでいる。


 遊び道具は葉っぱだ。葉っぱの表には手書きの絵が描かれていて、裏返して床の上に並べてある。

 順番に葉を二枚ひっくり返し、同じ絵なら手元に置く。違う絵だったら別の人がめくる。葉がなくなるまで繰り返し、手元に一番の多くの葉を集めた人の勝ち。

 トランプを使った神経衰弱と同じだ。

 葉っぱの神経衰弱をしながら、女の子たちに聞いてみる。


「ねぇみんな。森の中でゴブリンがいっぱいいそうな所って、どこだと思う?」


「果物がなる樹のところかな。まえにお父さんたちが果物を採りに行ったら、ゴブリンたちが食い散らかしていたって」

「あ、うちのお父さんも同じこと言ってた」

「あと湧水の所にも出たって聞いたよ」


 ヘレラちゃんを筆頭に女の子たちが答えてくれた。

果物のなる樹がたくさんあるのは東の森。おいしい湧水が出ると言うのは西の森だと聞いたことがある。


「なに? フィリナちゃん、ゴブリンを退治するの?」


「え? あ、退治できたら良いなぁって思っているよ」


 ヘレラちゃんの問いかけに、とりあえず誤魔化しておいた。

ゴブリンは女の子一人で倒せるものではないのだし。


「フィリナちゃん、力持ちになったんだから、ゴブリンを退治する力くらい、神様からもらっていたりして」


 ギクリ。ヘレラちゃん、鋭い。笑って誤魔化そう。


「えへへ。そうだといいなぁ。あ、私の番だね」


 葉っぱの一枚をめくる。鳥の絵だ。もう一枚めくる。四足の動物。たぶん猫だ。


「ハズレだね。次、私」


 ヘレラちゃんは二枚の葉っぱを素早くめくった。


「猫の場所はおぼえていたんだ。これで猫と犬とヤギが集まったよ」


 この村にも猫や犬、ヤギ、馬がいる。この世界にも、元いた世界の動物がいるのだ。

 それらの動物がいるのなら、森にはサルだっていそうだけれど。

 このまえお祖父さんに聞いてみたら、この辺りの森はゴブリンが生息しているので、サルはいないんだそうだ。イノシシなら稀に出るという。


 動物と魔物の違いも聞いてみた。

 魔物の体の中には魔石と呼ばれる物があり、この魔石の力で、その容姿からはあり得ないような能力を発揮していると言った。

 この世界にはオオカミ型の魔物もいるそうで、オオカミではありえないほどの速度と硬さ、跳躍力を持っている。

 オオカミ型の魔物のせいで、動物のオオカミは数を減らしているともいう。


 人間に飼いならされた犬は、人に守ってもらえているので、生存競争には巻き込まれていないんだって。

 ちなみに魔竜はいない、少なくとも見たことはないと、お祖父さんは言っていた。

神様の言うとおり、人類と魔竜の戦争は昔に終わったらしい。


「葉っぱめくり、私の勝ち!」


 神経衰弱はヘレラちゃんの勝利で終わった。


「次は何して遊ぼうか」

「種はじきとか?」

「魔物ごっこは?」


 種はじきはビー玉はじき。魔物ごっこは鬼ごっこだ。


「ちょっとフィリナ。手伝っておくれ」


 隣の部屋からヘレラちゃんの母親の声がした。私がこの世界で初めて会ったオバサンでもある。

 皆で行ってみると、オバサンは二段重ねの木箱を睨んでいた。


「上の木箱をどかしてくれないかね。下の木箱に用があるんだけど、重くて私じゃ辛くてね」


「いいですよ」


 恐竜と魔法『腕力強化』で上の木箱をどかす。

 オバサンは下の木箱のふたを開けると、何着かの服をどかした。


「あったよ」


 そこにあったのは長くてキレイな黄色の布だった。


「もう一枚あったんだ。フィリナのものは柵づくりでだいぶ汚れているからね。頭に巻いている物は洗濯して、こっちを使いな」


 黄色い布。私が坊主頭を隠すために、頭に巻いているものと同だ。


「ありがとうございます」


「よかったね。さっそく使おうよ。また二つ編みにしてあげる」


 女の子たちが私の頭の布を取り、新しい布を頭に巻いて、後頭部で結んでくれる。

 長い布なので結び目から長い布が垂れ下がり、それを二つ編みにしてくれる。

 なんだかみんな楽しそうだ。


「そうそうフィリナ」


「はいオバサン」


「一人でゴブリン退治なんかに行くんじゃないよ。せっかく助かった命なんだ。仮にゴブリン退治ができたとしても、ゴブリンには強い親玉がいるんだからね」


「親玉? ファイヤーゴブリンですか」


「違うよ。別のゴブリンさ。強いっていうよ」


「じゃあファイヤーゴブリンって?」


「さぁね。とにかく、森にはファイヤーゴブリンもいるかもしれない。絶対に村から出るんじゃないよ」



☆☆☆



 翌朝には雨が上がっていた。午後はもちろんゴブリン退治だ。

 今日は東の森に行ってみよう。東の森には果物のなる樹がいくつもあるそうだ。まだ収穫の時期ではないけれど、周囲にゴブリンがいてもおかしくない。


 さらに……昨晩は新たな、恐竜と魔法の正しい組み合わせを発見することができた。

 恐竜『パンファギア』と魔法『収納』の組み合わせだ。

 パンファギアを選んだ理由。それはエオラプトルと同じ画面にイラストがあったから。

 一枚目の画面にはエオラプトルとパンファギアのイラストしか載っていなかったのだ。

 もし神様の言う初回特典の対象になる恐竜がパンファギアでなかったのなら、とても79種類の恐竜から探しだすことなんて出来なかった。


 収納の魔法を選んだのは偶然。魔力の余った日は魔法を順番にパンファギアと組み合わせていた。ずっとハズレだった。

 けれど昨日、ヘレラちゃんの家でオバサンが木箱から黄色い布を取り出した。あの木箱は収納箱だ。

 そこで魔法の欄に『収納』があることを覚えていて、パンファギアと組み合わせてみた。すると。


『ピンポンピンポン! 初回特典、最後の恐竜×魔法を選ばれました!』


 電子音と神様の声が鳴り響いたのだ。

 この魔法を使うと、手元に直径150センチメートルほどの円状の穴が現れるのだ。

 地面に対して角度45度。こちらに向いている。横から見ると深さはない。穴を覗いても真っ暗で何も見えない。暗闇だ。

 石を投げ入れてみたら吸い込まれていった。覗いても石は見えない。暗闇だ。怖いので手は入れられない。

 一分も眺めていたら消えてしまった。もう一度『パンファギア×収納』で組み合わせると再び現れた。


「私の天職は異竜戦士。特技は魔法。神様は裏切らない。きっと」


 そう自分に言い聞かせ、おそるおそる指を近づける。

 指が暗闇の境界線を突破すると、指先が闇に呑まれて確認できない。指を抜くと、指は無事だった。

 意を決して手を突っ込む。石! 石は……あった。引き抜く。

 石は無事だった。手も無事だった。


「これが収納の魔法なんだ」


 次に剣とナイフも入れてみた。森に行く際にいつも拝借しているものだ。

 収納の暗闇に腕を突っ込んで、剣と念じれば、剣を掴むことができて取り出せた。ナイフと念じればナイフを掴んで取り出せた。


「すっごい便利!」


 水が入った樽や家にあった干しイモも入れてみた。こちらも自在に取り出せる。

 デメリットは『パンファギア×収納』を選んだときにしか、暗闇の穴が現れないことだ。

 それでも便利だ。水、保存食、武器……全てを携帯したらとなれば大荷物になるのだから。

 ファイヤーゴブリンに出会ったときは、水が入った樽を投げつけてやろうと思う。


 ちなみに『ほかの恐竜×収納』の組み合わせだと、直径10センチメートルの穴になって、さらに魔力の燃費も悪かったのだ。


 東の森へ入る。一時間ほどで青い実をつけた樹を見つけた。


「まだ食べられそうにないな。ゴブリンはいないのかな」


「ギャギャギャ!」


 現れた。一匹、二匹、三匹……もっといる。え、囲まれている?

 見渡せばどの方角にもゴブリンがいた。合計20匹は越えていそうだ。

 中には棍棒のようなモノを持っているヤツもいる。道具を使うんだ。東側のゴブリンは頭が良いみたいだ。


「パンファギア×収納!」


 暗闇の穴から剣とナイフを取り出す。

 ここのゴブリンは私を敵と認識しているみたいだ。

 まぁ、ゴブリンからして見れば果物を盗みに来た外敵なんだろう。

 周囲から少しずつ迫ってくる。でも私の速さはゴブリンなんかには負けない。


「エオラプトル×俊敏性強化(小)!」


 私はゴブリンに立ち向かった。


今日もお読みいただきありがとうございます。

第11話より1話ずつ、毎朝7時頃に投稿致します。

今後ともよろしくお願いします。

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