すまない!
それも仕方がない。今彼女といっしょにいるのはあの冷徹な氷の鬼、リグリス副団長なのだから。
「リグリス副団長……」
顔を真っ赤にして怒っている様子から見るにしっかりばっちり今までの記憶があるようだった。
リグリスは飛び起きた、何もなかったとはいえ、……ゆゆしき事態だ。
「すまない!」
ミリアはするりと出て行こうとしていた。
リグリスは思わずと言った形で、ドアノブに手をかけるミリアの手を左手で掴み、右手で壁に手をついた。
これではドアが開けられない。
ミリアは背中に感じるリグリスの存在感におののいた。
さすがは鍛え抜かれた鋼の副騎士団長。胸筋が厚い。
そしてこの押さえつけられた手は簡単には振り払えそうにない。
現に今ミリアが精一杯の力で跳ねのけようとしているというのにびくともしないのだ。
「すまなかった。君のためとはいえ、無理やり……」
誤解を与えそうな言い方だが、家で保護していたことに対してである。
「いえ。その……」
ミリアは顔から火が出そうだった。彼女の言いたいことはそんなことではないのだ。
「リグリス副団長、一体どういうことですか……」
そう彼女の困惑はすべて、寡黙で清廉、冷徹な鋼の副騎士団長の奇行についてである!
「どういう? 一体何を気に病んでいるのだ?」
彼女の否定の意図が分からず、リグリスはその麗しい眉間を寄せた。
精悍な顔つきがますます色っぽくなる。
「その……おかしいですよね。行動が……すべて」
そう、毎日蕩けるように溺愛していたことについてだ!
「なにもおかしいことなどないだろう」
リグリスは涼しい顔をして言ってのけた。
ミリアの瞳が大きく見開かれる。
リグリスは扉ドンをしたままの態勢でミリアをぎゅうと抱きしめた。
その鍛え抜かれた胸筋に押しつぶされてミリアの肺は悲鳴を上げる。
呼吸がしづらい。
「そう、何もおかしくはない。これは呪いを解くために必要なことだったのだ」
そう堂々と言われてしまうとミリアももしかしてそうなのかしらと思ってしまう。
リグリスのこの自信に溢れる物言いは戦場でも多くの指揮で隊員の心を奮起させていたのだ。
「こうして無事に退行の呪いが解呪されているではないか」
ミリアは混乱した。そういわれてみればそうなのか?いや、しかし。
「とりあえず、寝間着では心もとなかろう、私は出ていくからこの部屋で着替えていくがいいい。化粧品もこちらで用意する。私は君の家から荷物を取ってくるから、ゆっくり支度をするといい」
んん?
意外と紳士なリグリスの言葉にミリアは混乱した。
お言葉に甘えたほうがいいのか?
確かに衝動的にいち早くこの場を立ち去ろうとして、自分が今となっては小さめの子供向けのネグリジェを着たままであることを意識していなかった。
このまま外を歩いたら、痴女だ。