くっついて離れない
ミリアが十五歳に成長したので、前までの服がぱつぱつになり二人はまた服屋を訪れていた。
「いらっしゃいませ~」
リグリス副団長は今日も凛々しかった。
今日の彼は紺のVネックセーターに、黒い細身のパンツを合わせており、そのVネックからちらりと見える鎖骨と、セーターの上からもわかる胸筋がセクシーだった。
その精悍な顔つきは眉を寄せ、何事か悩んでいるような色っぽい表情をしている。
彼はきっと仕事のことでも考えているのだろうと店員は胸をときめかせて熱いまなざしを送っていた。
(あああああああミリアにセクシーなのとキュートなのどっちがにあうだろうか!!!!!!いや、どっちもにあううううんんんん!!!選べない!!これは選べないぞ!!!)
心の声がきこえなくて、本当に、よかった。
シャッとカーテンをあけてミリアが姿を見せた。
爽やかな薄い蒼のワンピースはスエード織りのうっすらと花模様の透かし織りがみえる生地のものだ。
薄い蒼のワンピースはミリアの水色の長い髪と、深い蒼の瞳によく調和し、まるで湖の精霊のようであった。
リグリスの脳裏には見えた。荘厳な森の奥深くにひっそりとたたずむ麗しい湖から天女のように現れたミリアが訊いてくるのだ。あなたの探しているのは、金のミリアですか銀のミリアですか、……それとも、わ、た、し。
「ふむ、悪くないな」
(うおおおおおおおおおおおかわっかあああああああもうだめだあああああすきだ!!!ミリアっっつああああああ!!!!!!)
「ではこれを買って帰る、ああ、チェックを」
店員はメロメロになった。なんて金払いも顔もいい男なのだろう!
リグリスは涼しい顔だった。彼の何気ない流し目と、ふと緩めた口元がその場にいた女性客と女性店員の心臓を端から端まで射止めたのだ。
ミリアは新しいワンピースを着てほんのり頬を赤らめていた。
二人はそのままぶらぶらと街を散策し、新たに必要なものを買いなおした。
リグリスはせっかくなので、ミリアといることのできるこの限られた時間を楽しく過ごせるように部屋の模様替えをすることにした。
ミリアと共にカーテンや、テーブルクロス、ベッドカバーを買いなおした。今まで使っていたものは何年使ったかわからないものだったからだ。
家に帰って二人は部屋を飾りなおした。
窓には真新しいクリーム色の花の透かし彫りが入ったカーテンがとりつけられ、食卓は黄色の小花柄のテーブルクロスがかけられた。ベッドカバーは新品になり、もこもこの冬仕様の敷き毛布も整えられた。
リグリスは満足していた。これでミリアもここでの暮らしに慣れてくれるといいなと思う。
ミリアも二人で作り上げたこの空間に、達成感を感じていた。
ミリアにとっては、まるで二人の秘密基地をつくったかのような気持ちだった。
…………
「あの、リグリス兄さん……」
ミリアは困惑していた。最近リグリスがくっついて離れないのだ。
「ああ、ミリア、君には呪いがかかっていてね。これはその呪いをとくのに有効かもしれないんだ」
リグリスはさらっと何でもないかのように言っていたがその行動は異常だった。
ついに神官の口から「このまま」お願いしますと言われたことを免罪符に、ミリアをまだまだ溺愛するつもりだったのだ。
もうすっかりミリアの中でリグリスは変な人だ。
今日だって前からぎゅ、後ろからぎゅ、を繰り返している。
ミリアは抱き枕かぬいぐるみかなにかなのだろうか。
うしろから抱きとめてミリアの頭に顔を近づけてくる。
頭皮の匂いをかがれているような気がするのは気のせいだろうか。
(あああああミリアいいにおいがするうううう!!!!)
気のせいでは、なかった。
ミリアはリグリスの毎日の奇行にうんざりしながらもおとなしくしていた。
リグリスは今日もしあわせだった。
しかしここにきて新たな問題があらわれた。
そもそも一人暮らしのリグリスの家にはベッドは一つしかないのだ。
ミリアが十二歳のときはまだぎりぎりセーフだったが、十五歳になってしまってはぎりぎりアウトな気がする。
リグリスは気にも留めていないようだが、ミリアのほうは気にしていた。
ずっと住むわけでもないし、新しく買ってともいいづらくミリアはベッドの端の方で縮こまった。
「ミリア、そんなに端に行くと転がり落ちるぞ」
リグリスはミリアを心配してきゅっと引き寄せた。ミリアの背中にしがみつくような形である。
(う……うあああああああはあはあはああかわいいいいいんんんんんんん)
リグリスは心配するふりをしながら無言でミリアの後ろハグを堪能している。
リグリスはうっとりした。
今日もミリアはおそろしいほど、かわいい。
かわいいの大洪水だ。
全世界の神々にお礼申し上げたいほどだ。
リグリスはミリアをぎゅうぎゅうと強く抱きしめながら、後ろ髪に顔をうずめる。
そのままの流れでついうっかりミリアの耳元に唇をよせた。
物言わぬリグリスの切なげな呼気がミリアの耳元をくすぐった。
はっとミリアが身をこわばらせる。
ミリアの鼓動は早鐘を打った。
ミリアの体がこわばったのを感じて、リグリスもはっと身じろぎをして身を引いた。
(やばい! うっかりミリアに不快感をあたえてしまったか!?)
ごろりと寝返りをうち、二人は背中合わせに眠った。
あやうい、毎日こんな感じだ。
もはやリグリスの傍が一番あぶないではないか!!
次の日、目が覚めるとミリアは元の姿に戻っていた。
ミリアの瞳は驚愕に見開かれている。