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春の妖精のようだ


 次の日二人は服屋を訪れた。


 小さくなってしまった彼女の着られる服をここに買いに来たのだ。



「ねえ、リグリスおにいさん」


 シャッとカーテンをあけてミリアが着替え室の中から顔を出した。


 そのままゆっくりとカーテンを引き上げると彼女の真新しいワンピースが見える。


 冬用のしっかりと暖かい生地のものだ。


 黄色いフリルがあしらわれたワンピースを着たミリアはまるで冬の大地に降り立った春の妖精のようだった。


 リグリスの脳裏には見えた。凍てつく氷の大地に緑を呼び起こす春の女神フローラ。


 リグリスの心に季節はずれの春風が吹き、あたたかな情景が思い浮かんだ。そうか、ここが春か。



「どうかな?」


 ミリアは遠慮がちにいった。


「ああ、いいんじゃないか」



 リグリスは涼しい顔だった。


 彼の腕を組んだ立ち姿は威厳にあふれており、シンプルな黒いタートルネックセーターとグレーのパンツというラフないでたちにもかかわらず堂々とした風格をかもし出している。

 


 女性客ならずも女性店員さえほう、とため息をついて熱い視線を送っている。


 この青みがかった黒髪と青みがかった灰褐色はいかっしょくの瞳を持つ魅力的な男は引き締まった腹筋が分厚いセーターの上からでも見てとれるようだった。




(うおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~!!!!!!か、かわわっわっわっわっわあわいいいいい!!!!!!!!!!!!!)




 だがしかし、その脳内はすさまじかった。この心の声が聞こえていたならばみんなはだしで逃げ出したことだろう。



「では、その一式着て帰ろうではないか。ああ、チェックを頼む」


 そういって、店員にブラックカードを差し出すさまは実にクールだった。


 店員は思わず見惚みほれた。声を掛けられて舞い上がりそうだ。


「ありがとうございましたぁ~」


 総出で見送られて二人は店を出る。


 まさかの「ここからここまで全部もらおう」を地でやってのけた。


 リグリス副団長は金の使い道に困っていたのだ。彼には特に趣味もない。



 大きな紙袋を両手にぶら下げ、なおかつ片手には靴の入った箱をジェンガのように積み重ねて抱えている。


 彼の鍛えられた腕の筋肉にはこれしきの重さ、大したことではない。




…………




「はぁ……」


 リグリスは自宅にて悩ましげに息を吐いた。


 最初は舞い上がっていたがこれは生殺しではないだろうか。


 目の前ではミリアがすやすやと寝入っている。おそらく気がはっていたのだろう。


 それはそうだ、見知らぬ男性の家にこれからしばらくお邪魔するというのだ。気もつかう。


 ミリアの閉じた長い睫毛まつげに、ふんわりと柔らかい朱の差した肌に、ぷっくりと果実のように色づいた唇に、視線が縫い留められてリグリスは息を止めた。




(いかんいかんいかん~~~!!!!)




 でも、ちょっとだけならいいのではないか……という心が首をもたげる。




(いや、いかんいかんいかん~~~~~~!!!!!)




 もはや自分との戦いだ。


 というか最初から自分との戦いでしかない。


 壁に頭をたたきつけてリグリスはうなった。


 あぶない、逮捕されてもおかしくないところだった。



 そもそもリグリスは女性には特に興味はない。興味があるのはミリアに対してのみだ。


 一体何が彼をこんなにもきつけてやまないのだろうか。


 彼の心に在りし日のミリアの姿がふっと浮かんできたのである。




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