好きだ!!!!
ミリアが驚くのも無理ないだろう、今目の前には口から血を垂れ流して震えて蹲っている騎士服すがたの美丈夫がいるのだ。
そして床には彼の吐き出した血がスプラッタしている。
「あなたは……? 大丈夫ですか?」
彼女の水色の流れるような長髪は艶があり、天使のわっかと呼ばれる艶が一周していた。彼女の蒼い瞳は心配そうに揺れ目の前の屈強な男を映していた。
ああ、なんということだろう。彼女は見た目のみならず記憶まで後退してしまっていたのだ。
ミリアの純粋な目は、先入観を持たずに目の前の男を見つめた。
彼はどうやらひどくけがをしているようだ。
口から血をながしてその血は床にも広がっている。
「ああ、…………大丈夫だ」
リグリスは震える声で言った。
ああ、何ということだ。声まで可愛いではないか!!以前よりも少し高くなったミリアの声は、以前のようなとげとげしさが消えてまるで天使のようだ。いや、彼女こそ地上に舞い降りた天使!天に帰ってしまう前にその翼をもいでしまわなくては……と考えてはっとする。翼なんてないじゃないか。
「ひどいけが、人を呼ばなくては」
ミリアは心配して言った。これほどの出血量……尋常ではない。なにか大きなけがをしているのだろう。
ミリアはやさしい子だった。彼女のそのやさしさが癒しを司る水魔術を開花させるのだが、今の彼女は魔術が発現していなかった。
「いや、いい」
リグリスは蹲っていた。ちょっとまってくれ。
「血が……」
私は断じてロリコンではない……。リグリス副団長は心の中で弁解した。
「でてますけど」
気が付くとミリアがすぐ近くに来ていた。立っている彼女が口元から血を流すリグリスを心配そうに見下ろし、ついとしゃがみこんだ。目線が合う。
「本当に大丈夫ですか?」
ああ、
好きだ!!!!
…………
「と、いうわけで魔術師部隊カーター女史は退行の呪術が掛けられて戦闘不能だ。しかも彼女は一人暮らしで生活もままならない。親戚も遠方で連絡がとれないというではないか」
リグリス・ガルシア副団長はその精悍な顔つきをきりりとしていつものできる男の顔だった。
「よって、私は長期休暇をこれを機会に取り、彼女を監督する。私は今年度の希望休をまったくとっていなかったからな。もうすぐ年度末だから消化しなくてはと思っていたのだ」
あくまで、彼女の状態が安定するまでだ、と涼しい顔をして言ってのけた。
この男は顔色を変えず淡々と言ってのけた。
「そうですね、こちらとしても手の打ちようがない」
報告を受けた魔術部隊の団長メロス・マーキュリーは、頭をかかえた。
彼の輝く金の長髪が揺れる。
メロス・マーキュリーには恋人がいるのだ。とてもこんな彼女を引き取るなんてできない。あらゆる疑いをかけられてしまいそうだった。
それに対して冷徹・氷の副団長リグリス・ガルシアは硬派で有名だ。
軟派な魔術部隊の団長は一切の弁解を切り捨てられそうだが、普段あの美人で有名なミリア・カーターをリグリス副団長が一切の私情を挟まず苛烈に叱咤している姿を誰もが認めているのだ。
「それでは、休暇のあいだ頼みますね。申し訳ない……」
魔術部隊団長はその麗しい顔を悲壮に歪めた。本心から申し訳ないと思っているのだろう。
いくら責任感のつよいリグリス副団長とはいえ、わざわざ貴重な休暇を仕事に使ってしまうとは……と思っているようだ。
「ああ、問題ない」
リグリス副団長は氷のように凍てついた表情で、儀礼的に返答した。
まるで、彼は仕方がないからしばらく面倒をみると言っているかのようだった。




