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絶望-1

「う……ここ……は……。……ジルク!」


傷一つ無くなったローズはのろのろと立ち上がる。重傷を負った身体は傷一つなく回復していても疲れが無くなっているわけではない。故に重傷を負ったら傷が治っても安静にするのが基本なのだ。


周囲を見渡してもジルクの姿がない。意識を失う前まで目の前にいたのに、気配すら感じられなくなっていた。


「ジルク……!」

「私のこと呼んだかしら?」


ローズの言葉に応えたのは黒髪の少女。パチリとした目に華奢な身体、サラリとした綺麗な髪をした……美少女という言葉が相応しい少女だ。

これがジルクだというのか?確かにここに来るまでもかなり女性に近づいていた。だがこれは女性そのものではないか。胸のふくらみも少し見え、その女性らしい体つきは私でさえ可愛らしいと思わせられる。


だがそんなことは問題ではない。あの惨劇からジルクが生き残っている。それが大事なことなのだ。


「良かった……無事で……。……? 待て、お前……本当にジルクか?」

「もう少しでそんな名前は無くなるわよ。そんな可愛くもない名前。私の愛しい方に捧げるの」


その言葉に絶望が頭の中を走る。

ジルクは侵食されていると言っていた。別の人間になるかもとも言っていた。そうなると覚悟していたとはいえ、それが現実に起きてしまったことは動けなくなるほどには衝撃を受けた。


しかもジルクの表情はうっとりとした瞳を浮かべ、まるで恋する乙女のような……というかそれそのものだ。想い人を弄り回され、奪われていくというのが正しいのだろう。だがそれを許容できるような人間はいない。


「目を覚ましてくれ、ジルク。お前は皆のところに私と一緒に帰るんだろう?」

「え?そんなことしないわ。私はフィーア様に一生をあげるの。邪魔したら許さないわ」


ローズの目的がジルク本人によって否定される。誰とも知らない他人ならば憤慨する程度で済むかもしれないが、ローズとジルクはそれなりに付き合いは長い。

何もかもを奪われるような感覚に襲われ、ローズの瞳からは一筋の涙が落ちた。


「ジルク!」

「もう……うっとおしいわ。何でフィーア様はこんなのの様子を見に行けと言ったのかしら?」

「ああ、いましたね」


ヤギがどこからともなく姿を現わす。何もかもを奪った全ての元凶であり、後光すらもう見せる気配はない。

だがその力は相変わらずのものであり、失墜の中にあるローズはその魔力に圧倒されていく。


「フィーア様!」

「愛いですね……。そろそろいいかと。あなたに私の名付けた名前をあげます」


ローズは身体を動かすこともできないが、頭の中では叫び声を上げる。

やめろ、やめてくれ。そんなことしたらジルクはジルクでなくなってしまう。魔物からの名づけは死ぬよりもひどい屈辱だ。魔物と同等の存在として扱われ、二度と日常に戻れなくなってしまう。


「私の……名前。可愛くしてくださいね」

「ええ、私の第一の眷属よ。あなたに名前を与えます。名は……シア・フィアラヴィンス」


ヤギの角から指先よりも小さな石が現れ、ジルクの手の元へプカプカと浮かんで移動していく。それは途轍もなく濃厚な魔力を内包した石。そしてその魔力はヤギのものであり、手に取っただけでもジルクはその魔力に侵されていく。


「違う……! ジルク、お前はジルクだろ!」


振り絞って出したローズの言葉はジルクには届かない。そこにはもうジルクはいないと見せつけるように、ジルクは―否、シアは石を口に入れた。


同時にこめかみ辺りから捻じれた角が生え、蝙蝠のような翼がバサリとその姿を現わす。魔性という他ない魔力を周囲にまき散らし、牙の生えた口で彼は告げる。


「私の名前はシア……シア・フィアラヴィンス。大切な名前」

「大切に扱ってくださいね。この私、フィーア・ラヴィリエントの眷属として働いてください」


涙を両目から溢すローズ。だがシアは彼女には一目もくれない。それだけで既にジルクが消え去ったのだと言っているようだった。


「ジルク―!」


「……はい」


ローズの声は、届かなかった。

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