消えたい
ある日のことだった。
通勤の電車の中で、急にお腹が痛くなってきた。
ゴロゴロゴロ・・・。
猛烈な便意が襲ってくる。
(こんなところで・・・やめてくれ・・・。)
体調というものは、本人にはどうすることもできない。
(途中で降りるか、いや、そんなことをすれば会社に間に合わなくなる。どうすれば・・・。)
どうするも何も、我慢する他方法はなかった。
(とにかく、我慢だ。会社までつけばなんとかなる。)
そう思ってじっと耐える。
全身から脂汗が出る。
体温は下がり、腹もなんだか冷たい気がする。
鳥肌が立ち、全身の肌の色が白くなっていく。
腹が痛い。しかし、それ以上にお尻がつらい。
腹の中の物が、出たい出たいと言っている。
(今は無理だ、もう少し後に出してやるから、もう少し待ってくれ。たのむ。)
しかし、彼らは聞き分けのない子どものようであった。
悲劇という他はない。
電車の中という密室で、やってしまった。
ついに中のものが出てしまったのだ。
突然の異臭に、周囲も気づく。
こいつやったな、と。
(あぁやっちまった!)
泣きたい。泣きたかった。
周囲がザワザワし始める。
(何をしてるんだ俺は。もう消えてしまいたい!)
(ここから今すぐにでも消えていなくなりたい!)
そう真剣に思っていると、スッと彼の姿が消える。
そして何事もなかったかのように、騒ぎが収まっていった。