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なんでもない夜

作者: 4えこ


この小説はフィクションです


直接的ではありませんが性や荒い描写があります









このからからになった喉をどうにかしてほしい


こんなにいつもと変わらない夜には

よく衝撃的なことが起こる






それは私が風呂の支度を整え風呂場へ向かったところから始まる



年のわりに老け顔の姉がいるリビングを通り過ぎて風呂場へ向かう



通り過ぎ様に姉が私を引き止めた



HDDに録画していたはずの番組が見れないというのだ


私の姉は機械に疎い



私は何の気持ちもなしにリモコンを操作し番組を見せる



はずだったが




「録画されてないみたいだね」



私は先日

姉が、楽しみにしていた番組を予約する姿を見たが


録画されていないということは誰かが消してしまったようだ




きっと父親だろう



私の父親は家電にミーハーな上にスポーツとグルメ好きでよくそれらの番組を見ているのだ



始めこそ私は好きな番組を見れないせいでストレスをためたものの


人は臨機応変である

と共に諦めがつけば慣れ


何の違和感もなく楽しめるのだ




それは良いとでたのか悪いとでたのか




わからないし

今決めるべきことではないだろう




そうやって先伸ばしにすることが得意な私だから長期休みの間の宿題にもいまだに手をつけられないでいた



どうせ答えがついているのだ楽勝といえば楽勝である








余談がすぎた


本題に戻ろう



姉はHDDに録画されていないと聞くと悲痛な声で「なんで」を繰り返した



今は夜である


昔から声のでかい姉の騒ぎ立ては

隣の部屋で寝ていた父親を起こすはめになった



私は足早に風呂場へ急ぐ


一刻も早く今日1日の汗やら汚れやらをさっぱり落としたかった


と共にこれから起こることから少しでも逃げたかった




案の定姉の声は風呂場まで鮮明に聞こえた



だんだん声の質も音量も重さを増す


喚き声に変わる



テレビ1つでこんなに騒ぎになるのはどこの家にだってあることだろう




父親の「俺は消してない」の連呼が耳に残る



姉の声はだんだん空気に溶けて


大きな物音がした




きっと姉が何かを強く投げたのだろう



予測はつく






立て続けに硬いものがぶつかりあう音がする

その騒音の間に父親の「うるさいよ」という、苛立ちを含んではいるが冷静を装っている声が聞こえた



そして冷静を装うのは十秒ももたず


すぐに姉の叫びに似た甲高い声とバタバタと急ぐ足音が響いた



父親の怒りを剥き出しにしてもなお押し殺した唸り声が嫌で



私はさっさと服を脱いでシャワーをできるだけ勢いよく出した







そしていつかのカラオケの為に覚えた歌詞を口ずさんだ


もちろん今は夜


できるだけ声を抑えて歌った

息つぎが苦しかった





はた迷惑な争いは20秒ほどで終わる


きっと姉がものを投げ飛ばしテーブルを押し倒し


できるだけの威嚇がすめば


一拍と置かず、今度は父親の加減を知らない「しつけ」が始まるのである




そして姉が泣き喚きドアを勢いよく閉めるのである




それで終わり





彼らは周りを考えたことはないのか



怒りにストレスをためるにためるのは第三者も同じであるということを




私は風呂場に逃げたがリビングにいた母親は黙って聞いていたのだ


皿洗いを済ませるまで





個人的な考えとして


姉はさっさと一人暮らしすればいいのだ


前から一人暮らしをするといってはいたが、2年前から状況は変わらない


浪費家の姉にはまず無理だろうと私は思うが…








私の胸は今潰れている


傍聴人はリアルな争いに胸を締め付けられ、苛立ち、そして歪んだまま



一度歪めばあとは慣れるので人は気にも止めない


私も気にはならない





嵐はすぎればいいのだが、すぎるということは、嵐がすぎるまでの時間があるということ



誰もが嵐がすぎるまでの間に恐怖で胸を押し潰される





私はいつも姉と父親のその喚き声の嵐に


いつか映画で見たレイプシーンが重なる




姉の甲高い声が一層そう思わせた





そして気分が悪くなる

風呂場の熱気で頭がぼんやりして余計気持ち悪い






いつもより長い「しつけ」のおかげで

いつもより長く湯舟につかるはめになった






「しつけ」を目の当たりにするのはもちろん嫌だが

私はその後の現場とその空気が嫌いなのである



どうしようもないあの空気は耐えられない






そう思い、私は汗を洗い流す為にもう一度シャワーの前に立つ


そうすると自然と鏡に自分の成長過程の体が映し出される


成長期の体はすごく生々しいと思う




中途半端に膨らんだ胸に少しくびれたウエスト


まだ幼さの残る顔にほてった体





自分の体はこんなにも女じみていただろうか


気持ち悪い



レイプをする人は女のどの辺りにそう性欲を抑えられなくなるのだろうか



無理矢理という行為に興奮するのか


悲痛に歪んだ泣き顔に快感をイコールでつなぐのか





どっちにしろえげつない



野生的である






女も男もその動物的なところを含めて人間なのである


映画のレイプシーンを見た私はその時いくらか幼く、今よりかずっと無知だった



だからその時はただの度の過ぎた乱暴なワンシーンに心を痛めただけだったが


今はわかっているのである


賢いとはほど遠いものの

いらないものを覚えた私はひどく内臓が競り上がる思いがした




男と女と考えるからかもわからない



同性ならと考えてみる



前から同性愛に偏見はなかったものの

今ばかりはそれがとても清いものに思えた



同性愛といえどもセックスはするだろうしまれにレイプだってあるだろう


異性だろうと同性だろうと野生的な発想をもっている比率はそう変わらないものなのだろう



では何故清く感じるのか




もしかしたら自分は同性愛者なのかもしれない



わからないが今はそんな気がした










風呂場から出て


リビングに戻った




まるで嵐はなかったとでもいうように普段通りに片付けられた部屋には


母親だけが椅子に座っていた




きっと片付けたのは母親だろう




その母親は今、何にも感情を映さずにそこにいた







私にはその気遣いさえ卑しいものに見えた


汚いと思ってしまった






自分が誰か心底好いた人に抱かれる日が来たら


その考えは変わるのだろうか







「しつけ」について

後に聞いた話しだが、父親は姉の顔を踏み倒したらしい


口の中から少量ではあったが血が出たという



20歳の姉のあまりに子供じみた反抗をなめられたと察した父親は、厳しい「しつけ」をしたのだという


彼がそれをDVと気づくのはいつになるだろう


他人が言い聞かせても自分が納得しないかぎり考えを押し通す父親である


本人が自身の力で気づいて反省しないかぎり


度の過ぎたしつけはきっと続くだろう




姉も姉である


喚き声をあげ、暴れれば周りが譲歩するとでも思っているのだろうか


家族といえども

他人の集まりなのである


コミュニケーションは人間らしくこなしてもらいたい


いい加減少しでも自分を抑えることを覚えるべきである



人は日々変わり


昔より大人らしく社会的な外見にはなるが


中身は良い方向に変わるか悪い方向に変わるかなんてわかったもんじゃない


変わるというのはある意味賭けなのだろう













なんでもない夜



人は胸を潰したままだけど





いつか笑える話しになるようにと

私は日記に書きつづった









笑えるわけないだろう








そう思ったが


人は慣れることにも慣れるのだ

面白くもきりのない名言である















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― 新着の感想 ―
[一言] もしこれがアナタの経験なら、父親のDVというより、〔アダルトサバイバーの連鎖〕を疑った方がよいかもしれません。 ネットで〔アダルトサバイバー〕か、〔アダルトチルドレン〕で検索すると詳しい内…
2009/04/06 15:44 ルパ〜ンさ〜んせぇ
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