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幸福のつかみ方  作者: TK
8/73

予想出来た光景

気がつけば、総合評価が100を越えていました。

本当にありがとうございます、これからも頑張りたいです。

 段ボールに入っていたのはもちろん女子制服。

 特に可愛いとも思わないが、ダサいと思わない、とても普通なデザインのブレザーとスカート。


 スカートか……。


 今日の買い物ではスカートは遠慮しておいたが、もう下着は女性ものなのだし、今更そこまで抵抗もない。

 履き方はわからないが、ボタンみたいなものが付いているので、そこで締めれば大丈夫だろう。


 不慣れな手付きで制服を着ていく。この程度ならすぐに慣れそうだ。

 思っていたよりもスカートが長めでよかった。膝上5センチ程度。

 俺の世の女子高生へのイメージはスカート膝上20センチだ。あの人たちのスカートも元はこのくらい長さだったのだろうか。切る人の気持ちが理解できない。

 しかしまぁ、股がスースーする。冬もスカートを着用している女子は寒くないのだろうか。ズボンでも寒いのに、生脚なんて晒していたら凍えてしまう。


 姿見を覗くと、一人の少女が出来上がっていた。

 完全に女の子だなぁ。男らしさなんて微塵もない。

 腕は白いし細いし、すぐに折れてしまいそうだ。


 明日、どんな顔をして登校すればいいのだろう。

 当然のように朝早くから自席に座っていることが一番楽な気がしてきた。

 トイレはどうしようか。男子トイレには到底入れないし、だからと言って、女子トイレにも入るのは抵抗がある。周りの女子からも嫌がられそうだし。

 ……別棟にあるトイレを利用しよう。それしか道がない。


 他にも問題が山積みで、固めたはずの決意が揺れ始める。

 いや、俺は諦めない。諦めてたまるか。

 今考えたところでどうにもならない。問題は実際に起こってからでも何とかなるだろう。きっと。


 そうと決まれば、早速風呂に入って寝よう。


 洗面所で裸になる。浴室に入り、シャワーを流し、椅子に座る。

 俺はそこで気がついた。


「……髪ってどう洗うんだ」


 先日、萌希に教えてもらうはずだったのだが、俺が意識を失ってしまったばっかりに、何も教えてもらっていない。

 今からでも萌希に連絡すれば教えてくれるだろうが、俺はもう服を脱いでしまった。


 頑張れ、俺。


 繊細に洗うように心掛けながら、俺は手を動かした。


 ─────────


 風呂で苦戦したのは当然ながら、かなり丁寧に洗ったつもりだったのに、体が少し痛い。まさかここまで柔肌だとは。

 髪はそれなりに上手くいったはずだ。シャンプーとリンスは男の頃に使っていたものをそのまま使ったのが多少心残りである。

 初めて洗ってみて驚いたのが、胸が意外と重かったことだ。

 蒸れたら嫌なので、恥ずかしさと闘いながら隅々まで洗っていたが、世の胸の大きな女性はこんな脂肪の塊を胸につけて生活しているのだと思うと尊敬する。

 男の頃は大きい方が良いと思っていたが、実際に自分に付いてしまったら、それはそれで小さい方がいいな、と思う。動きにくそうだし、揺れたら痛いと聞くし。ブラジャー最強だ。


 風呂上がりにストレッチをして、寝る準備も万端になったので、十一時には布団に潜った。

 股関節やその他諸々が柔らかくなり、昔はできなかったポーズもとれるようになり、少し嬉しかった。

 今日も牛乳が美味い。


 ─────────


 翌朝、いつものように弁当を作って朝食を食べ、登校準備をする。

 ふと携帯に目を落とすと、萌希からメッセージが来ていることに気づく。

 内容は『一緒に登校しない?』というものだった。

 俺一人では心許なかったので、快く了承した。

 時間を訊かれたので、いつもの時間を答えると『早すぎ』と返された。


 結局、俺は萌希の登校時間に合わせた。

 いつもより二十分くらい遅く家を出たので、遅刻しないか不安だったが、学校にはそれなりの余裕を持って到着した。俺はいつも早すぎたのか。


「おっはよー! 制服似合ってるね、可愛いよ」


「おはよ。俺は可愛いって言われても嬉しくないんだって……」


「えー、そう? ふふ」


 他人に初めて見せる、俺の女装。女であるから女装ではないのだが、心のが男なので女装だ。誰が何と言おうと女装なのだ。

 萌希はとても嬉しそうに俺の格好を余すところなく眺めてくる。

 下から覗かれているような気がして、俺はそそくさと歩き出す。


「あっ、待ってよ蓮ちゃん〜」


 うるさい。俺は恥ずかしいんだ。


 L組の別棟まで彼女と一緒に歩いてきたが、ここからは顔見知りが極端に増える。話したことないけど。

 変に緊張する。


 教室に着くと、既に結構な人数で賑わっていた。篠宮は一人で本を読んでいる。


「……ここまで来てめちゃくちゃ帰りたくなってきた」


「私がいるから安心して、ね?」


 あぁ、萌希様。

 彼女の背後に隠れるようにして教室に入る。瞬時に俺たちにクラスメイトの視線が突き刺さる。


「おっす萌希! その娘どこのクラスの子?」


「おはよう有村くん。この娘はうちのクラスの鳴海くんだよ〜」


 ちょっと萌希さん?

 ネタバレが早すぎる。いや、早いに越したことはないんだけど、せめて自分の口から言いたかった。


「はぁ〜? バカ言え、鳴海は男だろうが」


 この男子生徒は有村和翔(ありむらかずは)。細谷先生の次に自己紹介をした、出席番号一番。

 特に印象はなかったが、俺が彼に興味がなかっただけだろう。

 今の会話から感じた第一印象は、明るいお調子者。もちろん、偏見である。


 有村の視線が俺の全身を舐める。あまりに気色悪くて身震いしてしまう。

 彼に続くように、他の生徒たちの視線も俺に集中してくる。

 俺は萌希の後ろで小さくなるしかなかった。


「おい、嫌がってるからやめてやれ」


 ぱたん、と本を閉じながら篠宮が言う。


「何だよ篠宮、お前は気になんねぇのか?」


「彼女は鳴海だ。それだけでいいだろう」


 うおお、篠宮が立った。

 有村よりも20センチくらい高いな。相変わらずの迫力だ。

 身長いくつなんだろう、後で訊いてみよう。


「うーん、気になるところは色々あるけど、まー篠宮が言うんじゃ仕方ねーなぁ。よろしくな鳴海」


 それから有村は一言、すまん、とだけ言って席に戻っていった。

 男子からは下心丸出しの目で、数少ない女子からはゴミを見るような目で見られている。

 やはりこうなるか。覚悟はしていたが、いざとなると精神的にくるものがある。


「気にしちゃだめだよ、蓮ちゃん」


「あぁ、大丈夫だよ」



 何事もなかったかのように朝礼が終わり、俺は細谷先生から呼び出された。

 教室の隣にある職員準備室へ行くと、そこには細谷先生ともう一人、知らない人がいた。

 教員の一人ではあるのだろうが、入学式の職員紹介では紹介されていなかったような。


 俺はデスクの横の椅子に座らされ、細谷先生は真剣な目で語りかけてきた。


「鳴海さん、恐らくだけど、貴女は周りからあまりよく思われていないと思うの。それで、何かあったらすぐに先生に教えてね。事件が起きてからじゃ遅いから……」


「は、はい」


 細谷先生は普段はおっとりとした女性だが、この時だけは、彼女の目は燃えていたように見えた。

 これは相当心配されているな。悩みのタネにならないように頑張ろう。


 教室に戻り、自席に座る。俺がいない間に席替えをしていたようだ。

 俺の席は一番後ろで、隣が萌希で本当に良かったと思う。俺の前は篠宮の席のため、授業中に黒板が見えるか不安である。

 今、このクラスで俺の性転換を容認しているのは萌希と篠宮だけだ。

 萌希曰く、完全なランダムでの席決めだったらしい。この二人と席が近かったのは運が良かった。


「あ、そうだ篠宮。さっきはありがとな」


「俺が勝手にやったことだ、気にするな」


 座っていても存在感を放つ篠宮に礼を言い、俺は授業の準備に取り掛かった。

 というか、これは本格的に黒板は見えない。仕方ない、ノート類は萌希に貸してもらおう。

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