焦り
勢いで近所のスーパーに来てしまったが、今の俺の財布はかなり軽いことを思い出した。学校へ行くだけなのでそんな大金はいらないだろうと思い、家に置いてきてしまった。
篠宮は俺にすべてを任せる、といった感じで何も発さず、俺の後ろを着いてくるだけだ。
どうしようどうしようとそわそわしていると、俺の異変に気が付いた篠宮は声をかけてくる。
「落ち着きがないな」
それに対し、俺はどう返したものか、と口が動かなかった。俺が連れてきたのに何も買えないのでは完全に無駄足だ。
「……周りの目が気になるなら離れるが」
「あ、ち、違う……その……」
彼は辺りを見渡し、ばつが悪そうに呟いた。俺は咄嗟に否定しながら、周りに目を向けてみると、確かに見られている。だが、この時間にスーパーにいる客など、大半が主婦である。俺はよくこの店に通っているため、よく見かけるおばさんも多く、特に何も思うことはない。
お金を貸してほしい、などという図々しいお願いは、いくら友人であろうと軽々しくして良いものではない。俺は既に萌希に借りてしまっているが、あれは彼女の好意からなのでありがたく受け取ったが、いつかは返そうと思っている。バイトをしていないので、いつになるかはわからない。
俺が声に出さずに唸っていると、目前に篠宮の顔が近づいてきた。俺のビックリ系に対する耐性はゼロであり、俺の心臓はきゅっと跳ね上がる。
「落ち着け。金は俺が払う」
「……え?」
「なぜ不思議そうな顔をするんだ。当然だと思うが」
狐につままれたような顔をしているのは自覚している。篠宮は当然というが、俺は金銭面について一言も言及していない。読心術でも会得しているのだろうか。それとも、俺の顔にお金がない、と書いてあったのだろうか。
「鳴海の作った料理が食べられるだけでも多方面から狙われそうなのに、金まで出してもらうわけにはいかない」
篠宮がそう言ったので、俺のお金がないことがバレたわけではないらしい。
「俺は料理はからっきしだ。鳴海の好きなものを好きなだけ買ってくれ」
「なんだその激甘な父親みたいな発言は」
「どちらかというと、俺が息子で鳴海が世話焼きな母親だな」
「親孝行な息子だな!」
なぜか急激に恥ずかしくなってきたので、俺は早足でスーパー内を駆け巡っていく。篠宮が好きなだけと言ったので、俺は遠慮なくカートに商品を重ねていった。
会計が終わり、レジ袋に詰めていく。篠宮のお言葉に甘えた結果、俺だけではとても持ち帰ることのできない量になっていた。
不意に肩をつつかれ、反射的に振り向くと、レジ袋片手に、見覚えのある幼女が立っていた。
「あら、やっぱり鳴海さんだった」
「神奈江さん!」
萌希の母、萌希神奈江である。いつ見てもまごうことなき幼女だ。袋にお酒が見えるあたり、少し不安になる。
「そちらの彼は?」
「クラスメイトの篠宮君です」
「ってことは、神奈子とも同じクラスね。鳴海さんが可愛いのはわかるけど、神奈子のこともよろしくね、篠宮くん」
「は、はぁ」
萌希母は淡々と話すが、篠宮はまだ頭の整理ができていないようで、返事が曖昧だった。
スーパーからの帰り道、篠宮はずっと悩んでいたことを訊いてくる。
篠宮に先ほどの幼女が何者なのかを説明すると、彼は一瞬目を見開いたが、すぐに戻った。
「神奈子が萌希の名前なのは知っていたが、まさか母親とは……妹だと思った」
「まぁ信じられないよなぁ。俺未だに信じられないし」
「俺的にはお前の存在のほうが信じられないがな」
篠宮の中では、俺はあの人妻幼女よりも超常生物らしい。俺もそう思うが、対象が自分だと客観的に見ることができず、実感は湧かないものだ。
心臓が跳ねた理由がビックリだけなのか気になります。




