表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福のつかみ方  作者: TK
68/73

三食

 翌営業日の朝、俺はいつも通りに学校へ向かおうとしていた。今日も萌希を呼んで、一緒に登校するつもりだったのだが。


「おはよー、蓮ちゃん」


「珍しいな、萌希が先に来るなんて」


「たまにはね」


 玄関先で出会った萌希と一緒にエントランスへ降りていく。マンションの敷地から出たところで、普段とは違う顔が見えた。


「おはよう」


「え、あ?」


 この時間帯では見慣れない人物だったので一瞬思考が停止する。まぁ、篠宮なのだが。

 そういえば、先週末に近くのアパートに引っ越していたのだった。深い理由は言いにくそうだったので聞いていない。


 篠宮は当然のように、俺たちと一緒に歩いている。俺は萌希と篠宮に挟まれるように歩いているため、身長が完全に谷になってしまっている。


「篠宮くん、一人暮らし?」


「あぁ。部屋が二つだから、片方余った」


 見た目の割りに、意外と中は狭くないようである。マンションほどではないが、一人暮らしでは部屋を持て余すようだ。

 部屋の片方を自室兼リビングとし、生活に必要なものは全てそこに置いているとのこと。

 筋トレ部屋にすれば良い、と提案してみると、筋トレ器具のスペースは部屋の隅に設けていたらしい。さすがに全ての器具を配置するのは広さの問題で無理なので、必要最低限のものだけ持ち込んだようだ。


「余ったと言っても、実は不確定ではあるが用途は決めているんだ」


「へー、何に使うんだ?」


「使う時が来たら教える」


「勿体ぶるなぁ」


 そういえば、とリュックから弁当が入った布袋を取り出し、萌希と篠宮に渡す。登校途中だが、二人とも素早く受け取り、感謝を述べてから鞄やリュックにしまった。

 そこで一つ、俺の頭に疑問が浮かぶ。下手すると死活問題にもなりかねない可能性があるその疑問を、俺はすぐに篠宮にぶつける。


「……篠宮は何食べるんだ?」


「何、とは?」


 表情一つ変えずに訊き返す篠宮に、俺は簡単に質問の補足をする。


「その、朝食と夕食」


「なるほど。そうだな……母から一人暮らし用にいくらか貰っているから、それで弁当とかを買うつもりだ」


 俺の悪い予想が的中である。それでは栄養が偏って不健康になってしまう。彼が体調を崩すところをあまり想像できないが、万が一があってからでは遅いのだ。

 そして俺は決める。


「俺が作る」


「それだと三食鳴海に作ってもらうことになってしまうが」


「篠宮が死ぬのに比べればなんてことない」


「死ぬってお前……俺はそんなにヤワではないが」


 口では遠慮しているような言葉を発しているが、篠宮は満更ではなさそうである。喜んでもらえるならいいけど。

 夕食なら問題はないのだろうが、懸念されるのは朝食だ。

 早朝からご飯を作ることは特に苦ではない。だが、朝から人の家にお邪魔するというのは俺的にどうなのか、と思うところがある。

 まぁ、この程度の距離なら大丈夫か。


「とりあえず、篠宮は黙って俺の作ったご飯を食べなさい」


「そ、そうか、わかった」


 健康面も大事だが、何より筋肉が衰えられては困るのは俺だ。目の保養が消えてしまう。


「あー篠宮くんずるいなぁ! 私も蓮ちゃんの料理食べたい!」


「萌希も食べる?」


「いいの!?」


 目をいつになく輝かせた萌希に多少圧倒されながらも、小さく頷く。

 萌希はハッと一瞬篠宮の顔を見た。そして少し考え込む。


「……でも私は遠慮しておこうかな」


 その時の萌希の表情は、慈愛に満ちた女神のような顔だった。いつもは屈託のない笑顔なのだが、彼女のこんな表情は初めて見る。

 何かを企んでいるのでないか、と脳裏を過るが、深く考えすぎだろう、と邪念を捨てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ