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幸福のつかみ方  作者: TK
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転居

「俺は部活に入る気は……」


「そうかぁ……彼女さんは入ってくれたのにな……残念だよ」


「入ってません!」


 四宮さんの発言に振り回される篠宮。俺も俺で、入部届なる物を出した記憶は一切ない。

 四宮さんはなかなか可愛らしい外見をしている為、クラスの男子がざわめきだす。残念ながら男である。

 というか、俺を呼ぶためだけに、テスト初日にこの校舎まで来たというのか。二年生も同じタイミングでテストを受けているはずだというのに、馬鹿なのだろうか。


「えぇ!? 鳴海さん、話が違うよ!?」


 オーバーリアクション気味に驚いている四宮さんの肩にか買っていたバッグは床に落ち、中からタッパーが出てくる。パッと見た感じ、彼はその他の荷物を持っていなかった。学校に何をしに来ているのか。


「……勉強が忙しいので帰ります」


「そ、そんなぁ!」


 その場に崩れる四宮さんを尻目に、俺は萌希の手を引いて駆け足で昇降口へ向かった。

 萌希は少し不安そうに後ろを見つめていた。前を見て動かないと危険だぞ。


「アレ、良かったの?」


「知らないよ。あの人が勝手に俺に付きまとってくるだけだから」


「ふぅん……変な人もいるんだね」


 靴を履き替えて校門を過ぎると、後から篠宮も合流した。今日は徒歩らしく、自転車には乗っていなかった。

 篠宮が徒歩なのは別にいいのだが、俺は何かの違和感を感じていた。


 結局、違和感の状態に気づかぬまま、マンションまで着いてしまった。エントランスで篠宮と別れたのだが、そこで違和感がなんだったのかに気づく。

 篠宮の家は本来であれば、校門を出て俺の家と真逆の方向にある。つまり、篠宮が俺たちに着いてくること自体がおかしかったのだ。

 篠宮は一度、俺の家から彼の自宅まで帰ったことがあるので特に心配はしないが、謎である。


「あれ、篠宮くんって家こっちだったっけ……?」


「いや、逆」


 萌希もここまで気づいていないようだった。同志がいて嬉しい。




 昨晩も萌希の家で勉強をし、テスト二日目を終えると、またしても四宮さんが待ち構えていた。暇なのだろうか。

 俺と萌希はスルーして、そのまま帰った。


 テスト最終日、全ての科目が終わった解放感から、俺は高揚感に浸っていた。だからといって、特にやりたいことはない。

 一応今日から、再び部活動が再開するのだが、案の定、四宮さんは扉の前にいた。


「酷いよ鳴海さん、ボクを無視して帰るだなんて」


 何か言っているようだが、俺は関係ないのでさっさと昇降口まで行ってしまおう、そう思った時だった。


「ひっ!?」


「今日は逃さないよ」


 超スピードで駆けてきた四宮さんに壁ドンされる。正直、目で追うことはできたのだが、俺の体は反応が間に合わなかった。

 彼の身長は低いとはいえ、それは男子の中で、という話である。女子の中でも低めの俺と比べれば、それはそれは高い。

 四宮さんの顔が間近に見え、本当はこの人、女子なのではないだろうか、等と思った。それと、微かに柚子の香りがする。


「鳴海さん、君ってよく見ると……おっと」


 何かを言いかけていたようだが、周りの男子がカメラを構え始めたのに気づいた四宮さんは壁ドンをやめ、俺を庇うようにポーズを取り始めた。


「君たちはボクのファンなのかい? フフ、ボクの写真ならいくらでも撮って良いよ!」


 変人である。

 だが、おかげさまで俺は写真には写らなくなった。今のうちに、俺は萌希と昇降口へと駆けた。


 校門の手前で篠宮と合流する。彼は今日も徒歩のようだ。


「……なんなのあの人」


 俺のため息は空へと消える。萌希は四宮さんに対して、少し苛ついているようだ。


「それはそうと、篠宮なんでこっちなの?」


「ああ、引っ越した」


「……は?」


 あっさりと衝撃的な答えが返ってきたので、俺の思考は一瞬止まった。引っ越しだと?


「こんな時期に、どうして?」


「まぁ、理由は色々あるんだが、母から勧められた、というのが一つ。それから……」


 篠宮の口が閉じる。言いにくそうだったので、深追いはやめた。俺のことをチラチラと見てくるのは何なのだろう。


 家の場所自体は俺や萌希のマンションと近く、徒歩で三十秒程の距離にあった。二階建てのアパートの二階の小さな一室である。

 居住者募集はしていたが、まさかそこに篠宮が住むことになるとは思ってもみなかった。

 篠宮の家は広くて良い家だと思っていたのだが、彼にとっては不満があったのだろうか。何にせよ、引っ越す理由が全くわからない。


「良かったね蓮ちゃん!」


「ん、何が?」


「篠宮くんといつでも会えるよ!」


 萌希は満面の笑みで俺の手を取り、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。篠宮の家が近くなることがそんなに嬉しかったのだろうか。

 まさか、萌希は篠宮のことが好きなのだろうか。そうであれば、告白された俺は少し複雑な気分である。


「と、まぁ、これからご近所さんなわけだ。先日は荷物を確認しに来たが……今日からここに住む」


「は、はぁ……よろしく?」


「あぁ」


 そのまま篠宮と別れ、エレベーターで萌希とも別れ、家に帰るなり、ベッドに倒れ込んだ。

 篠宮は何を考えているんだ。

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