同名
土日も終わり、月火もテスト勉強に費やし、迎えた中間テスト当日。萌希からはもちろん、高梨からも勉強を教えてもらった俺に死角はない。ここまできたら好成績を残したいものだ。
一限は英語である。どちらかというと理系寄りな俺だが、特に英語は苦手なわけではないので案外解けた。最初ということもあり、範囲も易しめである。
二限は日本史。これは萌希から叩きつけられて丸暗記したので、難なく解くことができた。
三限は数学の二つあるうちの片方。自称理系なので、詰まることなくスラスラと解いた。途中式はしっかりと残しておき、間違えた際にも部分点がもらえるようにしておく。この学校に部分点が存在するのかは知らない。
一日目はあっさりと終了した。手応えはなかなかである。この調子で他の科目も頑張らなければ。
「鳴海、テスト、どうだった?」
テストが終わり、リュック等に必要な教科書等を入れていると、神崎が話しかけてきた。
「そこそこだと思う。神崎こそどうだったの?」
「ウチ? ウチは、まぁ……」
神崎の目線が明後日の方向に向いている。この調子だとあまり芳しくなかったのかもしれない。
「紫音のそれ、演技だよ〜。本当はすごい頭良いもん」
「なっ、ちょ、レナ!」
小柄な神谷が会話に割り込んできて、何を言うかと思えば、神崎が演技で俺を騙しているという。二人は古くからの付き合いのようだし、お互いのこともよく知っているのだろう。
「何でそんなフリしたんだ?」
純粋に理由が気になり、率直に問いかける。すると神崎は少し照れながら、目線を逸らしながら言った。
「ハードルは下げておいた方が、心身ともに結果見たときのダメージが減るから……」
説明されて、俺はなるほど、と大きく頷く。変に期待されると、プレッシャーを感じてしまうアレである。
言い終わると神崎は神谷を睨み、「レナはどうなの!?」と問い質す。
それに対し、神谷は全く臆せずに堂々と答えた。
「ダメだった!」
その大きな声は教室中に響き渡り、少なからず視線を集めた。周りもうるさいので多少は軽減されていたものの、神谷の高い声はよく響く。
「そんな大声で言うことじゃないぞ……」
「ウチらが恥ずかしいからやめてよ……」
俺も神崎も、一瞬だけ居心地が悪くなったが、周りも周りなのですぐに元に戻った。
テスト初日はこの三時間だけで下校となるため、まだ午前中だが、早くも終礼の時間である。
日直が号令をかけ、挨拶して下校。いつもの流れだ。
今日もそのまま萌希と帰ろうとしていたのだが。
「やぁ鳴海さん! この後部活でもどうだい?」
教室の扉の前に何かが居た。一瞬女子生徒に見えたが、制服は男子のものなので男子生徒なのだろう。
本来部活動は、テスト期間の為活動停止中である。
「……蓮ちゃん、この人は?」
萌希が怪訝な表情で訊いてくる。まぁそれが当たり前の反応だろう。
俺は女子のような男子の顔をじっと見つめる。どこかで見たことがあるような。
「そんなに見ないでくれよ、恥ずかしいだろう?」
少年は体をくねらせて恥ずかしそうにもじもじした。篠宮のような男がやったら気持ち悪く思える動きなのだろうが、彼の場合は特に嫌悪感は抱かなかった。これが容姿の力である。
「どちら様でしょうか」
俺の迷いのない質問に、少年は目と口を大きく開いた。
そこで、俺の記憶が呼び戻され、彼が何者なのかを思い出した。突然、俺を料理部という部活に勧誘してきた生徒である。
「嘘だろう鳴海さん! ボクは料理部二年の四宮だよ! この前会ったでしょ!?」
「は、はぁ……」
俺は曖昧に返事をすることしかできなかったが、彼の言葉に一箇所だけ引っかかる点があった。
「……しのみや?」
「どうかしたか、鳴海」
まさかの名前被りである。俺の小さな声に反応して話しかけてきたのは篠宮仁の方である。
突如として現れた篠宮の威圧感にも怯まず、四宮さんは俺の手を握った。俺の口からは小さく「ぁ」とだけ漏れる。
それにいち早く反応した篠宮は、四宮さんの手をパシンと弾いた。
「彼女に何をする気ですか」
「む、君は……?」
「彼氏です」
篠宮が躊躇いもせずにそんなことを言い放つので、俺も萌希も驚いて篠宮の顔を見てしまう。とても真剣な顔をしていた。
恐らく篠宮には、俺が悪い男に捕まったように見えているのだろう。彼氏というのは俺を守るために言っているのだと思う。たぶん。
本気で言っているのなら、後で訂正させなければならない。俺はしっかりと断ったはずだし。
篠宮の言葉を聞いた四宮さんはまたしても目を見開き、束の間の静止。そして再び動き出したときには、その目は輝いていた。
「何だって! ならば君も一緒にどうだい!? 料理部!」
彼のこの発言には、さすがの篠宮の驚きを隠せない、といった様子だった。
思っていたよりも、四宮さんは図太い性格だったらしい。




