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幸福のつかみ方  作者: TK
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GW明け

 篠宮が帰ってきて、俺は義乃の部屋から連れ出された。

 言うまでもなく、俺は篠宮に酷く怒られた。俺が十割悪いので、とにかく謝った。正直、怒る彼が怖すぎて体が動かなくなった。


「で、何をしていたんだ」


「さ、散歩、です」


 震えながらも答えると、篠宮は目を瞑り、その短髪を手でくしゃっと掻き回す。義乃は部屋に置き去りになった高梨から貰った服のことを気にしながらも、今はこの窮地を脱さなければならない。というか、なぜ篠宮はここまで怒っているのか。

 そんなことを思っていたが、俺はすぐに解放された。「人を不安にさせないでくれ」とだけ言われ、彼はいつもの彼に戻った。

 篠宮は俺のことが心配で怒っただけだった。親か。




 その夕方、俺は再び篠宮と一緒に駅まで来た。俺の手には例の紙袋。義乃が服を綺麗に袋に戻してくれていた。

 篠宮は俺の家まで着いていくと言って聞かないので、渋々同行を許可した。俺は彼に対して悪いことをしたし、俺に否定権はない。


 駅前で軽く買い物を済ませ、俺は家へ帰る。周りの俺たちを見る目がどうにもくすぐったくて、俺は早足で歩いた。それでも、篠宮の普通の歩きくらいにしかならない。


「篠宮はさ、俺と一緒にいて嫌じゃないの?」


「……急にどうしたんだ?」


 ものすごい怪訝な顔をされる。それもそうである。明らかに俺の言葉が足りていない。


「いや、その。なんかすごい見られてるし……」


「……そんなことを気にしていたのか?」


 彼の中では『そんなこと』でも、俺からしたら結構恥ずかしく感じていたのだが。一人でいる時よりも、ずっと。


「俺が嫌がると思うか?」


「……わからないから訊いた」


 質問を質問で返され、俺は頬を膨らませながら言葉を返す。


「心外だな。俺はお前に告白したはずだ」


「うっ、確かに……」


 心の中でごめんなさいごめんなさいと謝る。昨日の話だというのに、既に忘れかけていた。というか、忘れたかった。俺は篠宮のことをそのような目で見たくはない。


「そういう鳴海は嫌なのか?」


「えー……その質問はずるい」


「鳴海の方から訊いてきたんだろう」


 ぶっちゃけ、荷物持ち係でかなり助かっている。買い物は軽く済ませたつもりだったが、気づけば、俺一人ではとても持ち切れない量になっていた。

 それに、見られることに恥ずかしさは覚えるものの、特に嫌悪感はない。友達と一緒にいるところを見られるだけで嫌悪感があったら、それはそれで変な話である。


 ─────────


 ゴールデンウィークが明け、五月の二週。あと二日でまた土日休みを挟む。

 いつものように授業を受けようとしていたのだが、朝礼で先生から中間テストが近い、ということを聞かされた。

 中学の時もあった、テスト。中学だと五教科しかなかったが、高校からは増える。数学が二つに分かれていたり、英語も二つある。理科も、生物学と化学に分かれていたりと、勉強することが多い。その分、日程も三日間に分けて行われる。

 先生曰く、スタートダッシュが大事、とのことだ。この一番最初のテストの内容をしっかりと理解しておかないと、後々授業等についていけずに後悔することになる。

 俺は特に地頭が良いわけではないので、しっかりと勉強せねば。有村はたぶん、勉強せずに臨むのだろう。羨ましい。


「テストかぁ。蓮ちゃん大丈夫そう?」


「うーん、一応復習はちゃんとしてるつもりだけど……」


「そうだよねぇ、私もやってるけど不安だもん」


 萌希と一緒にため息を吐く。そこへ篠宮と有村も参入する。


「そんなに心配していても何も始まらないぞ」


「そーそー! 何も考えない方が楽だって!」


「お前は何も考えなさすぎだ。少しは考えろ」


「アッハイ、スミマセン……」


 有村は一瞬にして篠宮に一蹴される。こんな男でも頭は良いのだから、人は見かけによらない。それに、有村は怪我を負ってまで俺を助けてくれた。飄々としているが、実はただの良い奴なのだ。


「有村くんさ、何か良い勉強法とかあるの?」


「へ? ないよ? 授業が最高の勉強時間だし」


「……訊いた私がバカだった」


 こめかみを押さえる萌希。俺も授業を受けるだけで全てを記憶したいものだ。




「ところで蓮ちゃん、ゴールデンウィークどうだったの?」


 学校からの帰り道、萌希がそんなことを訊いてくる。ゴールデンウィークは初日に篠宮の家に泊まり、二日目に帰ってから、特に何かアクションを起こしてはいない。いつもの休日が少し長くなった程度だ。


「特に何も……あ」


「なに? あ、ってなに?」


 たまたま高梨に遭遇し、色々あったことを思い出す。


「高梨から服もらった」


「蓮ちゃんどんどんファッション代浮いていくね……って、私が訊きたいのはそうじゃなくて!」


 萌希がじれったそうに俺の目を覗き込んでくる。俺にはわけがわからず、萌希を顔を眺めることしかできない。

 キョトンとする俺を見て我慢できなくなったのか、萌希は口を開けた。


「篠宮くんの話!」

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