後悔
食卓に案内された俺は、高梨と二人で朝食を摂った。何の変哲もない朝食だったが、いつもより美味しく思えた。高梨は実は料理が上手いのかもしれない。
高梨に見送られ、俺は篠宮の家へ戻ることにした。高梨からは無事に戻れるのか、と心配されたが、近いから大丈夫、と言っておいた。
それでも彼女は心配なようで、無事に戻れたら連絡してほしい、とお願いされた。
紙袋を片手に、人が増え始めた道を歩く。俺たちは休みを満喫しているが、サービス業に就いている方々はこんな日でも出勤しているようだ。
特に何事もなく帰ることができたのだが、俺は篠宮の家の前で立ち尽くしていた。
自分から出てきたとはいえ、入る時も、自分の家ならともかく、勝手に玄関を開けるのは抵抗がある。
チャイムを鳴らすのも少し怖いところがあるので、起きているかは分からないが、篠宮にメッセージを入れようと、携帯を取り出してみると、通知欄に一面の篠宮の文字が。気づかぬうちに、不在着信も届いていた。
「あー……なんか悪いことしたな……」
篠宮は結構早くから起きていたようで、時刻は数時間前のものもあった。
詫びの気持ちも込めて、俺は篠宮に電話をかけた。彼はすぐに反応し、第一声は「無事か!?」だった。
「黙っててごめんな……。俺は無事だし、なんならお前の家の前にいる」
「本当か!? ……よかった」
剣幕は治まり、いつもの落ち着いた篠宮に戻る。俺も安心して、言葉を続けた。
「で、その。家入って大丈夫……?」
「何がだ? 何も問題はないが」
不思議そうに訊き返されたので、俺は勇気を振り絞って、玄関に手をかけた。案の定、鍵が掛かっていた。
諦めて、俺はチャイムを鳴らすことにした。
鳴らしてみたのだが、反応がない。しばらく反応がないので、俺は段々と怖くなってきた。
もう一度鳴らしてみようと思ったその時、玄関の扉が勢い良く開いた。俺は今年一番なんじゃないかと思うくらい驚いて、体勢を崩し、思いっきり尻もちをついた。痛い。
家の中からも、扉に負けないくらいの勢いで、人が飛び出してきた。俺がその人を認識するよりも早く、俺はその人に抱きつかれていた。
「よがっだぁぁぁぁぁあ」
その少女は泣きじゃくっており、抱きつかれた俺にも塩っぽい液体がかかっていた。
「……くるしい」
「ああああああごめんなさいごめんなさい!」
少女こと義乃は俺から離れると、俺に付着した涙を拭く。
俺は彼女に事情を伝えた。
早く目覚めてしまったので散歩に行っていただけなのだが、その先で同級生に会ったこと、服をもらったこと。
義乃からも事情を聞き、なんと篠宮は、俺を探して外に飛び出して行ったという。それを聞いて、予め連絡しておけば良かったと後悔する。彼が帰ってきたらどんな反応をされるのだろうか。
「……怖い」
「ふふ、そんな心配いらないと思いますよ? 兄貴のことだし」
そう言いながら、義乃は俺の手を引いていく。俺は咄嗟を靴は脱いだが、並べる余裕がなく、ぐちゃぐちゃになったまま彼女に連れて行かれた。
手を引かれた先は篠宮の部屋の反対側。要するに、義乃の部屋だ。正直なところ、手を洗いたかった。
彼女の部屋も篠宮に負けず劣らず広かった。ただし篠宮とは違い、トレーニング器具が大半を占めるなどということはなく、一つの部屋として完成されていた。
義乃には失礼だが、高身長でスポーティーな見た目に反して、部屋は随分とファンシーであり、女の子だなぁと実感する。もちろん、口には出さない。
「そのお友達さんから、どんな服もらったんですか?」
「あぁ、これ」
俺は紙袋をから綺麗に畳まれた衣服を丁寧に取り出す。せっかく綺麗にしてもらっているのに、シワがついたりしてしまうと台無しだ。
そのまま服を広げて床に並べる。
「おぉ……これは……」
義乃は興味深そうに服を凝視し、今度は俺のことも凝視し始めた。人に見られることに未だに慣れていない俺からすれば、まじまじと見られることはやはり恥ずかしいのである。
「……何?」
「いえ、その。攻めたな、と」
「攻め……?」
俺には義乃の言葉の意味が理解できなかった。




