謝罪
口では容赦なさそうに言っていたものの、高梨は酷く優しく俺を着替えさせた。もっと無理矢理に着替えさせられるものだと思っていた俺は拍子抜けした。だからといって、そうしてほしいわけではない。
一時間程経ったが、高梨の兄弟は起きてくる気配がない。毎日早くから起きる習慣がある俺からすれば、よくこんなに寝られるものだと感心してしまう。
まぁ、この場では俺がおかしいのだろう。
高梨は一通りの服を俺に着せたようで、次々と現れていた服の波が止まった。
最初は、どれも高梨には似合いそうな服ばかりで、俺が着て似合うのか不安だった。
しかし、俺の母譲りの容姿のおかげで何を着てもそれなりに着こなすことができてしまった。何着か、着ていて苦しいものはあったが……。
「鳴海さんは何か気に入った服はあった?」
「うーん……どれも良いって思っちゃって」
俺の素直な感想だが、今まで一度も身形を気にしたことがなかったため、何が良いのかもわからずに、何でも良く見えてしまう。
高梨が「三組選んで」と言ってきたので、俺は自分のセンスを信じて、上下合わせて、言われた通りに三組選んだ。
高梨は俺の選択を見て、顎に指を当てた。
「……男子って、こういうのが好きなのかしら」
彼女の思いもよらぬ発言に俺は一瞬喉を詰まらせたが、何とか持ち直した。
高梨の中では、俺はまだ男子として扱われているのだろうか。嬉しいような、悲しいような、複雑な気持ちである。
「どうだろうね、俺は感性が他の男とズレてたからわからない」
「ズレてた、とは?」
若干虚ろな目をしながら答えると、高梨はズイズイと訊いてくる。近いので肩の押し退け、俺は説明した。
周りの男子が可愛い女子に浮足を立てている中、特に何も思わなかったことくらいしかなかったが、一応伝えた。
「ふぅーん。それってただ女子に興味なかっただけじゃないの?」
「女子っていうか……人間に興味がないというか……?」
「そう、まぁいいわ」
高梨は俺から少し距離を取ると、俺が選んだ服を綺麗に畳み始める。そしてそれを小綺麗な袋に入れて俺に差し出す。
俺は驚いて高梨の顔を見たが、彼女はさも当然のように腕を突き出している。
「あげるから受け取って!」
「え、悪いよ、そんな」
「ほら、いいから! あんたのこと邪険にしたお詫びと言ったらなんだけど……」
俺の腕に無理矢理袋を抱かせると、高梨はススっと下がっていく。心なしか、顔が赤く見える。
俺は袋を抱いたまま、その場に座り込んでいた。
少し落ち着いたので、袋を横に置いて、高梨に質問する。
「何で俺のこといじめてたの?」
率直に、何の捻りもなく訊いてみたが、きっと今なら答えてくれるはずだ。
高梨は少しだけ目を見開き、軽く俯いた。
そのまま待つこと約五秒、高梨は口を開く。
「……その。恥ずかしい話なんだけど……」
先程とは違い、彼女は確実に赤面している。
「……嫉妬、なのよね」
嫉妬。
俺は特に何かをした記憶はないので、この容姿のことだろうか。そうであれば、俺には謝ることしかできなかった。
「えっと……ごめん……」
「ああいや、違うの。あたしが勝手に妬んでただけで……今はもう友達よ!」
慌てる高梨が可愛くて、思わずクスッとしてしまう。笑う俺を見た高梨は、急に怪訝な表情になった。
しまった、と思った時にはすでに遅く、高梨は顔をぐいっと近づけてきた。
高梨の美しい顔を至近距離で見る羽目になり、俺も急に恥ずかしくなってきてしまい、顔を背ける。
「な、なんでしょうか……」
「鳴海さんって、まだ男だった頃に女の子になりたいとか思ってた?」
「え、全く」
「あら、そう……」
俺が即答すると、高梨は立ち上がり、部屋の壁に掛かっている時計を見た。俺も一緒に見たが、気がつけば、高梨の家に来てから二時間ほどが経過していた。
「鳴海さんは朝食摂った?」
首だけ捻って言う彼女に、俺は首を横に振って答えた。
「じゃあ、食べていって」
高梨に案内されるように、俺たちは階段を降りていった。
書きたい話は山ほどあるものの、それを文章にまとめる能力がないので話が進みません。




