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幸福のつかみ方  作者: TK
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物色

 お風呂からあがると、脱衣所の前で篠宮が待機していた。いつから居たのかはわからないが、トレーニングをしていたのか、結構汗をかいていて、早くシャワーを浴びたいのだろう。


「げ、兄貴」


 俺の後ろにいた義乃が嫌そうな声を発する。


「……どうしてお前が一緒に出てきたのか、説明してもらおうか、なぁ義乃」


 篠宮は低くドスの効いた声で俺たちの前に立ち塞がった。俺は過去に逃げようとしてあっさり捕まったことがあるので、逃げても無駄なことは理解している。

 しかし、今回は矛先が俺ではなく義乃に向いているので、逃げようと思えば逃げられるかもしれない。

 俺はサッと篠宮の横をすり抜け、後ろに回り込んだ。予想通り、俺のことはどうでもいいようだ。


「あっ、ちょっと、蓮さん!?」


「加害者はお前だろう。鳴海に何をした?」


「加害って何よ! 何もしてないよ!」


 篠宮がここまで気にするということは、義乃は普段の行いが悪いのだろう。今回は本当に何もされていないし、助太刀しておいてやろう。


「俺は何もされてないよ。どっちかというと俺が手を出したほう、というか」


「れ、蓮さん……!」


 俺の声に篠宮は振り向き、義乃は胸の前で指を組ませて目を輝かせている。

 俺の顔を数秒眺めた後に、篠宮は俺の肩に手を乗せた。何を言われるのか、とヒヤヒヤしながら言葉を待っていると。


「鳴海は優しすぎるんだ」


 ため息混じりの言葉に、俺は疑問しか返すことができなかった。篠宮の背後の義乃も、数秒固まっていたが、動き出したと思えば、全力で首を上下に振っている。

 言葉が見つからず、しばらくぼーっと眺めていたが、篠宮が動いた。かなり身長の高い義乃の服の襟を掴み、無造作に引き摺っていく。


「ちょっ、兄貴! 蓮さんの話聞いてた!?」


「お前には別件で叱ることがある」


「な、た、たすけっ」


 突然すぎて頭の整理が追いつかず、俺はただ、涙目の義乃を見つめていることしかできなかった。ハッとして追いかけたとき、既に篠宮は彼の部屋の隣の部屋に入っていくところだった。

 勢いよく扉が閉められ、鍵をかける音が聞こえた。俺には救えない命だったのだ、と自分に言い聞かせ、俺は篠宮の部屋に戻った。


 俺はどこで寝ればいいのだろうか。


 部屋に入った瞬間に俺の脳裏を過った思考だ。篠宮のベッドで寝てしまったのは早くも黒歴史だが、来客用の布団などはあるのだろうか。

 部屋は広いし、寝るスペースは十分にある。だが、床はフローリングだし、極力直接は寝たくない。とはいえ、ベッドは篠宮のものなので使ってはいけない。数時間前の俺は気が狂っていたのかもしれない。


 勝手に部屋の収納を開けてみると、中にあったのは広いクローゼットだった。奥行きがあり、所狭しと服が掛けられている。

 偏見で、篠宮はあまりオシャレには気を使わないほうだと思っていたので、ものすごい数の服を目の当たりにして驚いた。

 心の中で謝りながら、勝手に服を物色する。奥に進むにつれて、服のサイズが小さくなっているような気がする。クローゼットの真ん中辺りで既に、明らかに篠宮が着ることができないサイズの服がかかっていた。

 これらは、過去に篠宮が着ていた服なのだろう。彼は服を捨てない主義のようだ。

 一番奥にある服は、もはや俺でも着られないほど小さかった。小学校低学年くらいの時の服だろうか。胸元に大きくドクロマークが描かれている。

 ふと思い立った俺は、自分が着られそうなサイズの服を探すことにした。もちろん、着るつもりはない。


 クローゼットは数列あり、それが奥まで続いている形で、非常に広い。篠宮の趣味ではなさそうな服もあるので、親御さんが勝手に買い与えたものが多いのかもしれない。

 端から虱潰しに服を漁り始めた俺は、俺がちょうど着られそうな服を適当に手に取って、自分に合わせてみる。男子なだけあって、少年趣味のよくわからない英文のプリントされた服が多い。俺も昔はこんな服を着ていたような気がする。


 最後の列を漁っていると、俺は衝撃的な服を目にしてしまった。

 思わず手に取ってしまい、まじまじと眺める。サイズ的には俺にピッタリである。

 このクローゼットの中にあるということは、篠宮が着ていたと考えて間違い無いのだろうが、全く想像がつかない。


「鳴海? クローゼットの中か?」


「ひっ」


 突如聞こえた篠宮の声に驚いて、持っていた服を抱き締めながらその場にしゃがみ込んだ。義乃への説教が終わったようで、気づかぬうちに、かなりの時間が経っていたらしい。

 このクローゼットは、もはや一つの部屋まである広い空間なので、簡単には見つからないだろうと思っていたが、それは間違いだった。


「何をしているんだ、こんなところで」


「あ、えーと、ごめん……」


 俺はそっと立ち上がって、篠宮にバレないように手に抱えていた服を戻そうとした。


「その服は」


「うぅ……お、俺は何も見てない!」


 篠宮の横を通り過ぎるにも、服が多すぎて無理だ。というか、篠宮のガタイが良すぎて、通路が完全に塞がれている。篠宮がゆっくりと近づいてくるので、俺は追い詰められたネズミのような気分になっている。


 篠宮が目の前まで来てしまい、何をされるのかと思った矢先、彼は俺が戻した服に手をかけた。

コロナウイルス怖いですね。マスクが高すぎて買えたものじゃない。

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