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幸福のつかみ方  作者: TK
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 温泉には行かないし、家のお風呂は至って普通なので、今この時は恥など捨てて楽しむことにした。

 義乃は何も隠さずに大の字になっているが、ここまで堂々としていると、もはやこれが普通なのではないかと錯覚してしまう。間違いなく錯覚だ。これは義乃がおかしい。


 義乃よりも圧倒的に短い肢体をウンと伸ばす。体が凝り固まっているわけではないが、不思議と気持ちがいい。


「蓮さんは兄貴のことどう思ってるんですか?」


 ふと、義乃が口を開く。今は友達としか思っていない。


「でかい」


「……蓮さんが小さいのでは?」


「うるさい!」


 義乃の悪気のない表情を見ると調子が狂い、ペースが崩される。篠宮は誰から見ても大きいのに、俺が小さいだけなはずはない。篠宮家の人間が皆、大きすぎるだけだと思う。


「というか、蓮さんってちゃんと食事してますか?」


「してるけど……なんで?」


 自分で作っている分、一般的な高校生よりはバランスの良い食事をしていると思っている。中学までは外食もせず、家から出なかった。

 今度は逆に、俺が小首を傾げる。


「じゃあ、ちょっとその場で立ってみてくれませんか?」


「え、嫌」


「え゛ー……」


 恥を捨てると言ったが、やはり俺には捨てきれなかった。今は泡だらけのお湯に浸かっているのでまだ我慢できているだけだった。

 即答した俺と、がっくりと項垂れる義乃。何を思って俺に立って欲しかったのだろうか。

 すると、義乃がゆっくりと俺に近づいてきて、俺の両肩に手を乗せた。不思議に思っていると、義乃の手がどんどんと下っていく。

 その行動の意図を理解し、まずい、と思った時には遅かった。


 俺の体は軽々と義乃に持ち上げられ、無理矢理立たされてしまった。


 反射的に俺の手は義乃の頭を叩いていたが、彼女には効いていないようで、俺を支える手の力が緩まることはなかった。篠宮にも叩かれていたし、丈夫なのだろう。

 義乃は至って真面目といった顔で、まじまじと俺を見つめてくる。俺は目を逸らしながらも訊く。


「あの……何?」


「……はぁ」


 義乃は一度大きなため息を吐き、俺を降ろした。一体何だったのか。

 義乃は湯船から出て、髪を洗い始めた。俺はその洗い方を見て仰天する。洗い方が男のソレなのだ。

 彼女の髪は、萌希よりは長く、俺よりは短い。髪型に詳しくないので、なんという名の髪型なのかはわからないが、先程部屋で見た時はポニーテールにしていた気がする。

 ともかく、萌希から女は繊細、髪は命と言われていた俺は、思わず湯船から飛び出てしまった。


「お前、髪はもっと大切にしろ。女の命なんだろ」


 そう言いながら、乱暴な義乃の手を払い、俺が彼女の髪を洗い始める。


「え、れ、蓮さん……? なんか雰囲気が……」


「雰囲気? 俺はいつもこんな感じだけど」


 義乃が意味のわからないことを言うので、適当に返しながらも丁寧に髪を洗う。こういう時に指が細いと便利だな、とか思ったりする。太くても変わらなさそうだけど。


「そう、なんですね……」


 妙に含みのある言い方をするので、俺は怪訝に思った。


「さっきからどうしたんだ?」


「なんでもないです。髪、洗ってくださってありがとうございましゅ……」


「……噛んだな」


 義乃は顔をこちらに向けぬまま、俺に礼を述べた。まぁ、今顔を向けられても、髪を洗っている真っ最中なので困るだけだが。


 髪を洗い終わり、シャワーで流していて思ったのが、義乃の髪は結構硬めだった。今までもあのようなガサツな洗い方をしていたせいかもしれないので、今後は注意するように言っておく。


 次は体だが、義乃は体も洗わずに湯船に浸かったというのか。考えてみれば、お風呂に入ってきてからすぐに俺の隣に来ていた。だからといって、俺は気にしてはいない。

 それよりも、今は彼女の体の洗い方が気になっていた。髪の洗い方がアレだったので、体のほうももしかしたら、と思ったのだ。


 結果は案の定だった。男だった俺にはよくわかる、とりあえずボディーソープを肌に擦っとけ感。

 ずっとこのような洗い方をしていたのならば、もっと肌が荒れていてもおかしくないはずなのだが、義乃の肌は凄く綺麗に見えた。

 試しに背中を指でなぞってみる。


「うひゃあっ!? 何するんですか!」


「あ、ごめん」


 こそばゆかったようで、真っ赤になった顔で叫ぶ。可愛いなぁと思いながら、義乃の肌の感触を思い出す。

 俺とは違って、かなり丈夫なようだ。俺なんか、ちょっと掠ったくらいでも傷になるというのに。


 もしかして、俺がおかしいのか?


 義乃はこんな雑な洗い方でも、肌は綺麗に保たれている。ひょっとすると、髪もあそこまで丁寧に洗う必要はなかったのかもしれない。

 でも、俺は彼女の体も洗うことにした。余計なお世話かもしれないが、俺には我慢できなかった。


「ちょっと失礼」


「ひゃ……か、体もですか……?」


「文句ならしのみ……仁に言っといて。俺をここに来させたのはあいつだから」


 義乃も篠宮であることを考慮して篠宮のことを『仁』と読んでみたが、これはこれで呼びやすいことに気づく。

 思えば、『蓮』と『仁』は少し似ているような気がした。


 俺は五分以上もの間、義乃の体を洗い続けた。

あまりにも更新頻度が遅くて、少し前の自分はよく毎日更新してたな、って思いました。

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