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幸福のつかみ方  作者: TK
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小さくて大きい

サブタイトルをつけるのが難しすぎてもう番号だけにしてしまおうかと思いました。

 父と夕食を食べながら、色々と会話をする。

 いつも通りの光景のはずなのだが、何かが違う。


「……父さん、そんなに緊張しなくても」


「あ、あぁ、わかっているんだ、頭では」


 俺の容姿が限りなく母に近いため、父が堅くなってしまっている。これについては、俺はどうすることもできず、父に慣れてもらうしかない。


 結局、父はあまり話すことなく夕食が終わってしまった。

 残念に思いながら食器を洗っていると、父が思い出したように話し始めた。


「そうだ蓮、学校のことなんだがな。あまりにも急なことで学校側も困惑しているから明日学校に来てほしいそうだ」


「ま、普通困るよな。わかった、何時頃?」


 日曜日の学校なんて、部活くらいしかやっていない。

 父が九時頃と呟き、部屋に戻った俺は早速、忘れないようにアラームをセットした。

 正直なところ、朝食を作るためにいつも早起きしているのでアラームは必要ない。なんとなく設定したまでだ。


 携帯を見ると、誰かからメッセージが届いている。

 俺の携帯に登録されている人は父と萌希だけなので、十中八九、萌希だろう。


『明日服買いに行こ!』


 俺のクローゼットには170センチあった頃の俺の服しかない。幼い頃に着ていた服などは全て捨ててしまっているので、今の身の丈に合った服は一着もない。

 そういえば、服について父からは何も触れられていないな。気が付かなかっただけかもしれない。


『了解。でも午前中は学校行かなきゃいけないから、午後からでよろしく』


 返信はしたものの、明日の服はどうすればいいのだろう。

 サイズが合っているのは、今着ている萌希の服だけだ。これは今日洗う……あ、もう風呂には入ったんだった。

 萌希には申し訳ないが、今日のところは洗わずに明日も着させてもらおう。



 本当に今日は色々ありすぎた。

 萌希の家で長い時間寝てしまったせいで今はあまり眠くないが、今日するべきことは全て終わってしまった。

 要は暇だ。


 暇すぎていつものようにSNSを開く。

 あいつは……今日も暇だな。昼も暇そうだったけど。よし、誘うか。


 誘ってみたところ、久しぶりだな!と返ってきた。そういや五日間寝てたんだっけ。

 ほぼ毎日のように遊んでいたため、心配してくれていたようだ。

 普段なら通話をしているところだが、マイクが不調でしばらく喋れない、しばらく遊んでなかったのもそれが理由、と伝えたので聞き専で通話に入る。

 マイクが壊れたというのは当然、嘘である。

 今の俺の声は先日までとは違うのだ。変に疑われても嫌なので、嘘をついた。


 ……テキストチャットって面倒だな。


 ─────────


 翌日の朝、セットしていたアラームが鳴り響き、俺は目覚めた。

 らしくないことに、普段の時間を寝過ごしてしまった。アラームセットしててよかった。

 いつものようにトイレに行き、便器に向かって用を足そうとしたが、そこで俺のアレがないことに気がついた。

 女ってどうやって用を足すのだろうか。昨日の段階で萌希に聞いておくべきだった。

 狙いが定まりそうもないし、とりあえず座って致した。


 昨日も思っていたことだが、やはり女性物の下着の布面積に反しての安心感がすごい。

 しかし、抵抗は未だにあるので、早く慣れねば。


 父も一緒に学校へ行くとのことで、俺と同時刻に起きた。

 俺たちは朝食を食べ、色々準備をした。

 学校に行くのだから、制服のほうがいいのだろうか。でもこの制服ぶかぶかだしなぁ……。


 なんかみっともないので、萌希の服で行くことにした。


 ─────────


 学校へ着くと、細谷先生が出迎えてくれた。

 彼女は俺の姿が信じられないようだが、俺も信じられないから仕方ない。

 会議室に連れて来られた俺は、教員の数に驚愕した。

 こんなに見られるだなんて聞いてない。父がいなければすぐにでも逃げているところだ。


 そんなに沢山いたところで、俺と関わったことのある教員は細谷先生と、受験のときに面接した人だけなのだ。

 俺のことを知らないだろうし、無駄だと思うのだが。


「この娘が、先日まで息子だった、一年L組の鳴海蓮です。私は父の鳴海(さとし)です」


 父の発言に、周囲がどよめく。

 俺だってなりたくてなったわけじゃないんだから、さっさとしてほしい。知らない人と話すのは不得意なのだから極力喋りたくもない。


「鳴海さんは今後も本校に滞在したいとのことですが、それにつきましては、学校側でも全力でサポートさせていただこうと思っております」


 この人は校長だ。入学式の時に前で話していた気がする。まだフサフサのおじいさんだ。


「制服もこちらで用意致しますので、身長だけ測らせていただいもよろしいですか?」


「はい」


 目盛りのついた棒に上下可変するパーツが組み込まれただけの単純な身長計に乗る。

 少しでも見えを張ろうと背筋を伸ばしたが、結果は152センチだった。


 ……小さい。


 平均身長を聞いたら157センチだというではないか。足りていない。


「では、制服は今日中に発送します」


「よろしくお願いします」


 父がお辞儀をし、並んで俺もお辞儀する。

 制服は作るのに時間がかかったような気がするので、既に作られているものからサイズの合うものを送るつもりなのだろう。俺は新品でも中古でもどちらでも構わない。

 他にも色々話したのだが、大体は父が受け答えをした。


 解散し、家に帰ってきてから、俺は携帯を見た。

 先程の会議中に萌希から返信が来ている。


『私はいつでも大丈夫だから、用事が終わったら呼んでよ!』


 午後からと伝えたが、意外にもあっさり終わったので、現在十時である。


 俺も用事終わったからいつでもいけるよ、と返信するとすぐさま電話がかかってきた。


「蓮くん部屋番いくつだっけ!?」


「どうした、テンション高いな。412だけど……」


「わかった! すぐ行く!」


 電話が切れ、俺は携帯の画面を凝視してしまう。

 確か、買い物に行くんだよな。時間帯的にきっと昼食も食べるし、結構な金を使いそうだ。

 散髪費すら払えない俺に、そんな金はない。

 そして家のチャイムが鳴った。父が出ようとしたが、相手は確実に萌希なので、俺が出た。


「……随分速いね」


「へへ、楽しみで仕方なかったんだよ! よし行こう!」


「ちょっ……」



 彼女に引っ張られるようにして、俺たちはショッピングモールに来た。


 俺自身は服に無頓着だが、服屋などを眺めていると平気で単位が万だったりするので、オシャレな人は大変だなぁと思った。

 俺が萌希に金がない旨を伝えると、彼女は心配いらない、といった表情で親指を立てた。


「大丈夫! 私が買ってあげるから!」


「え、それはかなり申し訳ないんだけど……」


「パパにもらってきたんだよ! あの人、私のこと溺愛してるから、大体言うこと聞いてくれるんだよね」


 娘に尻に敷かれているのか。本人は娘を愛しているから気にしないのだろうけど、何か気の毒だ。


「さて、まずはやっぱりあそこに行かなきゃね」


 萌希に引っ張られて着いた先は下着店だった。

 彼女が言うには、俺が着せられているブラジャーはサイズが合ってなくて苦しいだろう、とのことだった。

 確かに少し圧迫感はあるかもしれないが、借り物なので文句は言えない。


「さ、まずは採寸してもらおうか」


「えっ……」


 その言葉に、俺は固まってしまう。


「え、じゃないよ。サイズわからないと買えないよ?」


 それはごもっともなのだが、それはつまり萌希以外の人間に裸を晒すことになるのでは。

 彼女は心配いらない、と言うが、心配というより純粋に恥ずかしい。


 ええいままよ。


 俺は店員さんと一緒に更衣室に入った。

 店員さんは早速メジャーを取り出した。


「それじゃあ、失礼しますね」


「えっ……」


 てっきり裸になるものだと思っていた俺は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になる。


「お客様、採寸は初めてなのですか?」


「……えぇ、まぁ」


「でもブラジャーされてますよね。こちらはどうされたんですか?」


「あ、えっと……」


 なんと答えればいいのか。

 友人から借りた、なんて死んでも言えないので、母から借りたとでも言っておこう。

 母さん、ごめん。馬鹿息子の言い訳になるのを許してほしい。


「なるほど、だからサイズが合ってないのですね。随分ときつそうなので、早めに合ったものに変えたほうがいいですね。失礼します」


 店員さんは手際よく、メジャーを通してきた。

 なんか変な感覚だ。




 採寸が終わり、更衣室から出ると萌希が話しかけてくる。


「お疲れぃ。どうだった?」


「めっちゃ恥ずかしかった」


 主に自分の勘違いが。

 採寸結果を伝えると、彼女は顎に手を当てた。


「なるほどねぇ……ふぅん……」


 何かまずいことを言ってしまったのだろうか。

 彼女の視線は俺の胸に突き刺さった。


「じゃあこのあたりかな。蓮ちゃんサイズは」


 下着がいっぱい並んでいるが、俺からしたらどれも同じに見える。


「あ、これとか可愛いんじゃない? どう?」


「どうと言われても……。俺は別に可愛さは求めてないかな……」


「駄目だよ! 蓮ちゃんは可愛いんだから可愛くしなきゃ!」


 どんな理論だよ。

 確かに母似の俺は、男目線の俺から見ても可愛いと思う。何でこの可愛こちゃんは俺なんだろう。

 見えない部分を着飾っても意味がない、と洩らしてしまい、萌希にこっぴどく叱られた。不服だ。


「……俺は別にどれでもいいから、萌希が好きなの買ってよ。元より、俺の金じゃないし」


「じゃ、遠慮なく」


 彼女に任せた結果、上下合わせて数万円のお買い物になっていた。

 下着だけでこんなに買っていたら、服なんて買えないのでは。

 購入後、俺は早速着けさせてもらった。

 ぴったりなので、今までの息苦しさが無くなってスッキリした。

 萌希が少し不満そうな顔で見てくるので胃が痛くなってくるが、気にしたら負けだ。

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