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幸福のつかみ方  作者: TK
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篠宮の妹

「ここが篠宮の家か……」


 表札には『篠宮』と書いてある。ここが彼の家と見て間違いない。

 三階建ての一軒家で、外観を見ただけでも大きいのがわかる。自分はあまりお金を持っていないのに、実家はお金持ちなのだろうか。


「入るぞ」


「お、おう」


 新たな地へ足を踏み入れるような感覚で、とても緊張する。萌希の家は同じマンション内なので、部屋の間取りも同じで新天地、という感覚はなかった。


 門から玄関までの間にはテニスができそうなほど広い庭があった。絶対にお金持ちの家系である。

 庭の反対側にはプールもあって、俺は少し目眩がした。

 玄関前に立ち、鍵を開ける。普段見慣れている金属製の鍵ではなく、篠宮の指紋でロックが解除された。


 いろいろと凄すぎて、俺は言葉を失う。体の固まり具合も増してきて、もはやカチコチである。


「帰った」


「兄貴おかえりー……って、うわぁぁぁ!」


 篠宮の声に応えるように発せられた声は少女のもので、兄貴と言っているので彼の妹だろう。篠宮のやつ、妹いたのか。


「お母さぁぁぁん! 兄貴が女の子連れてきたぁぁぁっ!」


「何ですってぇ!?」


 どこからともなく、篠宮の母であろう声も聞こえてきた。

 そのドタバタ具合に何とも言えなくなり、俺は篠宮の顔をじーっと見つめる。

 彼はいつものすまし顔で靴を脱いでいた。こんなのは日常茶飯事ということなのだろうか。


 玄関で靴も脱がずに動かない俺に構わず、篠宮はどんどん進んでいく。


「ちょ、待っ」


「三階の部屋に行っててくれ。ちょっとしたら俺も行く」


 振り向きもせずに、篠宮はそう告げる。俺は急いで靴を脱いで綺麗に揃え、言われた通りに階段を上っていった。


 三階の部屋と言っていたが、三階には部屋が二つあり、間にトイレがあった。どっちの部屋に入ればいいのかわからず、迷っていたら篠宮が来た。


「あぁ、そうか。部屋二つあったな、すまん」


 こっちだ、と言いながら、彼は左の部屋に入っていった。俺も続いて入っていく。

 部屋に入った俺は再び絶句する。


 部屋が広いのはもちろんだが、置かれているものに驚きを隠せない。

 まず、俺の部屋にもあるような生活器具。ベッドや机、テレビやパソコンなどだ。この前買ったと言っていたゲーム機も置かれている。

 あくまでもそれは部屋の隅に固まって置かれており、俺が驚いたのはそこではない。


「……どうした?」


 篠宮が何の気なしに訊いてくるが、俺は答えることができない。

 この部屋には、さながらジムのような筋トレ器具の数々が置かれており、数え切れないほどのトロフィーやメダルが棚に飾られていた。

 その棚に、萌希が撮ったのであろう俺の写真が──。


「……あの、これは」


「萌希に貰った」


 やっぱりか!

 俺は写真に写るのが嫌いな人間だ。自分の写真を見返すことすら恥ずかしくてできたものではない。

 写真写りがどうとか、そういう問題ではなく、そもそも写真が嫌いなのだ。

 なんで俺の写真なんか……。


「これ、置いてなきゃダメ?」


「……そうだな。無いと俺が困る」


「そ、そうなんだ……」


 篠宮がそう言うなら仕方がない。この写真を何に使うかはわからないが、彼なりの用途があるのだろう。それを取り上げるわけにはいかない。俺が見られているようで恥ずかしいが、我慢だ。


 改めて部屋を見渡すが、篠宮らしい部屋だと思う。この部屋からあの筋肉が産まれたのだ。素晴らしい。


 ところで、俺はどうして家に呼ばれたのだろうか。まだ理由を聞いていなかった。


「どうし」

「兄貴ぃーっ!」


 俺の言葉は途中でかき消され、部屋の扉が勢い良く開く。


義乃(よしの)……さっき部屋には来るなと言っただろ」


「だってだって、気になるじゃん! そんな可愛い娘家に連れ込んじゃってさ!」


 このやたらテンションの高い女の子は義乃というらしい。家系のせいなのか、かなり身長が高く見える。恐らく、萌希以上だ。その割には顔はまだ幼く、瑞々しさが大爆発である。

 普通に可愛い部類に入る。


「うわーっ、ほんとに可愛い! お人形さんみたい! 君、名前は?」


 遠慮なく触れてくる義乃に、俺は少し恐怖を覚える。初対面の人にここまで馴れ馴れしく接するのは人としてどうかと思う。

 彼女は篠宮の妹だろうが、確実に俺のことを歳下だと思っているような気がする。


「おい義乃、いい加減にしろ。そいつはお前より二つ上だ」


「えっ、嘘……」


 篠宮の言葉で表情が一気に青くなる義乃。俺の顔をじっくりと見た後、体に向かって手が伸びてきたため、俺は反射的にその手を弾いた。


「さすがに人としてどうかと思う……ます?」


 タメ口で言おうとしたが、こちらからしても初対面なので、敬語に軌道修正しようとして変な言葉遣いになった。

 俺に手を弾かれたことに驚いたのか、義乃は目をぱちくりさせて、俺の顔と自分の手を交互に見た。


「あ……ごめんな、痛かった?」


 無意識に彼女に近寄り、手を撫でながら謝る。ハッとして義乃から離れようとしたときにはもう遅かった。


「あぁーっ! 可愛ぃーっ!」


「うわっ!?」


 俺は義乃に思いっきり抱きしめられ、あまりない胸に顔を埋めることになった。

 遠くから篠宮のため息が聞こえた気がした。

あけましておめでとうございます。

2020年も頑張っていきましょう。


ユニーク10000人突破しておりました。

ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言]  開けましておめでとうございます。  作者様の作品、今年も楽しみです。
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