オシャレ
翌日、ゴールデンウィークの初日。俺は篠宮の家に行くことになっている。
篠宮に連絡して、朝から荷物をまとめる。一応ゲームのコントローラーなども鞄に入れておく。もしかしたらやるかもしれないし。
昼前に駅で待ち合わせをしているのだが、それまで結構時間がある。せっかく遊びに行くのだし、地味な部屋着ではなく、少しくらいオシャレしてみるか。
とはいえ、俺が持っている服は最初に萌希と一緒に買いに行ったものしかない。種類が乏しいのである。あの頃の俺の希望により、地味なものがほとんどだ。
ふと思い立って、萌希に電話してみる。休日の朝九時だが、彼女は起きていたようですぐに電話に出た。
「え、服を貸してほしい?」
「篠宮ん家行くんだけど、恥ずかしくない格好で行きたくて」
「ほほーう……なるほどなるほど。じゃあ一回うち来てよ」
というわけで、現在は萌希の部屋でお茶を飲んでいる。萌希が俺に似合う服を選んでくれるらしい。
彼女のクローゼットを見せてもらったが、布が多すぎて圧巻だった。俺のクローゼットには精々五着ほどしかない。
「私のだと蓮ちゃんには大きいよねぇ……お母さーん」
服を手に取って、いろいろと吟味していた萌希は萌希母を呼びに行った。
まさかあの人の服を俺に着せる気なのだろうか。確かに俺の背は低いが、あそこまで低くはない。あの人の見た目はもはや小学生なのだ。
少し経って、萌希は萌希母と共に戻ってきた。萌希の手の上には、いくつかの布が綺麗に畳まれていた。俺は小学生サイズの服を着せられてしまうのだろうか。
自然と戦闘態勢に入ってしまった俺を見て、萌希は怪訝な顔をする。
「何か変なこと考えてるでしょ」
「え、そんなことは……いや、あるかも……」
「はぁ。そんな構えなくても、これは私の中学時代の服だよ。だいたい三年前とか、中一の頃かなぁ。お母さんが取っててくれたの」
それを聞いて俺は構えを解く。あれが萌希本人のものなら何も問題はない。
……待てよ。そもそも、なぜ俺は頑なに萌希母の服を拒もうとしているのだ。わからん。
萌希はテーブルに持っていた服を広げた。それはそれは大層女の子らしい服ばかりである。当時中学生の萌希が着ていたことを考えると、可愛かったんだろうなぁという感想が浮かんだ。
俺は萌希と同じ中学かつ同じクラスだったのに、中学生の萌希を知らない。今の彼女は誰が見ても美人だと言えるし、中学時代も可愛かったのだろうと勝手に想像した。
「蓮ちゃん? どこ見てるの?」
「遥か悠久の蒼空」
「……。蓮ちゃんにはこれとかいいんじゃないかな」
可哀想な人を見る目で萌希が差し出してきたのは、数ある萌希の服の中でも抜群に地味なもの。それでも、俺の服よりは幾分もマシである。
俺の『目立ちたくない』という性格を知っている彼女の思い遣りなのだろうが、今日の俺はオシャレをしに来ている。そんな遠慮はいらない。萌希の持ってきた服の中にはスカートもあるが、三週間も制服を着ていれば慣れるものである。
「今日は、俺に似合う服を選んでほしいんだ」
「……気合入ってるね。わかった、覚悟してね……?」
萌希の目がギラリと光ったように見えた。俺は不穏な空気を感じ取ったが、自分で言った以上は引くことができない。
萌希母は笑顔でリビングへと戻って行き、萌希は俺の全身をじっくりと観察し始めた。そんなに凝視されるとさすがに恥ずかしい。
少しして戻ってきた萌希母の手には、新たな服の数々が。最初の分だけでも結構な量だったのに、まだあるのか。女子恐るべし。
「こう見ると、神奈子の服だけにどれだけお金使ったのかしらねぇ」
「私ってこんなにいっぱい服持ってたんだね。着てないのもあるんじゃない?」
どうやら、萌希本人も知らない服があるようだ。この感じだと、親が勝手に買ったのだろう。萌希が可愛くて可愛くて仕方なかったのだと予想する。
萌希の視線は再び俺に戻り、おもむろに俺の服を脱がせ始めた。突然のことで驚いたが、今日の俺は昨日までとは違うのだ。平常心平常心──。
「ひゃっ!?」
「この胸を活かして……」
不意打ちとはいえ、自分から出た悲鳴を聞いて何とも言えない気持ちになった。やっぱり、いろいろと女になりつつあるのかもしれない。
「ということで、いろいろ考えたけど! シンプルがいいかなと思って、これ!」
萌希が渡してきたのは一着の白いワンピース。清楚である。
確か、黒い方もあったはずだ。俺は黒の方が好きなので黒では駄目か、と訊いてみたが、返答を聞いて俺は悲しくなった。
「蓮ちゃん子供っぽいから、黒より白の方が似合うよ」
とのこと。言い方からして、見た目だけの問題ではない。性格についても言われている気がする。俺は歳の割には大人びていると自負していたのだが、全否定された気分だ。
ワンピースの着方を教わりながら来てみると、思いの外フィットした。つまり、俺は中学一年生の萌希と同じ体格、ということだ。
切ない。
「すごいかわい……似合ってるよ」
可愛い、と言おうとしたのだろうが、彼女は慌てて言い直す。前に俺が言った、嬉しくない、という言葉を気にしているのだろう。
「言い直さなくていいよ」
「……でも」
「嬉しいから、ありがとう」
「──っ」
俺はごく自然な笑みを溢す。萌希は一瞬で真っ赤になり、震えだした。その様子を萌希母は笑顔で見ていた。
こういう時こそ絵描けや、って自分を叱咤してます。
たぶん描きます、余裕あったら。




