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幸福のつかみ方  作者: TK
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★真実

 俺は部活に入る気など更々ない。まず、部活をする隙があるならアルバイトの方が有意義だ。

 目の前の少年は大きく高笑いをしているし、頼まれたら断りづらい性分だが、ここはハッキリと断っておく。


「すみません、部活に入る気はないです。時間がありません」


「そうなのかい!? なら幽霊部員でも構わない! 稀にでも良い、時間ができたら顔を出してくれ! 場所はこの棟の調理室だ!」


「いや、だから……」


「じゃあ待ってるよ!」


 そう言って、少年は名も言わずに去っていった。

 この棟に調理室があることは初耳だったが、そんなことよりも、なぜ俺を探していたのだろうか。

 俺は確かに料理はするけど、趣味の範疇だ。というか、どこかから俺が料理をすることが漏れたのか。


 思い当たる人物は四人。そのうちの篠宮と有村はそんなことを漏らしはしないだろう。まず、有村には俺の料理は食べさせていない。

 萌希は無意識にポロっと漏らしそうではある。高梨は……わからない。


「蓮ちゃんいつまで体操服なの?」


「うわっ、ビックリした。急に話しかけるなよ……」


 制服に着替え終わった萌希が更衣室から出てくる。続いて、他の女子たちも何人か出てきた。

 人数を数えていたが、うちのクラスの女子生徒は俺除き七人だったはず。今出てきたのは、萌希を含めて五人だ。


「中の人がいなくなるまで着替えない」


「えー、何気にしてるの。恥ずかしがることないよ」


 違う、俺は恥ずかしいわけではない。これでも元が男なので、女子の体を見るということに抵抗があるのだ。むしろ、罪悪感まである。

 純正の女子ならともかく、俺は紛い物である。トイレと更衣室を避けていた理由がこれだ。


「中にいるの神コンビだし、もうみんな着替え終わってるよ」


 神コンビとは、恐らく神谷と神崎のことだ。ファーストネームで呼び合っていたし、仲も良いのだろう。

 俺は人のことを下の名前で呼ぶことが苦手なので、基本的に苗字で呼ぶ。今まで他人とは距離を置いてきた俺にとって、ファーストネームで呼ぶ、ということは馴れ馴れしくて畏れ多いのだ。俺は結構下の名前で呼ばれることも多いが、これは俺個人の問題なので、他の人から呼ばれる分には大いに構わない。


 着ている体操服は神谷のものなので、早急に返したい。中の二人が着替え終わっているのなら問題ないと、俺は更衣室の扉を開ける。

 そこには、下着姿の二人がいた。


 俺は高速で身を翻し、その場から立ち去ろうとしたが、萌希に捕まった。


「騙したな! 信じてたのに!」


「騙してないよー、私が出るときにはもうみんな制服だったの!」


挿絵(By みてみん)


 その場で言い争う俺たちを、神コンビは更衣室に引き摺り込む。下着とかいう布一枚で廊下に出てくる勇気はとても真似できない。さっきの料理部の勧誘の人みたいな男子だって通るのに。


 なぜか正座させられ、下着姿の神崎に説教されている。萌希も神崎側に付いており、俺は完全にアウェイである。


「鳴海、アンタはもう女子なんだから、何も気にすることはないの!」


「そーだよー、ナルミン」


「女子なのは見てくれだけだって……。中は男」


 俺は二人を直視しないように、俯きながら答える。二人は二人で、俺のような男かも女かも知れぬ人間に、裸を見られても何も思わないのか?


「そう。じゃあ、今のウチらを見てどう思う?」


「何も見えません」


「……萌希。鳴海の顔、無理にでも良いから持ち上げて」


「御意〜」


 すんなりと神崎の言うことを聞いた萌希によって、俺の顔は上を向く。それでも見たくない俺は、全力で目を瞑る。

 その目すら、萌希によって開かれようとしている。なぜそこまでして俺に裸を見せたいのか、理解できない。


 ひたすら萌希から力をかけられ、だんだん痛くなってくる。このままでは俺の体が持たないので、諦めて潔く目を開ける。


「やっと見た。どう?」


 どう、と言われても。

 神崎は、萌希よりは低いものの、女子にしては身長がそこそこ高く、体型もスラッとしている。細いのに、出るところはちゃんと出ている、モデル体系というやつだろうか。それでいて黒髪ロングの美人である。

 神谷は何もかも小さかった。胸につけているのは、いわゆるスポーツブラである。だが、太ももの筋肉には目を見張るものがあった。ゆるふわ系の可愛い顔をしながら、しっかりとした筋肉でギャップがすごい。


「ほら、ね? 何も思わないでしょ?」


 俺が呆然と眺めていると、神崎がそんなことを口走る。

 何も思わないわけではない。俺は普通に、神崎のスタイルの良さが羨ましいし、神谷の筋肉にも惚れ惚れした。


 神崎は大きく深呼吸すると、しっかりと俺の目を見据えた。


「……アンタはもう、自分が思っているほど男じゃないの」


 その言葉に衝撃を受ける。

 精神が体に引き摺られたとでも言うのか。いつかはなるかもしれないなどとは思っていたが、自分がしっかりと男だと思っていれば変わることはないと思っていた。

 言われてみれば、こんなあられも無い姿の女子を見て、俺は興奮すらしなかった。神谷の筋肉には少しドキッとしたけど。


「順応も早かったし、もしかしたら、そういう素質があったのかもね」


「シオン、たぶん聞こえてないよ」




 ──男の俺はどこへ行った?

髪伸びてきた蓮ちゃん。

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[良い点] 自覚パートやったずぇ!
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