表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福のつかみ方  作者: TK
41/73

厭悪

しばらく短い話が続きそうです(僕の頑張り次第)

 次に俺の目が覚めたのは約三時間後の八時過ぎであり、俺は圧迫感と熱を感じて瞳を開く。

 何かに拘束されているかのように、体が言うことを聞かない。金縛りだろうか。


 違う。


 篠宮が俺に抱きついているのだ。抱きつくとはいっても、腕が俺を抱くように回っているだけだが。


 そのことに気がついた俺は一気に覚醒し、顔が熱くなるのを感じた。篠宮を突き離そうとして体を捻るが、彼の顔が視界に入り、俺の力は弱まってしまう。

 俺が寝る前に見た健やかな寝顔。それと変わらぬ顔が目の前にある。

 今もぐっすりと眠っている彼を起こすのは可哀想だ。どうしてかはわからないけど、洗面所ではあまりよく寝られなかったようだし。

 とはいえ、俺も動きたいのだ。合計で九時間も寝たのは何年ぶりだろうか。目が冴えすぎて逆に怖い。


 そっと、起こさないように、体をするりと滑らせて抜け出す。篠宮はそのまま寝かせておいて、俺はリビングへ向かう。


「起きたのか。何か顔が赤いぞ、どうした?」


「……いや、何もないよ。おはよ」


 相変わらず鋭い父も先程起きたようで、自分で目玉焼きとトーストを作って食べていた。


「あまり寝られなかったか?」


 その質問の答えは否である。横に篠宮がいる安心感で、いつもよりもよく眠れたような気がする。

 首を横に振り、朝のうちに家事を済ませる。洗濯物は篠宮の分もあるので、少しだけ多かった。一人分など微々たるものだが。


 天気があまり良くなく、天気予報を見たら降水確率が六割だったので、ベランダには干さずに室内に干した。


 洗濯機によってびしょびしょになった篠宮の服を、他の服と同様に干していく。驚くほど柄の無いティーシャツだ。いつもこの服の下にあの筋肉が仕込まれているのか。


 いつもなら持っていないはずの服を手に固まる俺を見て、父は苦笑する。その笑いにどんな意味が込められているのかはわからない。


 家事を終わらせ、お昼ご飯を作るまで、俺には特にすることがない。ゲームをするにも、ゲーム仲間の有村は大賀と同じで、休日は昼過ぎまで寝ているタイプだ。

 ぼーっとしながら部屋に戻ると、篠宮はさっきとは違う姿勢で寝ていた。寝返りを打っただけだろう。


 筋トレの方法でも調べるか。




「……何を、やってるんだ」


「ふ、ふっきん……」


 一時間ほどして、篠宮も目覚めた。

 そのとき俺は、休憩を挟みながら色々な筋トレをしていた。一回腕立てをしてみたら全く続かず、腹筋をしようとしたら、まず上体が上がらなかった。男だった頃は当然、余裕でこなせていたので自分でも驚いている。

 それでも尚頑張っていると、俺の肩に手が乗せられ、動きを静止される。


「馬鹿なマネはよせ」


「な、馬鹿って、お前が望んだんじゃ……」


「やはりか……」


 篠宮は大きなため息を吐き、俺が痛くない程度ではあるが、俺をつかむ手の力を強める。

 俺の目をじっと見つめ、何かを言おうとしてそれを押し殺す。


「……篠宮?」


 篠宮がとても苦しそうな顔をするので心配になる。とりあえず、熱を調べるためにおでこを合わせる。やはり、熱はない。


「あぁくそ……すまない、帰る。服は明日か明後日にでも返す」


「えっ、もうちょっとゆっくりしていけばいいのに」


「すまない……もう我慢できそうにない」


 そう言って、篠宮は自分の荷物をまとめて、颯爽と帰っていった。あっという間に、俺の部屋は寂しくなってしまう。


 何を我慢していたのか、俺にはわからない。やはり俺と一緒にいることが苦痛だったのだろうか。いくら考えても、その答えにしか辿り着かない。


 悲しいが、篠宮とはあまり関わらないほうが彼のためなのかもしれない。

 そう思うと、俺の頬を熱いものが伝う。


「……しょっぱ」


 俺は立ち上がって部屋の扉を閉め、鍵をかける。そのまま椅子に座り、ゲームを起動する。


 その日は食事もせず、ひたすら画面と向き合った。


 ─────────


 翌日になり、俺は篠宮の服を持って、萌希と共に登校する。彼女はいつもと変わらぬ笑顔を俺に向けてきた。

 それを見て、昨日の篠宮の苦い顔を思い出す。自然と、俺の表情も暗くなる。


「どうしたの?」


「ぁ、いや、何でもないよ」


「……あの後、何かあったの?」


 萌希に痛いところを突かれ、俺の体はビクッと跳ねる。明らかに動揺してしまったが、どうにかして平静を装う。


「何もないよ」


「……それならいいけど」


 萌希は口ではそう言ったが、表情は険しい。変なことを想像していなければいいが。


 学校へ着くと、篠宮はいつも通り、読書をしていた。

 彼は俺が登校したことに気づくと、一旦読書をやめた。


「おはよう。昨日はすまなかった。これ、返す」


 そう言って、彼は綺麗に畳まれた大賀の服を渡してきた。俺の家とは違う柔軟剤の香りがする。


「あ、もう洗ったんだ。俺もこれ」


 俺はそれを受け取ると、皺にならないようにリュックに入れる。篠宮にも服を返し、受け取ったのを確認した。帰る頃にはぐちゃぐちゃになっていそうで少し怖い。


 篠宮との会話はそれだけで、俺は席に着く。俺も読書しようして本を取り出したところで、誰かに声をかけられた。


「鳴海、ちょっといい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ