寝顔
短くなりました……。
その後も、なぜ洗面所で寝ていたのかは頑なに教えてはくれなかった。理由もなくあんな所で寝るわけがないので、俺は洗面所を隈なく漁ることにした。
篠宮が倒れていた辺りを嗅いでみると、篠宮の匂いがした。何か変態みたいなことをしているような気がする。というか、なぜこの香りが篠宮の匂いだとわかったのだろうか。
女子は嗅覚が鋭いみたいな話を聞いたことがあるし、そういうことなのかもしれない。
洗面所には篠宮の匂いしか残っておらず、他には特に弄られた形跡もない。本当にただ、洗面所で寝ていただけのようだ。
いや、そうじゃない。今、俺が求めているものは洗面所で寝ていた『理由』であって『痕跡』ではない。
しかし、これ以上詮索しても無駄そうだ。真相は本人のみぞ知る、か。
でも、気になる。
部屋には、薄いけどしっかりした布団を敷いていたのだ。それを避けてまでここで寝る理由がわからない。いくら考えても、俺から離れたかったのではないか、という結論しか出てこない。
こうなったら、当たって砕けよう。
俺は部屋に戻り、布団の上で座禅しながら目を瞑っている篠宮に話しかける。
「なぁ、俺と一緒に寝たくなかったのか?」
途端に篠宮は喉を詰まらせたような声を発した。そのまま咳き込み始めたので、恐らく噎せたのだろう。
「だ、大丈夫か?」
篠宮に駆け寄り、背中を優しく擦ってやる。そういえば、初潮のときに有村と篠宮から擦ってもらったっけ。
俺の手の小ささが篠宮の背中の広さを際立たせる。
「大丈夫だ……。その……なんだ。一緒に寝てやりたいのは山々なんだが……」
「何だよ、歯切れ悪いな」
篠宮が俯きながら言葉を濁す。俺は背中を擦りながら、篠宮の顔を覗き込む。
視界に俺の顔が入ってきたことに驚いた篠宮は、再び激しく咳き込み始めた。
「なっ、ちょ、大丈夫か本当に!?」
「俺なら……ゴホッ、大丈夫、ッ、だ」
見るからに大丈夫ではないので、俺はキッチンに走り、コップいっぱいに水を汲んだ。
「ほら、飲め!」
半ば無理矢理、篠宮に水を飲ませる。本当は無理矢理飲ませることはあまりよろしくないのだが、この際なので仕方ない。
水を飲み干して落ち着いた篠宮は「ありがとう」とだけ呟いた。咳は止まったようで、俺も安心する。
俺がコップを片しに行こうとすると、篠宮がそれを呼び止める。
なんだろうと思って見ていると、篠宮が口を開く。
「一つだけ、言っておきたいことがある」
「どうしたんだ、改まって」
彼の目はまっすぐに俺の瞳を捉える。久々に目を合わせてくれたことに感動したが、今度は俺が篠宮の目を見ることができず、そっと視線を逸らす。
「俺は男だ」
「え? そんなの見りゃわかるけど……」
「……そうか」
彼はそう言うと、俺が持ってきたちゃぶ台を部屋の隅に寄せ、布団を元に戻した。そのまま布団に寝転がり、目を閉じる。
寝るのかよ。
朝の五時なのだから、まだ眠くても仕方ない。それに、俺が無理に起こしたようなものなので、目覚めはあまり良くなかっただろう。
篠宮には悪いことしたな。
俺がコップと食器とちゃぶ台を片して戻ってくると、篠宮は既に、寝息を立てて眠っていた。
俺が戻ってくるまでにかかった時間はほんの二分程度だと思うが、それほどまでに早く寝付けるとは。相当疲れが溜まっていたに違いない。
部屋で色々して、篠宮を起こしてしまうのも悪いので、俺も再び寝ることにした。目覚めがスッキリとはいえ、睡眠時間は六時間ほどなので、正直もう少し寝たい。
部屋の電気を消し、篠宮の寝ている隣の布団に潜り込む。横を見れば、健やかな寝顔を晒している篠宮がいた。
「……かわいいな、こいつ」
篠宮と視線の高さが合うことなどまずないので、結構新鮮だったりする。
洗面所で寝ていた時はあまり顔色も良くなかったが、今は全く問題なさそうだ。やっぱり布団で寝ないと、体に毒らしい。
篠宮の頬を撫でながら、俺も目を閉じ、眠りに落ちる。
たまたま日刊ランキングを見ていたら、ジャンル別でランキングに載っていて驚きました。
それから文字数が10万文字突破してました。なのに話が進まない。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




