再び
※多少のR15要素があります。
皆で一緒に乗ることができそうなアトラクションを探してみたが、大体が二人、または四人乗りである。こればっかりはどうしようもない。
詰めて無理矢理乗ることもできなくはないが、やはり窮屈すぎる。席自体も二人を想定して作られているので、間にいる人はお尻が痛いこともある。
息抜きに、園の敷地内を移動する船に乗る。船の席には人数指定の概念が無いため、横並びに五人座った。
船から降りた時に目の前にあるアトラクションに乗ろう、という萌希の提案で、俺たちが次に乗るアトラクションはジェットコースターになった。
有村と高梨は震えだし、高梨は意を決したものの、有村は捨て台詞のようなものを吐きながら、男性用トイレへと駆け込んでしまった。ヘタレすぎる。
有村が乗車拒否したので、四人で乗ることになる。またしても高梨は萌希の隣を確保した。
確実に俺のことを避けていないか?
「何名様ですか?」
「四人です!」
スタッフの問いに萌希は元気良く答える。スタッフは慣れた動作で俺たちを二人ずつ、列に並ばせた。
そして乗り物が目の前に止まる。ゲートが開き、俺たちは乗り込む。
「この安全バーの安心感はすごいな」
「リュック背負ってるみたい」
さっきの射撃のアトラクションとは違い、これはジェットコースターなのだ。当然、激しく動く。ただの棒一本ではなく、体全体を肩から覆うような形の安全バーなのである。
萌希高梨ペアはまさかの最前列である。俺たちはその後ろの二列目だ。俺も最前列が良かったなぁ。
最後列だと、まだ落ちていないのに前列に引っ張られて、スピードだけ速くなる。俺はその感覚があまり好きではないので、結構前の席に座れたのは満足している。
発車して、ジェットコースター定番の長い坂をゆっくりと登っていく。前の座席の高梨の顔を見ることはできないが、だいたい想像がつく。
「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」
落下と同時に、前列から二人の悲鳴が轟く。やはり女性の声はよく響く。俺と篠宮は一言も発さず、ただ、スリルを楽しんでいた。
「外から見てたけどよ……何でお前らあんなの乗れるんだ? 途中で逆さまなってたじゃん……」
「有村くんはヘタレすぎ!」
「あ、あ、あたしだって、乗ったんだからっ! 怖かったけど……っ!」
外で待機していた有村と合流し、萌希は早速罵倒する。高梨はまたしても、顔を軽く腫らしながら俺に抱きついている。俺と隣にはなりたがらないくせに、よくわからない。まぁ可愛いので良しとする。
そろそろお昼ご飯の時間である。篠宮は予め調べていたが、結局は園内で食べよう、という話で落ち着いた。
有村と萌希は食べたいものが決まっていたらしく、二人でどこかへ行ってしまった。高梨は俺と篠宮を交互に見たあと、彼らを追いかけて行ってしまった。
取り残された俺と篠宮。
「……行っちゃったな」
「あぁ……」
園内には、レストランもあれば、屋台のような店もある。俺は食べられれば何でも良いので、篠宮に決定権を委ねた。
「なぁ、あれ、気になるから買ってもいいか?」
「ん、良いんじゃない? 別に自由だぞ」
篠宮がなぜか申し訳なさそうにしていたので、気にするなと言っておく。
彼はその場からすぐ近くにあった屋台に、何かを買いに行った。
俺は少し離れたベンチに座っていたのだが、思ったより並んでいるようで、篠宮はなかなか帰ってこない。
気になって様子を確認しようと立ったところ、見知らぬ男に腕を掴まれる。
「っ!?」
男は帽子を深く被り、サングラスにマスクをしていた。体型はふくよかである。まさに不審者のテンプレート。
どこかで見覚えがあるような、などと思っているうちに、どんどん引っ張られていく。抵抗しようにも、力が足りない。どうしてこうもこの体は非力なのか。
周りにこんなに人がいるのに、誰も助けてくれない。俺たちのことが見えていないのか、皆、素通りしていく。
「っ、おい! 止まれ!」
男は止まらない。俺の足は体勢を崩すまいと必死に地を蹴っており、少しでも気を抜くと派手に転びそうだ。
そして、男はついに止まる。
そこは、薄暗く、人も全く通らない、建物の裏。
逃げ出そうと、手に力を込めてみても、男の手は離れない。この感じ、前にもあったような──。
瞬間、俺の脳裏に記憶が蘇る。
それは、先週の図書室での出来事。今思えば、既視感の正体はそれだったのか。ということはこいつも一年生……?
隙を伺って逃げようとしても、まずはこの掴まれている腕をどうにかしなくてはならない。力ではまず勝てないので、どうするか。
「……フ」
男の口から漏れた音を聞き、全身に鳥肌が立つ。植え付けられたトラウマで体が震えだす。力も抜け、立っていることすら怪しい状態に陥る。
体は言うことを聞かないくせに、頭は妙に冷静だ。
男の手は俺の腕から離れ、俺の上着を脱がせ始める。
男はモゾモゾと蠢き、カチャカチャという音とともに穿いていた物を脱ぎ始める。
いやいや、冗談キツイって。
本当にいるのかよ、こんな変質者。
今なら逃げ出せるはずなのだが、完全に腰が砕けてしまい、立つことができない。
汚らわしいモノなど見たくないので、俺はぎゅっと目を瞑る。
周囲に広がる、鼻を刺激する強烈な臭い。考えたくもないが、これはきっとアレの臭いだろう。
俺の頬を、熱いものが伝う。それは流れるように口に入ってくる。塩っ気がある。
あ、俺、泣いてるんだ──。
そう思ったとき、この薄暗い闇は、眩い光に照らされた。
蓮ちゃん情緒不安定にも程がある。




