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幸福のつかみ方  作者: TK
32/73

再び

※多少のR15要素があります。

 皆で一緒に乗ることができそうなアトラクションを探してみたが、大体が二人、または四人乗りである。こればっかりはどうしようもない。

 詰めて無理矢理乗ることもできなくはないが、やはり窮屈すぎる。席自体も二人を想定して作られているので、間にいる人はお尻が痛いこともある。


 息抜きに、園の敷地内を移動する船に乗る。船の席には人数指定の概念が無いため、横並びに五人座った。


 船から降りた時に目の前にあるアトラクションに乗ろう、という萌希の提案で、俺たちが次に乗るアトラクションはジェットコースターになった。

 有村と高梨は震えだし、高梨は意を決したものの、有村は捨て台詞のようなものを吐きながら、男性用トイレへと駆け込んでしまった。ヘタレすぎる。


 有村が乗車拒否したので、四人で乗ることになる。またしても高梨は萌希の隣を確保した。

 確実に俺のことを避けていないか?


「何名様ですか?」


「四人です!」


 スタッフの問いに萌希は元気良く答える。スタッフは慣れた動作で俺たちを二人ずつ、列に並ばせた。

 そして乗り物が目の前に止まる。ゲートが開き、俺たちは乗り込む。


「この安全バーの安心感はすごいな」


「リュック背負ってるみたい」


 さっきの射撃のアトラクションとは違い、これはジェットコースターなのだ。当然、激しく動く。ただの棒一本ではなく、体全体を肩から覆うような形の安全バーなのである。


 萌希高梨ペアはまさかの最前列である。俺たちはその後ろの二列目だ。俺も最前列が良かったなぁ。

 最後列だと、まだ落ちていないのに前列に引っ張られて、スピードだけ速くなる。俺はその感覚があまり好きではないので、結構前の席に座れたのは満足している。


 発車して、ジェットコースター定番の長い坂をゆっくりと登っていく。前の座席の高梨の顔を見ることはできないが、だいたい想像がつく。


「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」


 落下と同時に、前列から二人の悲鳴が轟く。やはり女性の声はよく響く。俺と篠宮は一言も発さず、ただ、スリルを楽しんでいた。




「外から見てたけどよ……何でお前らあんなの乗れるんだ? 途中で逆さまなってたじゃん……」


「有村くんはヘタレすぎ!」


「あ、あ、あたしだって、乗ったんだからっ! 怖かったけど……っ!」


 外で待機していた有村と合流し、萌希は早速罵倒する。高梨はまたしても、顔を軽く腫らしながら俺に抱きついている。俺と隣にはなりたがらないくせに、よくわからない。まぁ可愛いので良しとする。


 そろそろお昼ご飯の時間である。篠宮は予め調べていたが、結局は園内で食べよう、という話で落ち着いた。

 有村と萌希は食べたいものが決まっていたらしく、二人でどこかへ行ってしまった。高梨は俺と篠宮を交互に見たあと、彼らを追いかけて行ってしまった。


 取り残された俺と篠宮。


「……行っちゃったな」


「あぁ……」


 園内には、レストランもあれば、屋台のような店もある。俺は食べられれば何でも良いので、篠宮に決定権を委ねた。


「なぁ、あれ、気になるから買ってもいいか?」


「ん、良いんじゃない? 別に自由だぞ」


 篠宮がなぜか申し訳なさそうにしていたので、気にするなと言っておく。

 彼はその場からすぐ近くにあった屋台に、何かを買いに行った。


 俺は少し離れたベンチに座っていたのだが、思ったより並んでいるようで、篠宮はなかなか帰ってこない。

 気になって様子を確認しようと立ったところ、見知らぬ男に腕を掴まれる。


「っ!?」


 男は帽子を深く被り、サングラスにマスクをしていた。体型はふくよかである。まさに不審者のテンプレート。

 どこかで見覚えがあるような、などと思っているうちに、どんどん引っ張られていく。抵抗しようにも、力が足りない。どうしてこうもこの体は非力なのか。

 周りにこんなに人がいるのに、誰も助けてくれない。俺たちのことが見えていないのか、皆、素通りしていく。


「っ、おい! 止まれ!」


 男は止まらない。俺の足は体勢を崩すまいと必死に地を蹴っており、少しでも気を抜くと派手に転びそうだ。


 そして、男はついに止まる。

 そこは、薄暗く、人も全く通らない、建物の裏。

 逃げ出そうと、手に力を込めてみても、男の手は離れない。この感じ、前にもあったような──。


 瞬間、俺の脳裏に記憶が蘇る。

 それは、先週の図書室での出来事。今思えば、既視感の正体はそれだったのか。ということはこいつも一年生……?


 隙を伺って逃げようとしても、まずはこの掴まれている腕をどうにかしなくてはならない。力ではまず勝てないので、どうするか。


「……フ」


 男の口から漏れた音を聞き、全身に鳥肌が立つ。植え付けられたトラウマで体が震えだす。力も抜け、立っていることすら怪しい状態に陥る。

 体は言うことを聞かないくせに、頭は妙に冷静だ。


 男の手は俺の腕から離れ、俺の上着を脱がせ始める。

 男はモゾモゾと蠢き、カチャカチャという音とともに穿いていた物を脱ぎ始める。


 いやいや、冗談キツイって。

 本当にいるのかよ、こんな変質者。


 今なら逃げ出せるはずなのだが、完全に腰が砕けてしまい、立つことができない。

 汚らわしいモノなど見たくないので、俺はぎゅっと目を瞑る。

 周囲に広がる、鼻を刺激する強烈な臭い。考えたくもないが、これはきっとアレの臭いだろう。


 俺の頬を、熱いものが伝う。それは流れるように口に入ってくる。塩っ気がある。



 あ、俺、泣いてるんだ──。



 そう思ったとき、この薄暗い闇は、眩い光に照らされた。

蓮ちゃん情緒不安定にも程がある。

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