本気の勝負
「なんでそんな写真買ったんだよ! 俺の弱みでも握る気か!?」
「いやー、面白かった」
建物から出たあと、有村が興奮しながらまくし立ててくるが、俺たちは無視を決め込む。
というかこの写真の高梨はなかなか可愛らしい。いつも強気そうな彼女がここまで崩れるとは、これがギャップ萌えか。
次にどこに行くか話し合った結果、とりあえずブラブラすることになった。
こういった遊園地は雰囲気作りが素晴らしく、まるで日本ではないかのような感覚になる。そういう点も含め、遊園地は楽しい。
エリアごとにコンセプトがあり、観光としても楽しめる。
適当に歩いて数分。有村が「あれ乗りたい!」と指差した先には、簡単に言えば射撃ゲーム型のアトラクションだった。
拒否する理由はないので、俺たちは列に並ぶ。待ち行列の、アトラクション毎の世界観作りも楽しめるポイントの一つだ。
「ここって席が二人×二組だから一人は孤立しちゃうけど……」
「そうなのか。じゃあ俺が一人側になろう」
思い出したように言う萌希に反応したのは篠宮。一人好きそうだもんなぁ。俺も人のことは言えないけど、友達となら話は別だ。
「いや、だめだよ篠宮くん。女の子を一人にはできないし、だからといって有村くんと女の子を組ませるわけにもいかないからね」
「というと、つまり?」
篠宮が考え込むが、俺は萌希の言いたいことを理解してしまった。
彼女の有村に対する偏見が強すぎて、肩身の狭さに同情する。
「有村くん一人ね!」
「ひっでぇ! 別にいいけどよォ!」
怒りながらも了承した有村。残りの四人の振り分けは高梨の希望によって俺と篠宮ペア、萌希と高梨ペアに別れた。高梨は俺と組みたくないのだろうか。ちょっと傷付くな……。
ようやくライドが見えてくる。萌希の言っていた通り、二人席が前後に背中合わせでくっついている。
スタッフから3Dメガネを受け取って、俺が先に乗り込み、後から篠宮も乗り込む。一応、安全バーなるものを下げて体を固定する。そんなに激しい動きはしないと思うが、小さい子などが身を乗り出さないようにするためだろう。
後ろの萌希と高梨も乗り込んだようで、二人して騒いでいる。気持ちはわからなくもない。だって楽しみだもん、実際。
有村は一人遅れて、別の機体に一人で乗った。平日なのもあり、他人と相席、ということはないようで、二人席に一人で座っている。
ちら、と隣を見ると、そこにあるのは肩。やはりとんでもない身長をしている。安全バーは二人で一本なので、篠宮のお腹の位置で止まる。俺はガリガリなので、結構余裕ができてしまう。まぁ、俺はもう子供ではないので身を乗り出したりしないので問題ない。
女子と隣になるより、男子が隣のほうが落ち着くのは、やはり俺も男、ということかな。
「どうした? 始まるぞ」
「そうだな、頑張ろうぜ」
3Dメガネをかけながら、もう片方の手で銃型のコントローラーをつかむ。このコントローラーは台座に固定されており、向きだけを変えられるようになっている。これは狙うのが難しそうだ。
乗り物が動き出し、俺は意識を集中させた。
辺り一面に3D映像で的が出現する。それを撃ち抜くことが当アトラクションの目的だ。
照準などは表示されず、弾を一発撃って、そこから感覚をつかむ感じだ。この手のゲームでは篠宮に勝てる気はしないが、俺なりに頑張ろう。
進んでいくと、的の他にも鳥や風船などが現れ始めた。試しに鳥を撃ってみたら、弾は鳥に命中して撃ち落とすことができた。恐らく高得点の的なのだろうと踏んだ俺は、風船も撃ち落とす。
俺の球が風船に命中して弾けたのを確認し、心の中でガッツポーズを取る。しかし、それも束の間、俺たちに冷たいものがかかる。
「ひゃ……っ」
集中して自然と止まっていた息が漏れ、思わず声が出てしまった。水がかかるなんて聞いていない。少量ではあるが、水は水だ。
「大丈夫か?」
「あ、うん。ちょっと驚いただけ」
篠宮は口では心配そうに言うが、目線は的に固定されており、手は弾を発射し続けている。彼も濡れただろうに、全く動じない男だ。
俺も負けてられないので、気を取り直して銃を構えた。
アトラクションを終え、最後には各々のスコアが掲載されていた。俺は僅差で篠宮に負けてしまった。 他の三人のスコアを見るに、俺も結構高得点ではあったのだが、やはり篠宮には敵わなかった。
「まぁそう凹むな。俺もこんなアトラクションに本気になったのは久しぶりだ」
「凹んでないし……」
半分嘘である。俺もかなり集中して頑張って、そして僅差で。この僅差、というのが俺に深手を負わせた。途中で水なんかにビビらなければ勝てていたかもしれない。本当に悔しい。
「お前ら点高すぎないか? というかお前がレンレンに勝つなんて思ってなかったわ」
「鳴海が思っていたよりも僅差で驚いた。彼女が完全に集中していたら負けていたかもしれん」
「あーもう! わかってるから追い打ちやめてくれぇ!」
篠宮の発言がお世辞に聞こえて頭を抱える。もっとも、彼にそんな気はないのは重々理解している。
こんなことなら最初からスコア勝負なんて気にしなければよかった。女子二人組のように穏やかに楽しめばよかった。
またしても園内を適当に渡り歩く。その間、俺は魂が抜けたようになっていたそうで。
「鳴海さん? 篠宮君と何かあったの?」
「あ、いや……はは……何も」
事あるごとに、高梨から質問されていた。




