実況?
俺がここにいることについては問題ないのか、俺のこと放ってゲームを続行しやがった。しかも、誰かと話しているのか、基本的に話し言葉で喋っている。
もうさっきのような失態は犯すまいと、再び大賀の画面を眺める。相変わらず暗くてよく見えない。また何かが突然現れたら、俺は飛び跳ねると思う。
やっぱり怖いものは怖いので、別のモニターに視線を移す。そこにはたくさんのウィンドウが開いていて、俺にはよくわからないものであった。リアルタイムで何かが流れていったり、動いたり。その中には、ホラーゲームの画面も小さく映っていた。
「ちょっと事故が起きたけど、続きやろうか!」
画面に向かって一人虚しく喋っている大賀を見て、俺も有村とゲームをするときはこんな感じなのか、と項垂れた。傍から見たら完全に悲しい人である。
「ん? あー、ちょっと待ってね…………よし。蓮、いい?」
ぼーっと眺めていると、不意に大賀がこちらへ振り返る。
何を訊かれているのかわからず、怪訝な顔をしてみせると、大賀は画面を指差した。よく見てみると、とてつもないスピードで文章が下から上へと流れているのがわかった。
「……で?」
「つまりだ。蓮、お前にこのゲームをしてもらいたい」
俺の思考は一瞬停止する。すぐに動き始めたのだが、そこでやっと大賀が何をしていたのかがハッキリした。
ゲーム配信だ。人気動画サイトで、ゲームを生放送していたのだ。
まさか大賀にそんな趣味があることを知らなかった俺は、「え、あ、うん……」と曖昧な返事をしてしまった。
「おっけ! じゃあここに座って。あ、一応マスクはしておこうか」
机の上においてあったマスクの箱から、一つだけ渡された。マスクをする、ということは顔出ししているのか。彼はマスクなどしていないので、完全に素顔をネットに晒していることになる。大丈夫か、ネットの世界は怖いぞ。
大賀は俺をセンターモニターの前に座らせると、どこかからもう一つの椅子を持ってきて、そこに座った。
俺が今更になって狼狽えていると、大賀はパソコンを操作し、再び喋りだす。
「お待たせしましたね。僕の妹にやってほしいという要望がかなり多く見られましたので、頼んでみたらやってくれました!」
「え? え?」
俺はキョロキョロするが、大賀はとてもニコニコしている。ウィンドウがたくさんの画面を見てみれば、先ほどの比ではないほどのスピードでコメントが流れている。どれもこれも「うおーーーー!」や「きたーーーー!」などのテンションが高いものばかり。
「さぁ、やって? コメントなんて気にしなくていい。一人でやるときと同じようにやるんだ」
俺が一人でホラーゲームなんてやるわけがない。というか、 一人でできるわけがない。それを大賀は理解していない。
いやでも、今は大賀が横にいるから一人ではないのか?
「う……わ、わかった」
俺は震えながらも、ゲームパッドを手に取った。
俺はコメントも見ず、ただひたすらにゲームに集中した。画面全体にホラー描写が映し出される度に悲鳴を上げ、敵に追いかけられる度にわんわんと泣き叫んだ。
何とかクリアできた頃には、日付が変わっていた。
大賀は言葉を締めくくり、配信を終了した。寿命が何年か縮んだ気がする。
叫びまくって疲れ切ってしまい、俺は大賀の椅子にもたれかかる。この椅子、よく見れば有名ゲーミングブランドのゲーミングチェアだ。逆になぜ今まで気が付かなかったのだろう。
「おつかれさん! 悪かったね、急にやらせちゃって」
「ほんとだよ……まったく……。俺はホラー苦手なのに」
「ごめんごめん、でも結構楽しそうだったよ?」
この俺が、ホラーゲームをやって楽しんでいるはずがない。クリアしなくては、という使命感に駆られていただけだ。
落ち着いてきて、顔が熱いと思い、マスクを外した。
そこで、俺は思い出す。
「た、大賀! 映像どの辺まで映ってたんだ!?」
「映像? 僕はいつも肩から上だけ映してるよ」
その言葉で、俺の情けない姿が全国公開されてしまったということを思い知る。マスクはしていたものの、それだけだ。
急速に頭に血が上っていく。顔から物理的に火が出そうなほど熱くなっているのが自分でもわかる。
そんな顔を大賀に見せたいはずもなく、俺は自分の部屋へと逃げ込んだ。枕に顔を埋め、どうにかして落ち着こうとするが、逆に焦燥感に苛まれる。
どうして承諾してしまったのか、あのときの自分が憎い。
逃げるようにして携帯を眺めてみると、有村から『暇?』と届いていた。
俺にはそれに返信する気力もなく、携帯を置く。
このまま消えてしまいたい、と思いながら、俺は眠りに落ちた。
─────────
日曜日に、俺は大賀から頭を下げられた。
「頼む蓮! また配信に出てくれ!」
「絶対嫌だッ!」
何が悲しくて自ら恥をかきにいかねばならんのだ。
というか、俺は喋らないし、何か言ったと思えば悲鳴だった。そんな配信を見て何が楽しいのか。
「お前がめっちゃ可愛いって、すごい人気になっちゃったんだよ。登録者数もすごい勢いで増えてる」
「俺は中身は男だ! 可愛いって言われても何も嬉しくない!」
「その割には、すごい女の子みたいな叫び声だったけど……」
ゲーム中は必死だったので、自分がどんな声を出したかなど全く覚えていない。ましてや、悲鳴は反射的に出るものであるため、完全に無意識である。
俺はどんな声を出していたんだ?
気になって、配信アーカイブを見返してみた。
最初は大賀が挨拶して、遊ぶゲームの紹介をして、雑談しながら実況プレイ、という形だった。無駄にトークが上手くて腹立つ。
そして何度か驚かし要素を挟む。大賀は「おぉ……」と言うだけで、大して驚いていないようである。俺はアーカイブでもビビりまくった。
そして何度目かのビックリポイント。そこで、俺の叫びがバッチリ録音されていた。
自分で聞いてみると、それが自分の声であることが信じられないくらい高く、それでいて守りたくなるような悲鳴だった。
普段自分が耳にしている声は他者からは違って聞こえるというが、俺はこんな声をしていたのか?
そのまま流し続け、マスクを付けた俺が登場すると思ったら、ちょうどその辺りからはゲーム画面のみとなっていた。
どうやら、俺の顔出しは防いでくれていたらしい。なんか心配して損した気分だ。
だが、俺の声はしっかりと流れている。五回ほど俺が叫んだところで、恥ずかしくなって動画を止めた。
こんなの、生殺しだ。
俺は大賀に、アーカイブを非公開にしてもらった。




