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幸福のつかみ方  作者: TK
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閑話・篠宮仁

他にも萌希や有村の閑話もいつか書くつもりです。

 俺は篠宮仁。今年で高校一年になる。

 幼い頃から剣道一筋で生きてきた。中学の頃に、俺はついに全国制覇を成し遂げた。

 高校受験するにあたって、俺は自分の偏差値に合った高校を探した。そして、そこを受験して合格し、今に至る。


 俺のクラスは、一クラスだけ別棟にあり、他のクラスとは疎外されていた。

 あまり人と関わる気のない俺からすれば、好都合とも言えた。無駄な関わりは避けていきたいからな。

 とはいえ、クラスメイトとは最低限は仲良くするつもりだ。空気が悪くなったら面倒なのだ。


 クラスメイトたちが自己紹介をしていき、俺も適当に済ませた。

 その後、生徒同士で親睦を深めようという題のもと、話し合いをする時間が与えられた。

 俺は自ら進んで話しかけるタイプではないため、余った人と話せばいいと思っていた。

 結果的には、俺は最後まで残ることはなく、一人の女子と話すことになった。

 俺は、正直なところ、女性が苦手だ。何を考えているのかがわからず、言葉選びに苦労する。

 彼女の名は高梨瑠璃。見てくれはそこそこ良いが、話してみても、特に何かを感じるわけでもなく、その日は終わった。

 俺は自転車を飛ばして家に帰る。


 翌日、早速欠席者が現れた。

 鳴海蓮、という男子生徒だ。先日は鳴海と仲良さそうにしていた萌希神奈子が酷く暗い顔をしていた。

 俺は鳴海に何かがあったのだろう、と思ったが、俺が口出しをすることではない。

 その翌日に、俺たちは先生から鳴海が入院した、ということを聞かされた。


 最初の一週間はあっという間に終わり、土曜日、俺はショッピングモールのフードコートでラーメンを啜っていた。

 すると、俺に近づいてくる二人の女子に気がつく。

 その片方は、今までと比べようもないくらいの明るい表情の萌希だった。恐らくだが、鳴海に何かあったのだろう。

 そしてもう一人の少女を、俺は見たことがなかった。


 萌希の友人であろう少女は、萌希の後ろに隠れてしまうほど小柄で、少しつり上がった、大きく可愛らしい瞳が、不安そうにキョロキョロと動いている。

 まぁ無理もない。俺は190センチを超える大男な上、それなりに強面だと自負している。初対面では怖がるのも頷ける。


 萌希もこの席で食べたいらしく、俺は二つ返事で了承する。問題はこの少女だが──。


「し、しのみ、ゃ……」


 なんと、彼女の口から俺の名が発せられたのだ。

 その消え入るような、か細くも可憐な声に、俺は少しだけ動揺する。


「……ん? 面識があったか?」


 動揺を極力隠し訊いてみると、彼女は小さく頷いた。

 これほどの美少女なら、一度見れば忘れないはずだが、それでも俺の記憶にはなかった。

 失礼を承知の上で、俺は言った。


「いや……申し訳ないが、俺は君を知らない」


「……」


 俺たちの間に、気まずい空気が流れる。

 萌希も何かを言いたそうにしているが、口には出せないようだ。

 すると、目の前の少女が大きく深呼吸をして、ゆっくりと告げた。


「……俺は、お前と同じ……L組の鳴海だ」


 と。


 俺の頭はこんがらがった。鳴海は男だったはずだ。間違いなく。

 確か、読書が趣味の前髪が異様に長い男だった。

 だが、萌希の先程の嬉々とした顔からして、鳴海が復活したことは間違いないと思う。

 本当に、この少女が鳴海なのか。


 俺はあくまでも平静を装って彼女たちと接した。

 するとどうしたことか、萌希から荷物持ちに誘われてしまった。

 俺はこの後することもないので了承したが、鳴海は大丈夫だろうか。


 俺たちは食材売り場に来た。

 俺の胸までしかない小さな少女が、俺の前で背伸びをしたり、ぴょんぴょんと跳ねている。

 同時に、周囲の客からの視線が俺たちを襲う。

 この注目は、明らかにこの少女──鳴海に向けられたものだ。多少は俺にも向いているだろうが、九割は彼女に向いている。

 下を眺めながら、何をしているのか問う。

 そして俺を見上げる彼女とまっすぐに目が合う。


 俺は庇護欲に駆られた。その後のことはあまり覚えていない。

 家へ着いた頃にハッとして、俺は知らぬ間に彼女と連絡先を交換していたようで、メッセージが届いた。

 俺は冷静にメッセージを返し、ベッドに寝転がった。



 あの顔が忘れられない。



 それから色々あり、彼女が女子からいじめられたことを聞いたときは、その女子どもを叩き潰してやろうと思った。

 家に上がらせてもらって、格闘ゲームを教えてもらった。

 料理を食べさせてもらったときには大層感動した。こんな美味い料理を作る人間がいるのか、と。

 鳴海は女性だが、元が男性ということもあり、とても話しやすかった。


 後日、俺は告白された。

 相手は高梨だった。鳴海がわざわざ女子たちを気遣って、離れにあるトイレを利用しているというのに、そこまで着いてきての告白だった。

 当然、俺は断った。

 彼女は半笑いになりながら、俺との会話を続けた。どうやらダメ元だったようだ。

 そこで、鳴海からのメッセージに気がついた。遅くなるから先に行っててほしい、と。

 俺はそれを萌希に伝え、高梨の相手をしながらその場で待ち続けた。


 しばらくして、鳴海はようやくトイレから出てきた、と思えば、突然走り出したのだ。

 俺は咄嗟に捕まえるが、彼女はまた、隙を見て逃げ出し続けた。

 理由を聞いてみても、彼女は答えてくれない。

 俺は我慢できなくなり、彼女を腕に抱いて、屋上へと走り出した。

 その時初めて知ったのが、彼女の体重だ。身長は152センチだと聞いていたが、抱えた感じは40キロ程度しかなかった。

 あまりにも軽すぎる。心配だ。

 そして、そんな細い肢体にも、俺の体の節々が少し沈むほど、柔らかかった。


 萌希には叱られた。



 彼女との関わりはまだ一週間ほどだが、既に俺の彼女に対する思い入れは強くなっていた。

 もう、彼女の傷付く姿を見たくない。


 俺が、俺が守らなくては。

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