表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福のつかみ方  作者: TK
25/73

葛藤

誤字が多すぎて、誤字報告には本当に助かっています。ありがとうございます。

 女子の五人班も高梨のことが心配なようで、多少ざわめき合っている。

 高梨は女子グループのトップ的な人物らしいが、この学校にもカーストなどというものは存在するのだろうか。

 現代社会において、たかがただの高校でそんなものが在るとも思えないので、彼女はカリスマ性が高いのだと勝手に認識しておく。


 細谷先生が飛び出した高梨を追いかけて外に出たところで、元から騒がしかった教室は更に騒がしくなる。他のクラスが同じ棟ではないので騒ぎ放題だ。


 案の定、女子たちが俺を睨みつける。俺は何もしていない。高梨が勝手にどこかへ行っただけだ。

 ゆっくりと、女子の一人が俺たちの班に近づいてくる。これは面倒事の予感。


「俺たちに何か用か?」


 女子の行動にいち早く気づいた篠宮が、俺を庇うように前に立ちふさがる。

 それに続いて、萌希と有村も俺の歩いてきた。

 守られているような感覚に陥り、男としては情けない限りである。


「瑠璃に何したの?」


「私たちは何もしてないよ。というか、本人が戻ってきたら直接聞きなよ」


 女子の質問に答えたのは萌希だ。

 その通りである。俺たちは何もしていないのだ。気づけば、なぜか高梨が床と仲良しになっていたのである。


「ウチは鳴海に訊いてんの」


「えっ、俺?」


 篠宮が大きすぎて女子たちの顔は見えないが、彼女らの口から俺の名前が出たので思わず素っ頓狂な声が出た。


「先週から思ってたけど、その態度、一人称、容姿ともども気に食わなかったのよ……!」


「は、はぁ……」


 そうですか、としか言えない。

 こんなことをこの場で言える彼女の勇気に乾杯。


「特にそのナリは何よ!? なんで偽物のくせにウチより可愛いの!? くぅぅ、いじめたくなる……」


 勢いに任せた彼女の発言に、俺たちは呆気にとられる。開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 珍しく、篠宮もその感情を面に出していた。

 言ったあとに気づいたのか、彼女の顔が急激に赤く染まっていく。


「〜〜〜っ!!」


 彼女は声にならない叫び声を上げながら、班員の元へと逃げていった。班の女子たちに宥められているその姿を、俺たちは眺めることしかできなかった。


 俺も咄嗟のことで、頭の整理が追いついていない。ゆっくりと思考を巡らせてみると、とりあえず、容姿が褒められていることはわかった。

 ……いや、いじめたいとか言ってたし、褒め言葉ではないのか?



 ──どうしよう、この学校で穏やかに過ごせる気がしなくなってきた。


 ─────────


「何が偽物よ、蓮ちゃんは完全に女の子なのに!」


「割と突き刺さるぞその言葉は」


 女子が戻ったあと、萌希が見るからに不機嫌そうな顔で腕を組んでいた。

 俺は元男なのだから、本物の女子ではない。そんなことは充分わかりきっている。

 それに対するフォローなのかは知らないが、俺自身、まだ女としての意識が薄い。その上、俺は心は男のままでいたいと思っている節がある。

 もっとも、男の心とはいっても、特に女性が好きなわけではなく、だからといって男が好きなわけでもなかったが。


「なぁ篠宮」


「む、何だ」


 俺は疑問に思ったことを篠宮にぶつけてみた。


「『男』って何なんだろうな」


「男、か?」


 俺の質問の意味を考えているのか、顎に手を当てて深く目を瞑る。

 突然こんな意味不明なこと訊かれても困るよな。


「ごめ……」

「俺が思うには、女性を好きになるもの、だな。恐らく、生物学的なことを訊いているのではないんだろう?」


「あ、うん……」


 俺の謝罪を遮るように長文が述べられる。


 女性を好きに、ねぇ。

 俺は思春期をスルーしていると父によく言われていた。当然、体は変化している。気持ちの面で、だ。

 その他、献身的すぎる、己の幸せに無頓着、など。

 幸せに無頓着と言われても、俺にとっては他人に尽して、その人が嬉しいなら俺も嬉しいんだけどなぁ。


「じゃあ『女』は?」


「む、それは俺には難しい質問だな……」


「うーん、そうだよなぁ。ごめん」


「蓮ちゃん。それはね、篠宮くんの言ってた『男』と逆って考えればいいよ」


「んー、逆かぁ」


 そういえば萌希は女子じゃないか。今すごい失礼なことを考えたような気がするが、気にしないでおこう。


 男の逆、というと。

 つまりは男性を好きになる、ということだ。


 シンプルだな、異性が好きになるだけの単純なものだった。

 たまに例外として同性愛者もいるようだが。


 では、『好き』とは何なのだろう。


 ……いや、俺には関係のない話だ。今を楽しく生きられればそれでいい。


「まぁいいや、なんか変なこと訊いてごめんな」


「……俺で良ければいつでも力になるぞ」


「私も」


「エッ、何、そういう流れ? ウオオオオオ俺も力になるぞォ!」


 皆の親切が暖かい。





 しばらくして、細谷先生が高梨を連れて帰ってくる頃には、午前の授業時間は残すところあと三十分であった。

 高梨のやつ、二時間くらい見つからなかったらしい。一体どこで何をしていたのやら。

 教壇でお叱りを受けている高梨を気にしながら、俺たちは昼休みまで雑談していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ